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冒険者サポート【職業・サービス】

アイテムボックスを持たない冒険者だって大きな獲物を持ち帰りたいと思っているはずなのです。

「いかーすかー。冒険者サポートはいかーすかー」


 冒険者がよく依頼で訪れる森の入り口。

 俺は今日も荷車の上から声をかける。



 俺は冒険者としてギルドに登録した。

 しかし、日本からの転移者である俺はどうにも生き物を殺すことがダメだった。

 とはいえ薬草採取だけでは生活がままならないので、何かできる事を探した。


 冒険者はギルドで依頼を受けて遂行し、ギルドから報酬をもらうことで生活している。

 そして依頼は薬草の採取から魔物の討伐までいろいろだ。


 討伐依頼の冒険者は薬草採取ができる森のさらに奥へ行く。

 荷物も多い。

 森の中から出てくる冒険者たちは傷だらけだが皆誇らしげで、たまに毛皮などを背負って出てくるパーティもある。


 俺はそんな冒険者をうらやましく眺めつつ薬草採取の日々を送っていたが、ふと気が付いた。獲物をまるごと持って帰る冒険者が非常に少ない事に。


 討伐対象は猪や狼や熊、オークやゴブリンなどいろいろだ。

 ゴブリンは持って帰ってもしょうがないとしても、動物系はそれなりに買い取ってもらえるはずだ。しかし持って帰る冒険者は少ない。


 理由はこの際なんでもいい。

 恐らくデカイからとか重いからであろう。


 重要なのは獲物にロスが発生しているという現実。

 冒険者としても売りたいだろうし、ギルドとしても買い取りたいはずだ。

 俺はここにビジネスチャンスがあると睨んだ。



「いかーすかー。あ、ダンゴロさんお疲れ様です! 調子はどうすか?」


 森の中から髭面の男が出てくる。

 狩人で構成されたパーティのリーダー、ダンゴロだ。


「ワイルドボアを2匹仕留めた。アレを貸してくれ」


 俺はダンゴロから金を受け取り荷台の脇に立てかけてあるソリを2つ用意する。

 バナナを寝かせたような形のソリは獲物を運ぶためのもの。

 ソリがあれば100キロサイズの獲物でも冒険者一人で引きずる事ができる。


 しかし獲物がない時のソリはただ邪魔なだけ。

 そこに目を付けた俺はソリのレンタルを始めた。

 獲物を狩ってからソリを借りれば無駄がないわけだ。


 ダンゴロがソリをひっぱって森に戻ってからしばらくしてダンゴロと4人の冒険者がソリに獲物を乗せて森から出てきた。


「この2匹をギルドまで頼む。加工はいらない。まるごと運んでくれ」


 2匹のデカイ猪を荷車に運び込み俺に声をかけるダンゴロ。

 俺はダンゴロに割符を2枚渡し、割符の片割れをそれぞれ獲物にくくりつける。


「まいどあり! ワインあるけどいります?」


 ダンゴロたちはもう一度森に入るために休息の準備をしている。

 ワインがあればより盛り上がるだろう。

 代金を受け取った俺は荷馬車を引くロバにムチを入れて森を後にする。




 俺が始めた仕事、それは冒険者のサポートサービスだ。

 冒険で足りなくなりがちなポーション、食料、酒、布やロープを必要に応じて森の入口で販売。ソリをレンタルし獲物の運搬を助け、運搬された獲物をギルドまで荷馬車で運んで解体に出す。


 獲物を預かる際には現地で依頼者に割符を渡し、依頼者はそれをギルドに持って行けば解体された獲物を受け取ることができる。俺は獲物の売却額の一部をギルドから受け取る。


 この仕組み(システム)をギルドに提案し俺が作った。


 冒険者は収入が増えるし運搬が楽になる。

 ギルドは買い取り素材が増える。

 俺は生き物をぶっ殺さずにお金が稼げて感謝もされる。

 Win-Win-Winだ。


 一応信用商売なので許可制にしてくれとギルドには言ってあるがいずれ追随者は出るだろう。それでもやれることはまだまだある。

 力がある人を雇って運搬の手伝いをしたり、料理を提供してケータリングもいいだろう。

 野営の達人がいればもっと遠くの場所で大物の依頼のサポートもできるかもしれない。


「夢は大きくドラゴンの運搬だな!」


 殺生せずにお金が稼げるこの仕事は俺に向いている。

 冒険者なのか商人なのか怪しいところだが、仕事が楽しければ些細な事だ。


 え? アイテムボックス?

 そんな便利な物はこの世界にはないのだ!



 ーーーおまけーーー


 異世界作品に欠かせない冒険者ギルド。

 冒険者たちはギルドの依頼をこなして生活しているわけです。


 この話を思い立ったのは「とんでもスキル」などのアイテムボックスをフル活用する作品を読んだときに、アイテムボックス持ってない冒険者はどうすんだろ?って事でした。


 モンハンシリーズは狩るまでがゲームですが、狩ったあとは台車にくくりつけて運搬する様子がオープニングムービーなどで表現されています。

 異世界の小説ではどうかと言えば、主人公はアイテムボックスを持っているか、倒した魔物がドロップアイテムに変化する異世界です。


 だいたいにおいて魔物はデカイ。

 デカイって事は重いって事です。

 そんな獲物、どうやって持って帰るんでしょう?


 獲物の解体はギルドでやってる事が多いですが、アイテムボックスを持たない冒険者が持ち帰るのは比較的軽量で価値がある部分のみで、現地で解体されたものがほとんどのはずです。

 そして現地解体が一般的だった場合、ギルドの解体部の必要性が薄くなってしまう。


 それを解決する方法を考えた時に出てきたのが今回の冒険者サポート。

 要するに運び屋ですね。狩場の近くで待機して、依頼を待つタイプの運び屋。

 これがあればギルドの解体部も繁盛間違いなしなわけです。


 専門の業者がいなければ初級冒険者の仕事にしてもいいと思います。

 狩場までの移動、先輩達との交流、狩りのノウハウ、冒険の際のケーススタディ。

 そこそこ安全に冒険者としての生活が学べるのでないでしょうか。


 トラブルもいろいろ考えられますけどね。

 運搬中に狙われるとか、獲物をちょろまかすとか。

 こちらは依頼者も一緒に運搬してしまえば問題ないのですが、一番困るのはサポートを殺して荷車を奪う奴が出る事ですかね……

 リスクに対してあまりにリターンが少ないのでやる人はいないとは思いますが。



 今回本文で書いたサポート屋は物販もしていますが、販売は現金に限りません。

 依頼中に依頼以外の獲物を得る場合もあるし現金より重くかさばる現物で払いたいという需要があるからです。この話の主人公は多少レート高めの物々交換でも物販を行っています。


 主人公は少量の販売物と水が入った樽を積み込んで森に向かいます。

 水はいくらあっても困らないし余ったら捨てればいい。水を無料サービスすれば冷やかしでも認知度は上がるだろうという日本人的考え方で動いています。

 そして森の入口で挨拶しながら客を待つのです。


 大物を狩った冒険者が出れば大当たり。

 お客がいなかった時は街に帰る冒険者を格安で乗せて帰ります。

 残念なことですが亡くなった冒険者を運ぶ事もあります。

 その場合の運賃は、無料です。

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