魔物素材はなぜ強い【武器・アイテム】
魔物武器は漢のロマン!
しかしどうして魔物武器は鉄の武器より強く、高価で、レアなのか?
もちろんそこには異世界の法則があるのです!
「なあおっさん」
「おっさんではないガイラスだ」
鍛冶屋のドワーフは背を向けハンマーを振るったまま答える。
「なんで魔物素材で武器作るんだ? 鉄製の方が強いだろ?」
この世界では割と魔物の素材を使って武器を作る。
しかし、鉄の武器で倒せる魔物で武器を作っても鉄の下位互換しか作れない気がするのだ。
「おめぇそんなことも知らずに解体屋なんてやってるのか」
しょうがねえなとガイラスは20センチぐらいの牙を持ってくる。
割とよくいる猪の魔物の牙だ。
「こっちが魔力たっぷりのとれたての牙。もうひとつが2カ月前ぐらいに入荷して魔力が抜けた牙だ。叩いてみろ」
牙を2本とハンマーを渡されたのでそれぞれをハンマーで叩く。
キンキンと音がするのはとれたての牙。
古い方の牙はコンコンとやや鈍い音がする。
手ごたえでもわかるが明らかに固さが違う。
「こんなに違いがあるのか」
俺は異世界に来て特に仕事がないので解体屋で働いているが、基本的にとれたての牙しか触ったことがない。
時間と共に強度が変わるとは知らなかった。
言われてみれば時間経過で解体しやすくなっていたような気がしないでもないが……
ガイラスが言うには魔物素材に含まれる魔力が素材の強度を増すらしく、新鮮なほど強度のある武器になるが、固い分加工が難しいとの事。
魔物素材でできた武器は身に着けていれば装備者から漏れ出る魔力を吸収する事で強度を維持するため長持ちする。鉄製武器にはないアドバンテージだ。
「古くなった素材はどうするんだ? 捨てるわけじゃないんだろ?」
「古くなった方は使い方が変わる。砕いて鉄を混ぜて焼くことで鉄と魔物素材のいいとこどりの武器になるんだ」
おお。すごいじゃん。
古いものでも有効に使えるというか古い方が使い勝手がいいのか。
それなら全部古い方でよくね?
「ところが古い素材は魔力が抜けている。だから加工する時に魔力を補ってやらないと特性が戻らない。そのためにどうするかと言えば」
ガイエルは手のひらから炎を出す。
「火の魔法を使う」
「マジかー」
「数に限度があるのがわかるだろ?」
魔法の炎を使って加工する事で抜けた魔力を焼き入れ、魔力が混ざる事で素材の結合力を高めているらしい。原子結合的なアレだろうか?
なんにせよ鍛冶作業で魔法を使い続けるのはコストが高い。
火魔法の使い手を何人か用意する必要があるだろう。
「それに素材から魔力が抜けるまでの時間がまちまちでな。竜種の素材だと魔力が抜けるまで1年かかるとかザラだ」
そりゃまた忍耐が必要だな。
逆に寝かせた素材の方が価値が出たりしそう。
「しかしそんな事まで俺に教えていいのか? ドワーフの秘伝じゃないの?」
ガイラスはワハハと笑う。
「秘伝は秘伝だが知識だけでできるものでもない。素材の見極め、鉄の比率、火の温度、焼成の時間。使い物になるまで10年はかかるだろうよ」
要素が多すぎるな。
俺は魔力持ってないから魔法使えないし難しそう。
そもそも鍛冶屋でもないが。
「新しい素材は労力はかかるし素材以上の大きさは作れないがそれなりに強い武器が作れる。古い素材はサイズの制限がなくなり性能も高いがコストがかかるし腕もいるってわけだ」
鍛冶屋としては後者の方が楽しいがなとガイラスは笑う。
なかなか奥深いな魔物武器。
ん? ちょっと待てよ?
「なあ、おっさん。柔らかくなった古い素材で武器を作って火の魔法で魔力を補えばわりと簡単に武器作れたりしねぇの?」
ガイラスは眉をピクリと動かす。
「そこに気が付くとはなかなか頭が回るようだなかりあげ」
かりあげじゃねぇし。ツーブロックだし。
「それに魔力が補えればいいんだろ? クズ魔石砕いて混ぜたり一緒に燃やしたりすればなんとかならねえかな?」
俺が思い付きを口にすると今度こそガイラスは目を丸くする。
「お前なかなか鍛冶の才能ありそうじゃないか。明日からウチに通え。鍛えてやるぞ」
ガイラスは獲物を見る目でニヤリと笑う。
いやだよ解体屋あるし。
肉体労働のダブルヘッダーとか死ぬわ。
「人間族の寿命は短い。すぐに始めないと鍛冶道を極められないぞ?」
「いや、極めるつもりないから」
弟子入りは断固拒否したものの、ヒマさえあれば連行されて結局鍛冶仕事を叩きこまれる事になった。
まぁ、解体屋で使う道具を自前で作れるようになったのはよかったけどな。
趣味でやる分には楽しいし。
竜種の武器もいつか作ってみたいものだ。
―――おまけ―――
魔物素材の武器の話。
モンスターの素材で武器を作ると言えばモンハンです。
モンハン以前にも生産や合成やモンスター装備はありましたが、素材は普通の鉄だったり、武器の状態でドロップされたりするのが常でした。
魔物素材で武器を作るというのはロボット、乗り物と並ぶ三大ロマンのひとつです。
ひとつなのです(断言)
魔物素材の武器は素材となる魔物が強いほど強力とされ、より強い武器を求めて強敵に挑むのがゲームの主な流れになっています。
しかし現実はといえば、象牙は装飾品ですし、鹿の角は毎年のこぎりで切り落とす行事が奈良で行われています。
いまいち強いイメージがありません。
やべぇと思うのは鮫の歯ぐらいですかね。
これではいけないということで、魔物素材で作る武器は強いという理由を考える事にしました。
そこで出てきたのは異世界おなじみの魔力。
そして魔物が持っていることが多い魔石です。
異世界作品における魔物が持つ魔石は「魔力を多く含み、強く大きな魔物ほど大きな魔石を持つ」というのが普遍的な特徴です。
魔石が大きい魔物は強い=魔石が身体に作用するから強いという事にしました。
魔石が持つ魔力が爪や牙に作用し攻撃力を高めるというルールです。
多くの異世界において人間は魔石を持たないので、人間はパワーアップできないという区別も可能になりますし、鉄の武器が通らない魔物の存在にも説明がつきます。
そして素材に含有魔力の概念を作って、魔力を含むと強くなるというルールを作ります。
異世界独自の鍛冶技術である事をアピールする事で科学的ツッコミを回避するわけです。
我ながら小賢しいとは思いますが地球だとどうしても金属が強いので仕方がありません。
魔物の強さと武器の強さの関係は作者次第です。
大事なのは魔物で作った武器が鉄の武器より強い事なのですから。
まぁ弱い魔物素材の武器は鉄より弱くていいと思いますけどね。
使う鉄が少ない割にそこそこ使えてお得みたいな感じで。
追加ルールもいろいろ考えられます。
骨は強度を上げて角は刺突系に向いていて爪は切断系がいいとか。
魔力が通りやすいからスキルが使いやすいとか。
魔物のスキルが使えるようになるとか。
素材を混ぜると特性が増えるとか。
この辺は手に負える範囲で足していくと楽しいと思います。
いかがだったでしょうか。
ルールの全てを作中で説明する必要はありませんが、ルールを下に敷いておくことで世界に深みを持たせることができるでしょう。たまにルールにつまづいてやりにくい事があるかもしれませんがそんな時は話が面白い方に舵を切りましょう。
足りないところはきっと魔法が解決してくれるはずです。