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言語【世界・魔法】

プロローグ的な感じ。


魔素と魔力についてのおまけコーナーがあります。

「ヨハン様! ヨハン助祭様!」


 無精ひげを生やした中年の男が教会に飛び込んできました。


 農家のダグムントではないですか。

 どうしました?


「それがーーー」


 畑に行き倒れがいたから介抱してみたが酷い苦しみようで体には斑点が出ている?


「流行り病かもしれねえんで家においてきたんですがどうしたらいいか」


 斑点ですか。

 万が一もありますから見に行きましょう。

 ラナ、私の外套を持ってきてください。


 声をかけると元気に返事をして栗色の髪をゆらしながら奥の部屋へ駆けていく。

 ポーションはこれと、念のためこれも持って行きましょう。


 棚から緑の液体が入った小瓶と透明の液体の入ったさらに小さな小瓶を取り出します。


「ヨハン様どうぞ!」


 戻ってきたラナから外套を受け取って羽織ります。

 ラナがニコニコとこちらを見ているので礼を言って頭を撫でてやると嬉しそうに頬を緩めました。


 私はダグムントと共に彼の家に向かいます。



「こちらですヨハン様」


 土壁でできた家に入ると、男のうめき声が聞こえます。

 藁が敷き詰められたベッドに横たわる男は黒髪で、この辺りでは見かけない服を着ています。生地はなかなか上等。身分は低くなさそうです。


 脂汗が浮かぶ顔には青黒い斑点が浮かんでいます。

 私は固く閉じられた瞼を指で広げて目の状態を確認します。


「どうですかヨハン様」


 不安そうなダグムントの声に流行り病ではないと答えます。

 青い斑点、目の充血、苦しい呼吸。

 最近では見なくなった「魔力酔い」の症状です。

 念のために持ってきた透明の液体を無理矢理男の口に突っ込んで飲ませました。


「魔力酔いですか? この歳で?」


 魔力酔いとは魔力を持たない者がかかる中毒症状のようなもので、この地域では生まれた赤子に先ほど飲ませた『祝福のポーション』を飲ませることで予防しています。

 男はどう見ても成人。

 ポーションを飲まずに過ごしていれば成人する前に魔力酔いで死んでいるはずなのですが……


 ひとまずこの男は教会で預かります。

 ダグムント、荷車を借りてきてください。



 しばらくして行き倒れの容体は落ち着き、2日後には目を覚ましました。

 ポーションがあったとはいえ体力の消耗は激しかったはずですが、運がいい男ですね。


 しかしこの男、全く言葉が通じません。

 体のあちこちを叩きながら「シュマホア? シュマホア?」と繰り返していたのは聞き取れましたが意味はわかりません。

 ひとまず教会に併設されている孤児院で食事を与えつつ様子を見ることにしました。


 薄い麦の粥を与えると口に合わなそうな顔をしましたが、孤児院の子供達を見てか渋々といった様子で全て平らげます。


 食事を与えた後、意思の疎通を試してみます。

 自分を指差し「ヨハン」と繰り返します。

 すると黒髪の行き倒れは私を指差し「ヨハン」と言います。

 私が笑顔で頷くと、男は自分を指差し「ダイチ」と言いました。

 ラナを呼んで、「ラナ、ヨハン、ダイチ」と順番に指差しながら言うと、男も同じように指差しながら言って、笑います。


 男の名前はダイチと言うようです。



 さらに数日後、ダイチは歩けるようになりました。

 もう体調は問題ないようです。


 手持無沙汰にしていたので薪割りの仕事を与えます。

 斧を指差しながら「ワッ、ワッ」と声をかけてきますが、ちょっと何言ってるのかわかりませんね。

 自分を指差し、私を指さし、斧を指さし「ダイチ、ヨハン」と言っているので私が斧を指さし『(エルグ)』と言うとダイチは満足したように頷き「斧! 斧!」と繰り返しながら薪を割り始めました。

 どうやらダイチは言葉を覚える努力を始めたようです。



 ダイチは事あるごとに孤児院の子供達を捕まえては言葉を教わっているようです。

 いつの間にか教わるために子供を追いかけると面白がって子供が逃げ、捕まると言葉を教えるという謎ルールが出来上がっていました。


 子供と遊んでくれるのはありがたいですね。

 ダイチが身体強化を使えないようなので子供達も身体強化はあまり使っていないようです。

 子供達に相手を思いやる心が育まれて神もお喜びになるでしょう。


「斧! 斧!」


 ダイチが樹皮を私の前に持ってきました。

 それには炭で書いたであろう斧の絵と見た事がない文字が書いてあります。

 ダイチはなかなか絵が上手いようですね。


 ダイチは斧の絵と謎の文字を指さしながら「斧、斧」と繰り返します。

 私が首をかしげていると、文字をなぞりながらゆっくり「斧」と言い、絵の下のスペースをなぞりながらゆっくり「斧」と繰り返しました。


「もしかして、文字を書いて欲しいんじゃないですか?」


 様子を見ていた孤児院で最年長のセレナが言います。

 ああ、なるほど。

 私は空欄に文字を書き込むと、ダイチは手を叩いて「エス! エス!」と喜んだ。

 文字まで学ぶ意欲があるのは驚きです。


 基本的に村で読み書きができるのは私と村長、あと代官のクリストファー様ぐらい。

 当たり前のように文字を学ぼうとするダイチはやはりそれなりの身分だったのでしょう。



 ダイチが作る樹皮でできた絵と文字の札は少しずつ孤児院の壁を埋めていきました。

 なかなか勉強熱心な事ですね。

 それにつられて他の子供達も……ん?


 ラナ、手に持っているのは何ですか?


 ラナがダイチの真似をしてか樹皮の裏側に絵を書いているのですが、手に持っているのは小指ぐらいの太さの木の棒。


「ん-とね、ダイチにーちゃんがくれたの。『エンピツ』って言うんだって」


 ラナに借りて見てみると、木の棒の真ん中に炭が入っているようです。

 それを削って尖らせる事で書きやすくなり、手も汚れない。


 これをダイチが作ったんですか?


 ラナが頷いて指差す方にはナイフを片手に木片と格闘しているダイチの姿がありました。


「ヨハンさま、こんにちわ、わたしげんき」


 努力の甲斐あってダイチも少しずつ話せるようになってきました。

 エンピツについてダイチに聞いてみると、ダイチが実際に見せてくれます。


 ナイフで彫った板の溝に炭の棒を入れて、接着剤を塗ってもう一枚の板で挟む。

 くっついたら棒状に切って完成。簡単ですね。

 しかし炭の棒では脆くて使い物にならないでしょう?


「炭、土、まぜる、やく、げんき」


 そこは「元気」ではなくて「丈夫」ですよ。

 なるほど、炭と土を混ぜて焼くことで固くなるわけですね。

 見た目は悪いですが、十分使えますね。


「ヨハンさま、エンピツ、かう? うる?」


 私にエンピツを買えと言うのですか?

 いや、売り物になるかという事ですかね。

 売れるかどうかで言えば売れるかもしれませんね。

 ただ、文字を書く人自体が多くはないのでたくさんは売れないかもしれませんね。


 私が言ったことを理解したのかダイチは肩を落とす。

 教会も孤児院もあまり余裕を持った運営ではないのはダイチにもわかるのでしょう。

 何かしらの売り物ができて恩を返せればというダイチの意志は嬉しく思います。


 ダイチの頭をなでながら礼を言うと、照れくさそうに鼻の頭をかくのでした。



 ーーーーー


「と、いうことで次に村に来るのは十日後ぐらいですかね」


 私は村の市に買い出しに来ています。

 欲しいものがあったのですが今回は仕入れていなかったので次回になりそうです。


 次の行商は十日後……と。

 木札にエンピツで書きとめます。

 こうして使ってみると液体のインクを持ち歩く必要がないので意外と便利ですね。


「助祭様、それはなんです?」


 おや? 商人のエヴァンが興味を持ったようです。

 エンピツを手渡し、文字を書くための道具だと説明すると、羊皮紙や木札に試し書きをしています。


「羊皮紙には書きづらいですが木札にはいいですね。どこで手に入れたんですか?」


 エヴァンが商人の顔になっています。

 いやもともと商人ですが目の色が変わったようです。

 よかったですねダイチ。売れそうですよ。


 結局5本につき麦1袋、ただしもう少し仕上がりをきれいにする。

 ということで商談が成立しました。

 麦が1袋あれば半月ぐらいは孤児院が飢えずに済みます。

 あるいは量を増やす事もできるでしょう。

 地味に、いやだいぶ助かりますね。



 孤児院に帰り、ダイチを探します。

 エンピツが売れるとわかったらきっと喜ぶでしょう。


 あ、いましたね。

 ダイチ! エンピツが……なんですかそれ?


 ダイチは編みカゴのような箱を持っていました。


「これ、オリコン」


 オリコンと言うのですか。

 編みカゴは普通にどこででも売ってますよ?


 ダイチは顔の前で指を振ってチッチッチッと舌を鳴らします。

 地味にイラっときますね?


 ダイチは箱の側面を押して壊してしまいました。

 強度が足りなかったようですね。


 残念そうな目で見つめる私をダイチは不思議そうに見ていましたが、何か思いついたのか手をポンと叩くと壊れた箱に手を伸ばします。


「ヨハンさま、みる」


 ダイチが壊れた箱の縁を持ち上げて箱の側面をポンポンと叩くと再び箱になりました。

 壊れた箱が元通りに!?

 なんですかそれは? 魔法ですか?


「これ、オリコン。使わない、小さい。使う、大きい。ナイス」


 あっ、すごいドヤ顔ですね。

 使うときは箱にして、使わない時は小さくできるってことですか。

 これはすごいですね。


「ヨハンさま、オリコン、うれる?」


 売れると思いますよ。

 行商人のエヴァンは間違いなく食いついてくるでしょう。

 商人だけではなく代官様も、村の人も欲しがるのではないでしょうか。


「ヨシ!」


 ダイチが両手を挙げて叫びます。

 ヨシはダイチが喜ぶときによく使う言葉です。

 きっと故郷の言葉なのでしょう。


 でもですねダイチ、エンピツを買う人が出て来たんですよ。

 先にエンピツから作ってもらっていいですか?



 これが異世界に流されてしまったダイチの物作りスローライフの第一歩だった。



 ーーーーーおまけ(魔素と魔力)ーーーーー


 世界設定に関わるのは冒頭の「魔力酔い」です。


 この世界には魔素と呼ばれるものが満ちています。

 そして魔素は人体に有害です。


 分厚い壁を隔てれば魔素は減衰するため、昔の人類は地下や洞穴に住んでいました。

 それでも徐々に魔素に侵されて倒れ、当時の人類の寿命は短く30年ほどでした。


 人類に転機が訪れたのはとある植物の発見。

 その植物を煎じて飲むと魔素の悪影響が軽減される事がわかりました。

 それと同時に不思議な力を持つ人類が現れ始めます。

 彼らは共通してその植物を摂取した者達でした。


 人類は研究を重ね、植物から作った薬が魔素を不思議な力に変換していることを突き止めます。その不思議な力は魔力と呼ばれるようになりました。


 というのがバックストーリーです。


 この話で主人公が魔力酔いを起こしたのは魔素を魔力に変換する成分|(ビフィズス菌的なもの)を持っていないからで、ヨハンが飲ませた「祝福のポーション」はその効果を与えるためのものです。


 この世界の住人は生まれてすぐに祝福のポーションを与えられるため、魔力酔いは起こさないし、魔力も「生まれ持ったもの」として認識しています。

 祝福のポーション自体も「子供に祝福を与える宗教的な物」という認識です。

 教会関係者は知識として祝福のポーションの効果と意味を知っています。


 この魔素、勘がいい人は気付いてるかもしれませんが、モチーフは放射線です。

 体内に蓄積された放射線|(魔素)をビフィズス菌的な物が魔力に変換して無害化する。

 そうして人類は地上を手に入れる事ができたわけです。


 魔力は無限に体内に蓄積されるわけではなく、魔力が満ちたら体内から放出されていく感じで、放出を抑えれば上限を超えられるかもしれません。知らんけど。


 魔物は体内に魔石を持ち、魔石が魔素と魔力の変換を行います。

 魔物の魔石は天然の変換装置なのでマジックアイテムに使われる、というわけです。


 魔物は魔石の影響を受けて成長するため、魔素が濃い場所ほど成長が早く強力になります。

 魔素が減衰するはずの地下ダンジョンにおいても魔物が元気なのはダンジョンの奥に魔素を発生させる何かがあるからだと噂されています。

 だから奥に行くほど魔物が強くなるのだと。


 実際に何が魔素を出しているかは適当です。

 地上に蓄積した魔素が雨で流され地下に溜まって濃縮された場所にダンジョンができるとか、そんな感じでいいと思います。



 いろいろガバい設定ですが、このネタのオリジナリティは魔素を有害と定義した事です。

 異世界は核戦争後の放射能汚染された地球だった、みたいな使い方もできるかもしれません。

 すでに誰か書いてそうですが気にしない!

 このネタ自体n番煎じの可能性もあるけど気にしない!

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