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キャンプ【アイテム】

現代のキャンプグッズを異世界に持って行くとどうなるかな?

と思って書きました。

「今日はここで野営だ」


 夕暮れ前の時間に乗合馬車の御者が馬から馬具を外しながら言う。

 街道沿いにある簡素な屋根が付いた水場があるだけの広場だ。

 こういう馬に水を与えるための場所が街道沿いにはいくつもある。

 高速道路のパーキングエリアのようなものだろう。


 水場の脇には人の身長程度の長さの木の棒がまとめて転がされていた。

 何に使うんだろう? 護身用? 薪にしては長いよな。


 まあいいか。


 俺は下ろしたリュックからキャンプ道具を取り出す。

 チートを使って現代日本から取り寄せたえりすぐりのギアだ。

 フフフ。異世界人よ、恐れおののくがいい。


 まずは地面をささっと均して場所を確保し、チャキチャキとアルミフレームを組み上げてテントを設営。某アニメで有名になったムーンでライトな3型だ。

 さらにチェアとテーブルを組み立ててセッティングは完了。

 荷物はテントの中に入れておく。


 焚き火用の薪を拾って戻ってくると俺のテントの周りに人が集まっていた。

 そうだろうそうだろう。メイドインジャパンはすごいだろう。


「お前さんのテントすげぇな! まるで小さな家だ!」


 乗合馬車に同乗している冒険者が声をかけてきた。


「こんなに薄くて肌触りのいい布はわたしも初めて見ました。この小さい椅子やテーブルもいいですね。野営にはもったいないぐらいです」


 同じく同乗している小太りの商人だ。


 どうすかね商人さん。売れそうですかね?


「これは貴族に喜ばれそうです。馬車に積んでおく椅子にはピッタリでしょう」


 現代日本でもアウトドア用の椅子を車のトランクに入れっぱなしにしてる人結構いるしね。

 同じような用途で使えそうって事だね。


 冒険者にはどう?


「うーん、いい物ではあるんだが、俺たちにはちょっと向かないかな」


 おや? 冒険者には手ごたえが悪い?

 小さくたためるし軽いし快適だよ?

 もしかして値段の問題?


「いや、値段とはちょっと違うな。俺たちのテントを見ればわかると思うが基本的にシンプルだ」


 彼らのテントを見る。

 先程転がっていた棒を2本ロープでつないで地面に立てて、それぞれの棒の先端をさらに外側へロープ使って引っ張ってペグ|(釘)で固定。

 上から見ると >ー< といった感じだ。

 そして二本の棒の間に張ったロープに大きな布をかけて屋根としている。


 確かにシンプルだ。テントというよりタープだ。

 持ち込みの道具は布とロープだけ。ペグは木の枝を削ったものを使っている。

 もしかしたら布だけでもなんとかなるのかもしれない。

 キャンプと言うよりブッシュクラフトに近いな。


「理由はいろいろあるが、俺たち冒険者は持ち運ぶ装備はできるだけ減らしたい。だから『それ専用の道具』を増やすのはあまり嬉しくないんだ」


 確かにキャンプ用の椅子は椅子以外には使いにくい。


「かまどなんかもこんな感じで適当だ」


 先端が輪になっている鉄の棒を3本組み合わせて三角形を作り、円状に詰んだ石の上に置いてあるだけ。シンプルだ。

 なにこの五徳。俺が欲しい。

 この50センチ程度の鉄の棒は多少重いけどまっすぐだから場所は取らないし、いざとなれば武器にもなるので採用しているのだとか。


「お前さんの椅子やテーブルは家に置くにはいい椅子だと思うぜ。冒険者は頻繁に引っ越すから家具が持ち運べる大きさなのは助かる」


 むしろ普段使いで評価されたでござる。


「テントの方も恐ろしく快適そうなんだけどーーー」


「敵襲だ!」


 え? 敵襲!?

 馬車の護衛の冒険者が叫ぶ。


「俺たちが対応する! お客は馬車に避難するんだ!」


 慌てて馬車に駆け込む。

 俺が一番乗りらしい。

 あれ? 他の人は?


 遅れて商人がひいひい言いながら駆け込んできた。続いて冒険者も。


「あれ? お前さん荷物はいいのかい?」


 襲撃と聞いて身一つで逃げ込んでしまったが、もしかしてやっちゃいました?|(本来の意味で)


「今回の襲撃はゴブリンだから大丈夫だろうが、相手によってはこのまま馬車で逃げる事もある。そうなると荷物の回収はできないんで荷物は可能な限り持ってくるのが鉄則だ」


 横でうなずく商人を見るとそちらもしっかり荷物を抱えている。

 商売道具は命と同じぐらい大事なんだろうな。

 同乗の冒険者は続ける。


「さっき言いかけていたのは、お前さんのテントは快適だが、何かあった時に即座に回収できる方が旅には向いてるって事さ。最悪放棄しなきゃならないモノに過剰な金はかけづらいだろ?」


 冒険者は抱えている布を持って見せる。

 冒険者のテントは布とロープ以外は現地調達だし、ロープはそれほど高価でもない。

 最悪布さえ回収すればまたテントとして使用できるわけだ。


 外では戦闘の音が続いている。

 ちらりと覗いてみると俺のテントを挟んでゴブリンと冒険者が対峙していた。


 やめてー! 俺のテントを遮蔽物に使わないでー!

 しんじゃう! 俺のムーンでライトな3型がしんじゃう!


 ゴブリンがテントを飛び越えて護衛の冒険者に襲い掛かるも弾き飛ばされ―――

 俺のテントと一緒に転がっていく。フレームはポッキリと折れ、テントは血まみれ。

 恐らく破損も酷い事になっているだろう。


 終わった。

 俺の快適異世界キャンプ生活が終わった。



 日本でのキャンプは大前提として安全が担保されていた。

 しかし異世界は違う。

 キャンプは楽しむためのものではなく危険なものなのだ。


 くっそー

 キャンプの借りはキャンプで返す。

 異世界スペシャルの完璧なテントを作ってやる。


 冒険者のテントを間借りして毛布にくるまりながらそう心に誓うのだった。


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