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お宅訪問です!


 「たっだいま~!お母さん、メグ連れて来たよ!」

 「まあ、それはよかったわね。メグちゃん、今日はお泊り?ご飯食べてく?」

 「え、いや、その、あの……」


 クレアちゃんと一緒におうちに入ったら、真っ先にクレアちゃんのお母さんが出迎えてくれました。

 クレアちゃんのおうちは二階建ての一軒家で、すっごく洋風です。和風の要素が一切ありません。……っていうか、いまどき純和風の家なんてめったにないですよね。


 「お母さん、ちょっと今日はいつもと違うから、私の部屋で話すね」

 「……何かあったの?」


 お母さんはクレアちゃんの短い言葉でも事情を察します。すごいです。


 「ううん。別になんでもないわ」

 「でも、メグちゃんいつもと違って元気ないわよ?」

 「あーうん。それは、……その、兵部のせいだから」

 「……そう。大丈夫なの?」


 礼人君の名前が出たら、お母さんは妙に納得して、なおさら私に心配をかけてくるようになりました。


 「だから、大丈夫だって」

 「そう。なら、いいけど……」

 「じゃ、メグ。部屋に行きましょ?」

 「う、うん……」


 若干無理やりながらも、私はクレアちゃんのお部屋に通されました。


 



 白い壁紙にフローリングの床、大きな本棚に、勉強机、そしてダブルベッド。

 相変わらず、クレアちゃんの部屋は簡素です。

 クレアちゃんは私に机の椅子をすすめてくれて、私は椅子に座りました。クレアちゃんはベッドに座ります。


 「……さて、兵部のことだけどね……」

 「う、うん」

 

 私は神妙にうなずきました。


 「私とあいつは、幼馴染なの」

 「そうなの?」


 そんな話、初耳です。それで礼人君の好みとかをよく知っていたんですね。


 「あいつは、すっごく感情的なのよ」

 「……そう?」


 すごく理性的で、かっこいいですけど……。


 「というか、本能的」

 「それはわかるかも」


 好き、って言われてそのまま襲われちゃいそうになりましたから。


 「惚れっぽいんだけど、飽きるのもすぐだから、女の子をしょっちゅうとっかえひっかえしてるし、すぐ手を出すし」

 「そんな……」

 「それに、ちょっとサディスティックなところもあるから、すぐに別れ話切り出されるわけ」

 「そ、そうなの」


 私もすぐに飽きられちゃうのかな……なんてことを思います。それとも、私が礼人君を嫌いになる?……まさか。それだけはありません。


 「まあ、私はあいつの幼馴染だから、結構相談されるわけよ」

 「うん」

 「それでいい関係になるんだけど、キスもする前に別れるっていうのがほっとんど」

 「……なんで?」

 「今日みたいなことがあるから」

 「……」

 

 キスはしないけどその先はしちゃう……みたいなことでしょうか?な、なんかどことなく犯罪の匂いが……。


 「まあ、もちろん今日みたいに止めるんだけどね」

 「……な、なんでそんな風にすぐに手を出しちゃうの?」

 「そんなの私が知るわけないじゃん。自分で訊きなさいよ」

 「うう……」


 ひどいです。……ひどくないですね。普通の答えですね。

 

 「で、お母さんがあんたの心配したのは、まあ、普通の女の子ってあんなことされたら傷つくわけ。それのフォローを私がしてるから、なんだけど……あんたに至っては大丈夫そうね」

 「当たり前よ!」

 「あんたってすっごくレアなタイプね。……ま、話っていってもそれだけだし。さ、今日は楽しくおしゃべりして夜を明かしましょう?」

 「うん!」


 クレアちゃんは本棚から私の好みの漫画を数冊抜き取ってこっちに放りました。私はそれを受け取ります。


 「これどんなお話?」

 「『レディアントガーデン』。光の園に住む人たちの話で……まあ、ようするにギリシャ神話あたりを漫画したような感じかな?神様とかよく出るからそう思うだけで、私はギリシャ神話読んだことないけど」

 「へえ、面白そうですね!」


 私はレディアントガーデンを読み始めます。


 「……まあ、いいけど。親御さんに連絡は?」

 「……あ」

 

 忘れてました。


 「じゃ、じゃあちょっと待っててね」

 「私はこれ読んどくから、ゆっくり話しといて」

 「ありがと」


 クレアちゃんは本を一冊取り出して、読み始めました。


 私は携帯を取り出して、家の番号をプッシュします。


 


 「あ、お父さん?」

 『なんだい?』

 「あの、今日クレアちゃんの家に泊まるんだけど……いいかな?」

 『こっちは構わないけど、クレアさんの家の都合は大丈夫なのかい?』 

 「うん」

 『そうか。ならいいよ。くれぐれもご迷惑をかけないようにね』

 「わかってる。じゃあね」


 

 ピ。


 「いいお父さんね」

 「聞いてたの?」

 

 携帯電話をしまうと、クレアちゃんが読書を中断して話しかけてきました。


 「ごめんなさい」

 「いや、いいんだけど、どうして?」

 「……どうして、って訊かれても。いいお父さんだな、って思っただけ」

 「そうなの……」


 クレアちゃんにお父さんはいません。……中学校二年生の時に、死んじゃったそうです。理由は……今でも、訊けません。だって、お父さんが死んじゃって、すごく落ち込んでるクレアちゃんを思い出したら、訊けるわけないです。


 「……気にしないで」

 「え?」

 「私はもう、大丈夫だから」

 「……本当に?」


 あの時も、クレアちゃんはそう言って、痛々しい笑顔を見せました。今のクレアちゃんの微笑みは普通でしたけど、もしかしたら、隠すのがうまくなっただけじゃ……なんて思います。


 「ええ。たまに、つらい時もあるけど。それでも、昔よりは減ったわ。あなたのおかげよ、メグ」

 「そんな……」

 

 私はなにもしてません。何もできませんでした。何も言えませんでした。


 「あなたがいてくれて、お母さんがいてくれたから、私はこうしていれるの。……なんか気恥ずかしいけど、ありがとう」

 「……どういたしまして」


 なんだかこれしか言うことのできない私がとても情けなくて……。

 


 「ちょっと湿っぽくなったね。じゃ、ちょっと下降りてゲームでもしよっか」

 「うん!」

 「この前とっても面白いゲーム買ってね、ぜひメグにもやってもらいたかったの」

 「やるやる!」

 「じゃ、行きましょうか」

 「うん!」



 クレアちゃんが下に降ります。私もそれについて行きます。



 今日はとっても、楽しい日になりました。

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