た、たすけてください!
チャンスの神様の前髪をつかみ、私は憧れの礼人君とお弁当を食べることに成功しました。一瞬で走り去ろうとしたチャンスの神様も、私はがっしりと掴みました。なんと告白できたのです!
……しかし、告白したはいいものの、その勢いで押し倒されて……
「…………好き。愛してる」
「え、……あの、礼人、君?」
「……だから。……シよ?」
「な、何を……ですか?」
「わかってるくせに。……そう言うのが好みなの?無理やりされるのが」
「え、え、え」
「……可愛い」
なんでこんなことにいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!?
理由は全部わかってます!けど、けど!だ、ダメ、です。ここで、なんか。ダメです。
「い、いや……!こ、こんなところで、なんて……」
「……いいじゃん。俺も、お前のこと好きになった。だから……シよ?」
にゃああああああああああああああああああああああ!?
確かに好きですけど!好きですけど!こういうのはなんか違います!今だとなんか、誘われたから勢いでヤっちゃったみたいなニュアンスになっちゃいます!て、ていこうしないと……
「だ、だめ……!」
「……かわいい」
煽情してどーする!?
も、もっと強情に!強気にならなきゃ!今頑張らないと不本意じゃないけど不本意に処女を散らすことになっちゃいます!
「いや!や、やめて!」
「……嫌よ嫌よも好きのうち……ってこと?」
ちいいいいいいいいいいいいいいいいいいいがああああああああああああああああああああああうううううううううううううううううううううう!!
違わないけど!違わないけどさ!それでも、その、まだダメなんです!
「……シよ?」
ダメ……!まずい、本気で、押し切られ……っ!
「………なにやってんの、兵部。私の親友に手を出して。殺されたいの?」
救いの声が、聞こえました。
すっごくびっくりしました。なんでクレアちゃんが?
「クレア。何の用だよ?俺ら相思相愛よ?合意の上、ってやつ。わかる?」
「わかるか。死ね」
礼人君は他人に襲いかかってるのを見られているのに私の上からどこうとしません。なんか他人の目があってもヤリそうな勢いなんでちょっと怖いです……。
「……で?こんなところになんのようなわけ?」
「心配になったから来ただけ。死ね」
し、心配?ど、どうして?
なんて、訊けません。だ、だって今私のすぐ上には貞操の危機がいまだなおのしかかっているのです!ここから逃げるチャンスを逃すわけにはいきません!
「ふうん。心配?もしかしてさ、狙ってたりする?この子」
「んなわけあるか。死ね」
クレアちゃんは呪詛のように死ねと繰り返しています。こ、怖い……!
「じゃあなんで?俺と、こいつは、相思相愛なの。互いに思って互いに愛し合ってんの。わかる?」
「わかる。けど、今こんなところで発情するなイヌ。ヤるなら家でヤれ。それから、メグ泣かしたら殺す」
「うわ、死ねじゃなくて殺すんだ」
「殺す」
「どうやって?まさか拳銃とかじゃないよね?」
「殴り殺す。死ぬまで殴る。死んでも殴る」
ほ、ほほほほほほ本気です!い、今、今確かに本気の雰囲気でした!ま、まさか私、泣いちゃだめ?も、もし泣いちゃったら親友が犯罪者になっちゃう!
「怖いね。……でも、相思相愛だってのは認めるんだ?意外だね」
「……うるさい。とにかく、メグの上からどけ。……早く」
「いいじゃん。俺好きになっちゃったんだもん。キュンってきたんだもん。好きな相手とは触れ合いたい、これ普通じゃね?お前だってそうだろ、クレア」
ず、ずいぶんと親しげです!?クレアって、呼び捨て!呼び捨てです!
「戸惑ってる。早くどけ」
と、戸惑ってるのはクレアちゃんが礼人君となんか親しげにしてるからで……って、よく考えたらクレアちゃんは親しげじゃないですよね。……じゃ、じゃあ、二人は知り合いでしょうか?
「うれしがってるんだよ。俺と想いが通じ合って喜んでるんだ。……な?」
コクコク。
……って、ああああああああああああああああ!?うなずいちゃいました!?う、うなずいてどうするんですか!こ、ここは強硬な態度でノゾまないと私の貞操が……!
「……やっぱ可愛い」
キュン!
きれいな、本当の笑顔を見せながら、そんなことを言ってくれたおかげで、いや、せいで。今、すっごく胸が高鳴りました。それだけではありません。
……あ、や、やばいです。スイッチ入った。
ああ、ああああ、だ、ダメなのに。だ、ダメなのに、もうどうでもよくなってます……!なんか、このまましちゃってもいい気がします。な、なんかクレアちゃんが邪魔ものに見えてきちゃってます。ダメですダメです!屋上でなんか……
……屋上じゃなきゃ、いいの?
頭の中で、悪魔の私がそう囁きました。ど、どうしましょう……?