え、ええっと、……ええっと……!?
もくもくと、黙々と礼人君はお弁当を食べています。どうやら礼人君は食事中は食事に集中する人のようで、しゃべりかけようともしてくれません。もしかしたら本当にご飯を食べておしまいなんじゃ……と思わせるぐらいだまーーーーーーってお弁当を食べています。
家でも友達の間でもお料理の評判がいい私が自信作だと自負するくらいなのです、お弁当そのものはとても美味しそうに食べてくれました。あんまりおいしかったので気がついていたらガっついていた……そんな見方は自意識過剰ですか?
実は食べてくれと言われたから食べただけ……そっちのほうが断然ありえそうです。……もしかして、まずいから無理して食べてて、そのせいで無口に?でも、ちゃんと味見はしたし、私の舌が死んでいなければきっと大丈夫……なはずです。
「……ふう。おいしかった」
食べ終わると礼人君は幸せそうに手を合わせました。
「お、お粗末さまでした」
私はそそくさと礼人君が食べたのお弁当を回収します。きれいにご飯粒一つ残さず食べてくれたことが、私の舌が死んでいなかったという証明だと、思います。
「……ごめんね」
「え?」
「いや、おいしかったから、話もせずにさ。つまんなかったろ?」
「い、いえ、そんなことは」
何かまずいことをしたのではとひやひやしてはいましたが。
「……で、さ。訊くけど」
「はい」
「今、彼氏いる?」
「……いません、けど?」
なんでそんなことを訊いてくるのだろう?私は目の前にいる男性以外を彼氏にするなんてことありえません。
「……じゃあ、さ。どうして僕なんかにお弁当作ってきてくれたの……?」
……いつもの、優しそうな微笑み。でも、でも。
毎日飽きることなく礼人君を見つめ続けていたからこそ、私にはわかりました。
礼人君は今、さびしがっていると。さびしそうな色がほんの少しだけあって、それを必死に悟られまいとして、頑張っているようでした。
「……好きだからです」
言っていました。気が付いたら、その言葉がすんなり、さらっと、まるで普通の会話をするかのような自然さでするり……いえ、ポロリと。
「…………………そう」
私は、その長い沈黙の意味を考えていました。
え、もしかしてダメ?私みたいなこんな女嫌?近づかれたくない?想いを寄せられることすら毛嫌いする?
そんなネガティブな思いが頭の中を巡り巡って、まためぐって、を繰り返します。
「………好き?僕を?」
「……は、はい」
否定はしません。絶対に、たとえ本人の前でだって私の礼人君への想いを偽ったりはしません。
「……そう、なんだ」
「……だ、大丈夫?い、嫌だった……?」
急に黙った礼人君に私は混乱して、困惑して、ただ心配することしかできません。
「本当に、俺のことが好き……?」
「……私があなたのことを好きでいちゃ、いけませんか……?」
「……まさか。そんなはず、あるもんか」
そう言ってきました。そんなうれしいことを、言ってくれました。そして礼人君は私の手を取ってもう片方の手で腰を取ってそのまま私を冷たい屋上の床に押し倒―――ッ!?
そして、今。
私は床に組伏せられ、礼人君を見上げます。
礼人君は私を押し倒し、私を見降ろしています。
両手首を一緒にされて掴まれ、頭の上で押さえつけられます。私は両手が動かなくなり、礼人君は片手が開いた状態です。
「……なあ。俺のこと、好きなんだよな?」
「は、はい……」
俺。きっと、こっちが地なんでしょう。地の礼人君を知れてうれしいのですが……その、恥ずかしいです。
礼人君は膝を私の脚の間に入れて、脚を完全に閉じさせないようにしています。……な、なんだか手慣れていますね……?こんな状況になった時女の子はどんな反応をするか知り尽くしているような、そんな感じです。
こんな状況になるのを何度夢見たでしょう。けれど、夢見たことがそっくりそのまま現実になっても、戸惑うだけです。
その、私思うんですけど……ねえ?
これって私……。
襲われてるん、でしょうか……?
「ねえ、……シよ?」
無邪気に、礼人君は言ってきます。危うくうなずきかけるところでした。
ダメダメ!始めてはもっとムードのあるところか、ちゃんとした状況でって、決めてるもん!
……と、意気込んだはいいものの、どうあがいても拘束が解けません。……やっぱり、なよっとしていても礼人君は男の子なんですね。
……なんて感心してる場合じゃないよお……!