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仲直り

 屋上の隅で、私は授業をさぼってふさぎ込んでいます。体育座りをして、膝のおやまと胸との隙間に顔をうずめて、悩んだり苦しんだりしています。


「……礼人君」


 愛しい人の姿を思い浮かべます。たくましいわけではないけれどすきっとしている体。飛びぬけてかっこいいわけではないけれど整った顔立ち。特別に優しいわけではないけれど気遣いのある性格。私は、彼のことを想像していたはずなんですけど、いつの間にか、彼の隣には、私の親友、クレアちゃんが立っていました。二人は気の置けない親友同士のようでいながら、けれど互いに想いあっているのです。

 かぶりを振って、私はその想像を打ち払おうとします。頭の中の映像は消えても、胸にある感情は消えませんでした。どうしてなのでしょう。ついこの前までは、もっと明るく考えられていたというのに。私は……


「メグ?」

「クレア、……ちゃん」


 私は声に反応して顔を上げます。そこには見目麗しい美人のクレアちゃんがいました。彼女は私のことを心配そうに見ていました。


「大丈夫? ……もしかして、礼人のことが怖くなったの?」

「え? ……いいえ。まさか」

「ふうん。じゃあ、どうして?」


 あなたのせい。あなたが、礼人君のそばにいるから。だから、私はあなたに対してものすごく黒い感情を抱いてる。

 そう言ったら、クレアちゃんはなんていうでしょう? 私たちの友情は、そんな言葉で終わってしまうのでしょうか。こんなことで冷めてしまうのでしょうか。


「……ごめん、クレアちゃん」

「何が?」


 こんなところまで、心配して来てくれたクレアちゃんが、私に黙って礼人君と付き合ったりするでしょうか。いえ、そんなことはあり得ません。ありえないはずなんです。


「クレアちゃんは……怜人君と、付き合っていましたか?」

「え? ……わ、私が、あいつと?」


 少しだけ、クレアちゃんは焦っているようでした。どうしてなのでしょう。やはり、そうだったのでしょうか。

 私たちは、これからはライバル同士になってしまうのでしょうか。


「どうなの?」

「え、えっと、どうして? どうしてそんな誤解を?」

「……なんだか、礼人君が笑ったら、クレアちゃんが安心したように笑ったから……」


 誤解。本当に誤解なのでしょうか。私の中の疑りは消えません。なんて醜いのでしょう。私の心は、なぜこうも黒いのでしょうか。


「わ、私は……メグの悲しそうな顔を、見たくなかったから」

「え?」


 思っていた言い訳とは全く違って、クレアちゃんは私のためと言いました。


「その、やっぱり好きな人が馬鹿にされたり傷つけられたりするのを見るの、辛いでしょ? この前あいつを懲らしめたときだって、すごく悲しそうな顔してたから……。

 だからさっき、礼人が笑うのを見て安心した顔したメグを見て、ああ、私の判断は間違ってなかったな、って思ったら、嬉しくなっちゃって」


 そういってクレアちゃんは、えへへ、と笑いました。なんてきれいな笑顔なのでしょう。私は自分が醜くて、クレアちゃんの気遣いが嬉しくて。思わず、目から涙が……。


「え、め、メグ!?」

「う、ううん。違うの。ごめんね。私、礼人君とクレアちゃんが付き合ってるんじゃないかって疑って、疑っちゃってごめんね、クレアちゃん……」


 私は思わずクレアちゃんに抱き着きます。私はなんてことをしてしまったのだろう。こんなにも私のことを想ってくれていたのに。それなのに疑うなんて。


「気にしないでよ。恋する乙女はそんなものだと思うよ?」


 その言葉が、とどめでした。もう、私は何も考えられませんでした。恥も外聞もなく、ただただ謝りながら泣きわめくことしかできませんでした。


「ごめんね、ごめんね……!」


 なんて優しいのでしょう。親友を疑った私を、怒ることもなくなだめてくれた。なぜ私は疑ったのでしょう。馬鹿な私。


「……よし、よし」


 ぎゅっと、クレアちゃんの柔らかい手に抱きしめられ、頭を何度も撫でてくれました。心地よくて、心が現れるようで。


「しばらく、ここで一緒にいよう。そうすれば、落ち着くだろうから」


 クレアちゃんの優しさが、胸に染み入ります。優しいクレアちゃん。馬鹿な私。

 もう少しで私は、恋人以上に得難い親友を、勘違いで縁切りしてしまうところでした。もっと優しくなれたら。もっと寛容になれたら。クレアちゃんみたいになれたら。そうしたらきっと、こんなふうに苦しんで悩んで誤解して、ぶつかることもないでしょうに。

 ……ああ。


 礼人君とも、仲直りしないと。ケンカしたわけでもないのに、私はそう思いました。

 それからチャイムが鳴るまで、私とクレアちゃんは一緒にいました。

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