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ちょっとだけ……

 学校にたどりついて、教室まで走って行くと、私は真っ先に礼人君の姿を探します。しばらく教室をきょろきょろして……いました! 私は他の男子生徒と一緒にたむろっている礼人君をみかけると、急いで駆け寄ります。

 

 「礼人君! 大丈夫ですか?」

 「ん? ……ああ、大丈夫だよ、ハニー」

 「よかったぁ……」


 私は胸をなでおろしました。よかった、死んでなかったです……。

 って、……え。


 「そ、そそそそ、そう言えば、昨日礼人君、死んじゃったんじゃ!?」

 「いや、死んでたら来れねえし。ハニーは心配性だな。ちょっと頭ぶつけただけだって」

 「そ、そうですか、よかった~……」


 へなへなと、全身の力が抜けました。もし礼人君があの時死んでしまってたらどうしようかと思いました。もう二度と礼人君と会えないなんて、そんなのは嫌です。


 「……おはよう、メグ。昨日はお楽しみ? でしたね」

 「おっはようメグリン。昨日は面白かったね」

 「え?」

 

 にやにやと嫌な笑顔を浮かべている親友二人が、私に話しかけてきました。……ど、どうして昨日のことを二人は知っているんでしょうか……?


 「ん? お前ら昨日帰ったんじゃなかったのか?」

 「んなわけないでしょ。親友の危機だってのに」

 「……お前、その親友の信頼を裏切った、とは思わねえのか?」


 礼人君はフランクにクレアちゃんに話しかけます。それを羨ましいと思う反面で……いつかきっとこんな風になるぞ、と決意もします。


 「……それは、思ってなかったけど……」

 

 クレアちゃんはしょんぼりとうつむきました。……別に、私は何も思っていないんですけどね。だって、その、昨日は何もなかったですからね。


 「ま、反省しているならよいではないか、くれあん!」

 「……くれあんいうな」

 「でも、もし私たちがあなたたちのあとつけてなかったら……。今頃、事件になってたかも知れないんだよ? 『女子生徒傷害事件』! みたいな見出しで」


 ピクリ、と私は肩を跳ねさせました。今日夢見たままのことを、沙耶さんは言ったのですから。


 「……それは困るな」

 「でしょ~?」

 

 沙耶ちゃんはからからと笑います。無邪気な笑い方ですが、なんだか裏があるような笑い方でした。


 「……そう、よね」


 礼人君が納得したのを契機にしたかのように、クレアちゃんが顔をあげました。無理やり笑顔を作ると、礼人君の胸をとん、と軽く叩きました。


 「そうよ。あんたがメグに手を出さないか心配だったの! わかる?」

 「言われなくてもわかるっての。こっわ~いお目付け役ってところだろ? クレア、本当にこいつのこと好きなんだな」

 「そうよ! あたしの目が黒いうちは、メグの同意なしに手出しさせるもんですか!」


 クレアちゃんも、礼人君も、沙耶さんも、みんな笑いだします。

 ……その横で、私は胸の中に生まれた暗いキモチを抑え込むのに必死でした。

 クレアちゃん、まるで礼人君が納得したから、元気になったみたいな……そんな感じでした。

 礼人君も、クレアちゃんが元気になって嬉しそうでした。


 幼馴染のいつもの空気、というのは理解しています。ちゃんと、わかっています。


 「……あ、メグ。今週の日曜もデートしようぜ、デート。今度は遊園地行こう」

 「…………」


 答えなきゃ。はい、って。私は礼人君のことが好きなんですから。だから、でも……。

 

 「……わかりました」


 ちゃんと、答えました。ちゃんと、肯定しました。……でも、この前みたいに心は高揚しません。クレアちゃんに抱いたままの黒い感情が……私の中で暴れまわります。


 「……」


 答える時の私を見ていたクレアちゃんの目が疑心に満ちていてました。それが、私には咎めるような物に感じられました。

 『……ウソツキ』

 なぜか、そう言われたような気がしました。


 「……」


 私は大好きな礼人君がそばにいるというのに……彼の視界から消えるように、教室を抜けだしました。


 ……今は、独りになりたい。

 

 チャイムが聞こえたけれど、今の私にとって学校の授業なんて、もうどうでもよかった。


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