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はっ!? ゆ、夢でしたか……?

 ファンファンファンファン……。


 音が聞こえます。なんだか、テレビとかでよく聞いたことのある音です。


 『た、ただいま容疑者の少女が出てきました! ずいぶんと性悪な目をしております! 彼女が、自分の恋人を手にかけた残虐な少女、綾瀬 恵です!』


 リーポーターの人が、とんでもない誹謗中傷を言ってきます。なんでですか? 私、誰も殺したりなんか……。

 その時、場面がふと、移り変わります。大きな黒の額縁に飾られた写真を胸に掲げた、女のひと。直感で、その人が礼人君のお母さんだと思いました。そのひとは黒一色の服を着ています。……どうして?

 そこで、すべてを思い出します。生まれてはじめてのカラオケで歌ったら、礼人君が襲ってきて、それで……。


 私、彼を――



 「いやああああああああああああ!?」


 私はがばりと体をはね起こしました。


 「なになになにっ!? 泥棒!? 強盗!?」


 と、同時に、妹の可憐がコンバットナイフを手に私の部屋に飛び込んできました。なんでそんなものを……。


 「な、な、ななななんでもありません!」

 「……あ、そう。夢オチ?」

 「……うう、そうです」


 恥ずかしながら、そのようです。……そうですよね?


 「ほんと、昨日はびっくりしたんだから。気絶したお姉ちゃんを担いでクレアさんがきて、『この子、倒れてたから』って。まさか、彼氏に乱暴されたんじゃ……?」

 「ち、ちちち、違います!」


 違いませんけど、違います!

 

 「じゃあなんで倒れてたのさ? それとも、記憶がない? 記憶が飛ぶほど酷いことされたの? ……よし、おかーさむぐっ!?」


 私はあわてて可憐の口をふさぎます。びっくりした可憐はコンバットナイフを持ったまま暴れて……って、危ないです!


 「か、可憐、あ、暴れないで!」

 「むぐ~!」

 「わ、わかった、離す、離すから!」

 

 私はぱっと手を離しました。


 「ぷは~! 何すんのよお姉ちゃん!」

 「何言うつもりだったのよ可憐!」

 「お姉ちゃんを彼氏から守ってあげるの!」

 「別に、私は礼人君に酷いことされたわけじゃありませんよ?」

 「敬語!」

 

 あっ! そ、そうでした。私、嘘をつくときはなぜか敬語になるという不可解な癖があるのです。……なぜでしょう。


 「なんでそんな、お姉ちゃんを乱暴するような奴をかばうのさ!」

 「好きだからです!」

 「好きだったら何されてもいいの!?」

 「いいんです!」

 「……むう、頑固な!」


 頑固で結構です。私は礼人君のことが好きなんですから。


 「もう放っといてよ。さ、どっか行って。私、学校行くから」

 

 時計を見ると、もう八時です。今から行って間にあうでしょうか? 間にあわせてみせます。

 手早く着替えると、私はリビングに降ります。お父さんとお母さんが仏頂面で……って、え?


 「お父さん、お母さん?」

 「……やあ、メグ」

 

 お父さんは笑顔です。でも、笑顔なだけです。意味、わかります? 全身からものすっごい怒りのオーラというか、なんというか、すさまじいものが……。


 「ど、どどど、どうしたの……?」

 「今ね、私、上に言って逮捕状頑張ってとってもらってるところなの」

 「え?」

 「兵部 礼人。彼……君の彼氏なんだろう?」

 「!? な、なぜそれを……?」


 どうして? お父さんには言っていなかったはずなのに……!

 

 「私が話したのよ」

 「そんなっ!」

 「君は、父親に見せられない男を、選ぶ、つもりかい?」


 お父さんは文節で区切って、言いたいことを強調します。


 「そ、そんなつもりはあ」

 

 まずいです! い、一瞬『ありません』って言いそうになりました!


 「……な、ない、です」

 「ふうん、そう」


 あ、言っちゃった。で、でも、気づいてない、みたい……?


 「学校、行ってきなよ。彼氏がいるんだろう? 見納めになるかも知れないから、よく目に焼き付けておくんだよ……」


 そう言って、お父さんは私を押し出しました。え、な、ななななんですか? なんで見納めになっちゃうんですか?


 「だから、殺っちゃ駄目って言ってるじゃない。逮捕よ逮捕」

 「それじゃヌルい。さ、行ってらっしゃい」


 え、ええ~。


 「い、行けるわけないじゃない! そんな怖い会話しないでよ!」


 私がそう叫ぶと、二人は顔を見つめあって……。


 「ねえ、あなた。行ってきます」

 「ああ、行ってらっしゃい。害虫には、気をつけるんだよ?」

 「ええ、わかってるわ。ゴキブリとか、蚊とかハエとか、この世に必要のない者には気をつけるわ」

 「うん、そうだよ、この世に必要のない者を逮捕するのが、君の役目だからね」

 「あら、そう言えばメグ、あなたの周りにそんな人はいないかしら?」

 「それで隠したつもりっ!?」


 平然と訊いてくるお父さんたちに、私は思わずそう言ってしまいました。


 「冗談だよ。僕たちがそんなこと、するわけないこともないじゃないか」

 「ええ」

 「そうですか! 安心しました!」


 ……今少しだけ変なところがありましたけど、気のせい、ですよね?


 「行ってきます」

 「行ってらっしゃい」

 「行ってらっしゃい!」


 私は不思議に思いながらも、学校へ向かいました。

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