~相談しましょう親友に!~
キィ……
「ただいまです!」
大きな声で私は家に入りました。
「お帰り、メグ」
「お帰り~姉ちゃん」
お父さんと妹があいさつしてくれます。
「お母さんは?」
「仕事。今日は遅くなるってさ」
「そうですか……残念です」
お母さんは働いていて、お父さんは専業主夫。妹は小学4年生。
こんな家庭環境ですから、私の家はいっつもお母さんがいないことが多いのです。
「姉ちゃん姉ちゃん、敬語になってるよ?」
「あ、ごめん」
「ま~た礼人君と何かあったの?」
「みぎゃっ!?」
ちなみに、妹には礼人君のことを話してます。妹に恋の相談をされたときに、つい、ポロっと……。
「……礼人君?……………男かッ!?」
「ち、違いますよお父さん……」
「メグが嘘つく時はいつも敬語……ッ!許せん!その礼人とやらを連れてこい!刀の錆にしてくれる!」
「お父さん!」
うちのお父さんはいっつもこんな感じ。クレアちゃんに話したら、『いいんじゃないの?大事にされててさ。……ほっとかれる方が、案外堪えるよ?』って言われました。
礼人君も礼人君でわからないことあるけど、クレアちゃんも謎なところいっぱいあるんだよなぁ……。
「……まあ、その、なんだ。とにかく、刀の錆にはしないと思うはずだから、恋人ができたら連れてくるように」
「……うん」
礼人君を恋人に、……かあ。できたらいいなあ……。
私はそんなことを考えながら、二階にある自分の部屋に向かいました。
ピンク一色。
それが私の部屋です。
礼人君が好きだと気付いた時からコツコツコツコツ少しづつ、女の子らしい部屋にしようと頑張ったおかげで、そんな部屋になりました。
ピンクのカーテンにベッド。フリルのついたパジャマ。ピンクの小さな本棚には乙女チックな漫画や小説が数十冊。
クマさんのぬいぐるみ多数に、かわいらしい壁掛け時計。
……全部、私の趣味じゃありません。
でも、でもです!
私の趣味通りのお部屋にしちゃったら、しちゃったら……!
礼人君が部屋にきます。
『へえ~……。これが君の部屋?お父さんのじゃなくて?』
「は、はい……」
『……うん、僕たち、別れようか』
「えええええええええええええええ!?」
みたいなことになってしまいます!
「お姉ちゃん!彼氏ができてもいないうちから別れ話の時の想像しないの!」
「ふぇ?」
茫然と絶望に浸っていたら、妹の可憐が心を読んだかのような突っ込みを入れてきました。
「何が『ふぇ?』よ!思いっきりお姉ちゃんの妄想口に出てたんだけど!?まだ彼氏のセリフを口に出さないだけましだと思うけど!」
それをマシだと思うあなたも十分すぎるほど十分ですが……。
「で?今度はどんな妄想で別れ話切り出されたわけ?」
「え、いや、その……。この部屋のことで」
この部屋は私の中にある『乙女な部屋』を具現化させただけのもので、私の趣味ではありません。家族である可憐はもちろんそんなこと知っていますし、私が実は趣味通りのお部屋にしたいと思っていることも知ってます。
「……ま~た自分の趣味のことで悩んでたんだ?」
「うん。この部屋やめて私の趣味通りの部屋にしたら……あなたはどうなると思う?」
「彼を……連れてこれるかどうかおいといて、もし、ってことね?」
「うん……」
私がうなずくと、可憐は数瞬悩んで、
「その瞬間別れ話を切り出されるんじゃない?」
「やっぱりぃ~?」
非情な現実を突きつけてきました。
「まあ、その礼人君って人がお姉ちゃんの趣味に合えば……もっと仲良くなれるかも、だよ?」
「……そうかな?」
「逆に、今の『乙女チック』なお部屋でも、マイナスイメージになるかも、だよ?」
……それは盲点でした。
「え?そ、そんなことってあるの?」
「……私に訊かないでよ。私小5よ?人生経験も何もかもお姉ちゃんより下なんだよ?わからないんだったらいつもみたいに『相談役』で『大親友』で『幼馴染』のクレアさんに訊けば?って言うか私は断ぜんそっちをお勧めするよ」
可憐はどういうわけか、クレアちゃんのことをかなり尊敬しているのです。……なんででしょう?いい人には間違いないんですけどね。
「……じゃ、私はこれで。もう叫ばないでよ?聞いてるこっちが恥ずかしいから」
「う、うん……」
パタリ。
なんか、小学五年生の妹にあんな言われ方してる姉って、私ぐらいじゃないでしょうか……?って思っちゃいますね。
まあ、とにかく電話です。クレアちゃんに訊いちゃいましょう!
起きてるかな……?
私はベッドに寝転がりながら携帯電話を耳に当てました。