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ちょ、ちょっと待ってください!

 場所は、切り替わる。


 「……よし、邪魔ものは去った。じゃ、行こうか」


 ゴシックファッションに身を包まされた少女、綾瀬恵に少年が声をかける。

 少年は人のよさそうな顔つきで、どこからどう見ても、善人ほかならないような目つきをしていた。服装は派手すぎず、地味すぎず。少し社会から浮いてしまっている少女の引き立て役となるには充分なほど、彼の服装は完成されていた。

 少年の名は兵部礼人。ゴシックファッションに身を包まされた少女の彼氏、である。


 「……はい」

 

 対するメグは少し不安げな表情を見せている。返事もどこか所在なさげだ。


 「どうしたの?俺とデートするのが嫌?」

 「ち、違います!でも、私、その、どうして礼人君が私の住所知ってたのかな、って……。それから、この服……」


 うつむいて、自分の着ている服をさした。礼人はそれに大きく笑い、


 「ああ、それはな、住所はクレアのお母さんに、服はお前が着たらかわいいと思ったから、だ!さあ行こう!」

 

 そう自信満々に言い切った。それでもまだ表情の煮え切らないメグにしびれを切らしたのか、強引に手をとってどこへともなく連れて行こうとした。

 

 「え、あの、ちょっと、どこへ、っていうか、答えになっているようで答えになってません!私は、どうしてこんな服を選ぶに至ったかを訊きたくて」

 「いーから来る!今日はデート!ショッピング、ムービー、ゲームにランチ!オールナイトで楽しむぜぃ!」

 

 子供のようにはしゃぐ礼人に、メグは戸惑いながらも、掴まれた腕を振りほどこうとはしない。


 「あ、あの!わ、私今日は夕方に返らなきゃ行けないんですけど」

 「だいじょーぶだいじょーぶ!俺らの愛を前にしたら、すべての理屈は引っ込まざるを得ないのだ!」

 「支離滅裂ですよ礼人君!?」


 初めてメグがツッコミを入れた。

 

 「にゃはははははは!親御さんに関しては大丈夫!責任は取るつもりだから!」

 「え……」


 そうさりげなく、当たり前のことであるかのように言う礼人に、メグは顔を赤らめる。


 「あ、あの、責任って」

 「もしメグができちゃったらちゃんと結婚するって言ってんの!」

 「え、……その、今日、スルつもりなんですか……?」

 「にゃははははは!そっのとおり!俺は今日一日、お前を離すつもりはないぜ!一生離すつもりはないけどな!」

 「え、あの、ちょっと、早……」


 ビューン、と効果音がつきそうなほど勢いをつけて走り去る礼人、メグの二人。


 「……むう、やるわね」


 それを草葉の陰……いや、駅前の陰から尾行するように二人を見つめていた人間が二人、出てきた。

 

 「ホントホント。まさかこんなに早くどっか行っちゃうとか思わなかった。メグに盗聴器つけたからいいものの、正直ぎりぎりだったかも」


 盗聴器がなんたらと物騒なことを言っているのは、黒髪眼鏡のいいんちょさん、黒月沙耶。

 丸ぶち眼鏡の奥の瞳は好奇と関心の色に満ちており、メグの心配をする色は一ミリたりとも見受けられなかった。

 

 「まだ脅しが足りなかったかしら。手を出したら殺す、って言ってたのに」


 物静かに恐ろしいことを言うのは、黒髪長髪のメグの親友、星香クレアだった。

 彼女の手はなんの気なしによこに垂れ下っているが、その拳は固く握りしめられ、彼女が抱く感情の色をよく表していた。


 「まあまあ。今は静観するだけにしとこ?兵部クンがもし本気でメグに手を出そうとした時は、止めないから、ヤッちゃいなさい」


 この場合のヤるとは、殺ると書く。


 「言われなくとも……」


 ぎゅ、っとさらに拳を握りしめるクレア。


 「さ、尾行尾行。それにしても、似合ってるね、あの二人」

 「………………っく。たしかにね」


 町をゆく礼人とメグの二人は、さきほどよりも目立っていた。……しかし、向けられる瞳は、さきほどよりも奇異ではなかった。

 ゴシックファッションに身を包んだ彼女と、質素だが清潔感あふれる彼氏、その二人が織りなす雰囲気はさながらおとぎ話の中のよう。表題を表すとしたら、『科学の国のアリス』とでもなるのだろうか。たしかに、いまだメグは浮いてはいる。いるが、質素な案内役につれられるメグはまるで世間知らずのお嬢様の様で、少なくともさっきよりは周りに溶け込んでいた。


 溶け込んでいながら、浮いて。浮いていながら、目立って。

 道行く人の視線は、すべてメグに向けられていた。


 「にゃはははははは!これから楽しくデートしようじゃないか!まずは、映画だ!」

 「ちょ、ちょっとまってくださ~い!あ、あの、し、視線が、視線が痛いです!」


 当事者たちは全くそのことに気づいていなかったが。


 「……くす、くれあん、悔しい?嫉妬?」

 「……何よその『くれあん』て」


 メグ、礼人の後ろをつかず離れず世間話をしながら尾行する二人組は。 

 

 「いや、かわいいじゃん?くれあん、ってなんか萌えキャラみたいな感じで」

 「……あなたも、礼人と一緒に海に沈む?」

 「…………礼人君、沈める気なんだ」

 「ええそうよ。大阪湾か東京湾、日本海に東シナ海、太平洋に大西洋、インド洋に黒海。どれがいい?」

 「……最後ちょっと違うんじゃ……?」

 「どれがいいの?」

 「……ううんと、黒海」

 「わかったわ。ヨーロッパ行きのチケットを手配しないと……」

 「ちょ、マジですか!?」

 「冗談よ」


 そんな楽しい会話をしながら、尾行を続けるのだった。


 

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