デート開始、です!
待ち合わせの場所に、私は五時半……つまり、待ち合わせの三十分前に到着しました。
待ち合わせ場所は私の通う学校の近くの駅。まだ朝なので、いつもは人でにぎわう駅前もかなりまばらです。
「……うう……は、はずかしいよう……」
そして、その数少ない人は私の方を見て驚いたような顔をして、目をそむけて通り過ぎていくのです。さながら、末期患者を見るかのような目で、です。……うう……しんでしまいたいです……。
と、思ったところで首を振ります。
だ、駄目です駄目です!礼人君とデートするまでは死ねません!何があっても!たとえ死んでも蘇ってみせます!気合で!
なんて思いながら、礼人君の姿が見えるのを待ちます。礼人君……早く来てよぉ……恥ずかしいよお……。
こんな白のフリルがたくさんついた、まるでフランス人形が着るような服を着ているところを誰か知り合いに見られたら……!
たとえば、クレアちゃん。
『……あれ、……あー……。メグ……ですか?』
『あ、はい……』
『…………………………なんでそんなトチ狂ったような格好を?兵部とのプレイ?羞恥プレイ?』
『な、なんてこと言うんですか!』
『あはは、ごめんごめん。でも、安心して、メグ。私はメグがどんなになっても、ずっとずっと、親友だからね?安心してよ?』
とか、なんか意味深に優しそうな目で言ってくるに違いないんです!……うう、本当にありそうで怖いです……。
たとえば……。黒月さんの場合。
『……お、メグじゃん、どうしたのそんな恰好して。新しい趣味にでも目覚めた?』
『違いますって!』
『うん?じゃあ、どうしてかな?言ってみ言ってみ?』
『え、あ、あの、その……』
『ふむふむ、『礼人君がこれを着てほしいっていうから……仕方なく……ホントは嫌だけど……でも、気に入ってもらいたくて……』?なかなかお熱いことするじゃん!彼のために恥ずかしくて死にそうな格好をして健気に待つ彼女……美談だわ!これは学級新聞に書かねば!ではでは!』
『あ、ま、まって~~~~~~!』
学級新聞云々は少し誇張でしょうか?黒月さんプライバシーには厳しいから、許可貰わないと新聞に載せない、って噂を聞いたことがあるようなないような……。
「……あれ、……あー……、メグ……ですか?」
「……お、メグじゃん」
……このパターンまだ妄想していませんでした。でも、もう妄想する必要はありません。実物がここにいますからね!
今、私はきっと羞恥で涙目になっていることでしょう。顔をたこのように紅潮させていることでしょう!
「………………………はい」
私は涙声で、そう二人に返しました。
「…………………………………なんでそんなトチ狂った格好を?それとなんで涙目?プレイ?羞恥プレイなの?」
「いやいやクレア。これは彼女、新しい趣味に目覚めたかも、だよ?」
「ないわ。この子の趣味知ってる?それは」
「言わないで~~~!!」
わ、私の趣味は門外不出です!絶対に誰にも言いません!言わせません!クレアちゃんにはうっかり知られちゃいましたけど、彼女以外には誰にも教えません!
「はいはい。言われなくても言わないわよ。……あなたの部屋の趣味からみて、あなたは少女趣味、そうでしょ?」
「は、はいはい!」
クレアちゃんの助け船に、私は喜んで乗ります。
「へえ。それじゃあそんな恰好してても問題ないね~。でも、それ部屋のなか限定だよ?社会に出てきたら浮いちゃうよ?」
「そ、そんなこと言われなくてもわかってます!」
まったく、どうして黒月さんは私が世間知らずみたいにみているんでしょうか?……この格好のせいですね、はい。
「……お、早いじゃん」
「礼人君!」
私は駅前にさっそうと現れた礼人君に一番に返事します。……ううん、別に張り合ってるつもりはないんですけど……ねえ。
「あれ、なんでクレアと沙耶もいるわけ?……あ、保護者同伴デートってわけ?」
「私は別にメグの保護者じゃないわ」
「私もメグみたいな純情な子を娘に持った覚えはありませんな」
クレアちゃんは淡々と、黒月さんは悔しそうに言います。
「そ。じゃ、消えて」
「ずいぶんとごあいさつね、兵部。あんたが消えたら?」
「クレアは親友の恋路を邪魔するの?」
「はん!邪魔なんかじゃないわ、私はメグのことを想って言ってるの」
「あっははは、物は言いよう、でも、事実は事実だぜ?さあ、消えな」
「なんですって……!」
礼人君に突っかかろうとしたクレアちゃんを、黒月さんが引き留めました。
「まって、まって!今日メグの初デートでしょ?邪魔したら悪いよ!」
「でも、こいつは、こいつは許せない!殺す!」
「若い子がそれ言ったら洒落になんないって!はいはい、早く帰るよ!」
ずるずると、クレアちゃんは黒月さんに引っ張られて行きます。
「クレア!先しばらくは馬に気をつけろよ~!他人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られて地獄行き、ってね!ばいば~い!」
満面の、人のよさそうな笑顔でとんでもないことをさらりという礼人君。
「……よし、邪魔ものは去った。じゃ、行こうか」
にやにやと嫌な笑みを私に向ける礼人君。
……あれ、どうしてでしょう。私、礼人君が好きなのに、ものすごく帰りたくなりました。