ど、土曜日です……!
「るんた、るんた~」
土曜日の朝、私は起きると朝食を作るため、下の階におりました。いつもはお父さんが朝ごはん作ってくれるんだけど、土曜は私が作る番。ちなみに日曜日は妹の可憐の番。
仕事関係でいつも朝の早いお母さんと、主夫なので朝の早いお父さんが、もうすでにリビングにいました。
「おはようメグ」
「おはよう、メグ」
「おはよう、お父さん、お母さん」
私は台所に立って、ご飯を作り始めます。冷蔵庫から卵を出して、それから……。
「ずいぶんとご機嫌じゃないか、メグ。何かいいことでもあったのかい?」
「……な、なにもありませんよ?」
「うそね」
うう……。お父さんもお母さんも勘がよすぎるよ……。
「あなたが異常にわかりやすいんじゃない。ウソつくときだけ敬語って、どんな癖よ」
「うう……」
治したいんですけど……どうやって治すか分かんないんです!
「で、何があったの?」
「へ?」
「いいことあったんでしょ?何があったの?」
「え、えっと、それは……」
ピンポーン!
「あ、お、お母さん、きっと宅急便だよ、早く出て!」
多分違うだろうけど、とにかくこの場をごまかせれたら……!
「はいはい。わかったわよ。聞かないでおいてあげる」
そう言ってお母さんは玄関まで行きました。……ふう、助かった……。お父さんはともかく、お母さんはそういうことには厳しいからなあ……。ちょっとオープンにしにくいんですよね。
「……彼氏でもできたかい?」
「みゃ!?」
「まさか図星とはね」
「ち、ちちちち違います!」
「ほんとに?」
「う、うう……」
な、なんでわかるんですか、というか、どうしてそんなこと……。
「いやあ、それにしても……ついこの間まで『将来はお父さんのお嫁さんになる!』なんて言っていた子が……彼氏……かあ……………。…………………殺す」
「え」
「いや、なんでもないよ?」
い、いま、今一瞬だけ、ものすごくどす黒い何かが、お父さんの周りに現れた、っていうか、噴出したっていうか。
「お、お父さん?」
「いや、だからなんでもないんだって。別に、メグに手を出したら●●●ぶっちぎってやるとか、メグを誘惑したら舌引きちぎってやろうとか、そういうことは全然考えてないからね?」
「……あ、うん……」
ものすごく普段通りの笑顔で、お父さんは言います。けど、けど、なんか黒いです。言ってることもグロいです。と、なんとか思っている間に。
「……め~ぐ~?」
そんな、お母さんの底冷えするような声が響いてきました。
「な、なに?」
なんだか、すっごく嫌な予感がしてきます。
「兵部礼人、って、どんな人?」
「へ?な、なんでお母さんが礼人君のこと……あっ!」
言ってから、あわてて口をふさぎます。……もう遅いですけど。
「礼人君、ねえ。ずいぶんと、親しげで……。ふふふ、こんなもの送りつけてくるなんて、しょっ引かれたいのかしら」
どさり、とお母さんは乱暴に宅配便で送ってこられた荷物を置きました。
差出人は『兵部礼人』宛先は、
「は、ハニーって……!」
『ハニー』でした。
な、なんて恥ずかしい……っ!というか、これ、ずいぶんと大きな荷物ですけど、何でしょう?というか、どうして礼人君私の家の住所知ってるんでしょう?教えていないのに……
「……なか、見てみなさい」
「開けたの!?ひどい!礼人君からの贈り物なのに、どうして……!」
「違うわよ!これが添えられていたからよ……!」
お母さんは私に一枚の紙切れ……手紙、でしょうか?を渡してきました。私は受け取り、しばらく見ます。
だいたいの文面はこうです。
『親愛なるマイハニーへ。
昨日はいきなり襲って悪かった。俺だってお前を●●●したくないわけじゃねえけど、それでも人前はまずかった。というわけで、お礼の品だ。明日のデートには、これを着てくるよーに。明日午前六時、駅前に集合な。
追伸。ご両親には内緒だゼ?
あなたの兵部礼人より』
……これで、かなり自粛したほうなんでしょうか。だって最初の一行に何度も何度も卑猥な言葉を書いては消したあとが……っ!
「さて、と。メグ。私朝ごはんはいらないわ」
「へ、どうして?お仕事?」
たしか今日は非番だって言ってたのに……。
「ええ。いたいけな婦女子を……それも私の娘を誑かす性犯罪者、生かしておけないわ。超法規的措置で正当防衛の完全犯罪で奴をこの世から消してやる……!」
「ま、まま、まってお母さん!」
言ってることよくわかんないよ!?
「いい!まず、警官は銃を携帯できるわ。そして、全国民には正当防衛を認められているの!だから、奴を適当に誘惑して適当に誘って適当に私を殺すように仕向ければ!奴を合法的に殺害することが可能なのよ!もしくは、二人で海に出かけて、遠い遠洋で奴を突き落とす!そうすれば、奴は海の藻屑、私は一言こう証言すればいい、『あいつが勝手に落ちました』!あーっはっはっはっはっはっはっはっは!」
「お、お母さん今警察官として言っちゃいけないこと言ってるよ!?」
それも上司とか同僚に聞かれたらそれだけで免職になりそうなぐらいブラックな!
「……やめるんだ」
お母さんの高笑いを、お父さんが止める。や、やっぱりこの家の最後の防波堤はお父さんだ!
「何よ。止めたって無駄よ?」
「違う。甘い」
「へ?」
私は、呆然とした声をあげた。
「甘い。甘い。甘すぎる。そんなんじゃ駄目だ。キミの計画は穴がないがそれだけだ。奴は死ぬ。だがそれだけだ。奴には苦しみを、もっと苦しみを!」
「そ、そうよね!」
そして、口々に残酷でえげつなく、聞いてるだけで全身が総毛立つようなことを、二人は延々と話し合って、だんだんと形になりつつある。ああ、人間二人が話し合えば、こうも確実なことができるんだ……じゃ、なくって!
「二人とも、やめてよ!」
「……だから、地下に閉じ込めて……」
「そうよ、そこから三日三晩……」
「いや、一週間……」
「いえ、そうすればばれる……」
まったく聞いていない。まずいです。このままだと、礼人君惨殺計画が、出来上がっちゃいます!
かくなるうえは……!
「ご、ごめんなさい!」
「え」
「え?」
と、と。
二人の首筋に、手刀をたたきこんで、気を失わせます。コツ?何言ってるんですか、門外不出ですよ。
「……ふう。静かになりましたね」
親にこんなことする私、なんて悪い子なんでしょう……。まあ、お父さんたちも礼人君をどうこうの話をしていたからおあいこですよ、おあいこ。
私は気絶している二人の間をとおって、送られてきた荷物を開けます。いくらお母さんでも開封はしなかったようで、開けるのには苦労しました。
ガサゴソと、中に入っているであろう服を想像しながら梱包を外していきます。
かわいい服かな……?きれいな服かな……?ボンテージみたいな服だったらどうしよう……?でも、きっと素敵なお洋服だろうなあ……。うわあ、楽しみ……。
ガサリ、と礼人君の送ってくれた服を目の前で広げてみて。
「……………………………………お母さん、お父さん、ごめんなさい」
何をするよりもまず、真剣に、横たわる両親に謝りました。
そのあと起きた騒動は言うまでもありませんが……。
起きた両親は礼人君のことその他もろもろを忘れていたようでした。もちろん、宅配便が来たことも忘れていました。人は本当に嫌なことはすぐに忘れると言いますが……そんなに私に彼氏ができることが嫌なことだったんでしょうか?
送られてきた服を着るかどうか悩む以外は、本当に普通の一日でした。……明日が楽しみ、なんですけど…………不安になってきました。