恋食い虫のいいんちょさんと、デートの約束!
ううん……。
目を開けます。
すると、見慣れたような見慣れないような部屋が、私の目に飛び込んできました。
ここ、どこだろう……?
「うう……?」
あ、そうだ。クレアちゃんの家でした。私、今日は泊ったんでした。
ゲームをしたあと、ご飯を頂いて、それからお風呂に入って、置かせてもらってるパジャマに着替えて、おしゃべりしながら眠ったんでした。
「……おはよう、メグ」
「あ、おはようです、クレアちゃん」
隣で寝ているクレアちゃんが起きました。
彼女はパジャマの胸元をはだけさせて、下もぎりぎりパンツが見えるかどうかの瀬戸際まで下ろされて、って……!
「く、クレアちゃん、パジャマ、パジャマ!」
「パジャマが、どうかした……?」
「は、はだけてる!めちゃくちゃエッチィ格好になってるよ!?」
私があわてて直そうとすると、ばっと、クレアちゃんは飛びのきました。
「……ふふふ、メグ?」
「な、何?」
「欲情した?」
「……あのね、クレアちゃん、私たち、女同士だよ?」
「だよね……。本当に欲情してない?」
「あの、クレアちゃん?」
いつものこととは言え、ドキドキします。
クレアちゃんは朝がとっても弱く、どういうわけか少しだけ性格が違うんです。……ちょっと妖艶っていうか、艶めかしいっていうか……。まあ、それでも女同士なので何にも感じませんが。
「今日も礼人君にぶつかるのよね?」
「ぶつかられる気がします……」
それも熱烈に、激烈に。
願ったり叶ったりの状況なんですけど、それでも……その、いきなり襲われるのはちょっと……。
「ま、あいつも人前で襲うほど馬鹿じゃないでしょ」
「……そ、そうでしょうか」
思いっきりクレアちゃんの前でもやめる気なかったですし。
「大丈夫だって!ほら、学校いこ!」
「は、はい……」
もちろん、私はいつも通りの日々が待っているのだと思ってました。
……この日からでしょうか。私の学園生活と日常生活と人生に異常が、いえ、変化が訪れたのは。
「ねえねえ!メグと兵部、付き合ってるんだって?」
「みゃ!?」
登校して教室に入った瞬間、友達の黒月 沙耶さんにそう言われました。
彼女は黒髪眼鏡のいいんちょさんです。……でも、性格はこの通り、恋の話が大好きな女の子なのです。
「どっからそんなガセネタ仕入れたのか聞かせてもらおうかしら、沙耶?」
「ふふふ!情報源は明かさない、それが組織の規則なのだよ!」
「どこの組織よ、それは……」
やれやれとあきれ返りながらクレアちゃんは嘆息しました。ちなみに沙耶さんはどこの組織にも所属していません。
「まあ、別にじかに聞かせてもらったわけじゃないから言うけど、兵部クンがそこらじゅうで喋りまくってるよ?」
「……」
クレアちゃんが黙りこみました。私も、顔を真っ赤にして黙っています。というか、何が起こっているのか理解できない、いえ、理解したくないのです。
だ、だって、礼人君が、私と付き合ってるって言いふらしてるって……!
「あ、あのバカ!次にあったら地獄めぐりを……!」
カラリ。
「……でさ、俺一目ぼれしちゃったわけ!あいつはほんっとに最高な女なんだって!」
「はいはい」
クレアちゃんが犯行予告を出したと同時に、礼人君が友達を数人ひきつれて教室に帰ってきました。
「こら!兵部!」
「お、クレアじゃん、どったの?」
「どったの?じゃない!あんた、さっきからなに口走って……」
顔を怒りの表情で染め上げてクレアちゃんは叫びます。それに対して礼人君は、涼しい顔で答えます。
「俺が綾瀬……じゃなくて、メグのことが好きってことと、昨日告白したらいい返事もらえたってことを言ってるだけだぜ?」
「なっ……!」
いろいろと事実が変わってます。先に告白したのは私ですし。
「……お、メグ、おはよう」
きらりと光るような笑顔。……ふわ、きれいだな……。
「お、おはようございます、礼人君」
「ん。実は今日な、お前に聞きたいことがあってきたんだ」
「聞きたいこと?」
私は首をかしげます。何だろう?
「お前、今日の日曜空いてる?」
「え、あ、はい」
反射的に答えました。予定なにかあったかな……?
「デートしよう」
「はい」
反射的に答えました。日曜日は空いてます、というか空けます。
「って、二人とも私を抜いて話さないで……って、だーめだこりゃ」
クレアちゃんのそんな声も、私にはほとんど雑音にしか聞こえません。
「ふふふ、恋人ができたら友情は薄くなる……人は情を一つしかもてないものなのよ!」
「……私はいつでも、メグの親友だけどね」
「クレアがそう思ってるなら向こうもそう思ってくれるよ、きっと」
なんだかとってもいいこと言ってるはずなのに、今私の目に映るのは、礼人君だけです。
「じゃ、今度の日曜ね」
「はい……!」
私はわくわくしながら、答えました。
楽しみだなあ。きっと、きっと楽しいんだろうな……。だって、好きな人と一緒に行くんだもん、絶対に、どこに行こうが楽しいよ!
そんな風に考えながら、私は友達のもとに戻る礼人君を見つめていました。
「……ったく、あんたはいっつも夢中になるとそうなんだから。物や趣味とは違うのよ?」
「わかってるよ、クレアちゃん」
微笑んで、私は言います。
「それならいいんだけどね。……それと、初デートで……いや、なんでもない。これはあんたに言うべきことじゃないわ」
「……?」
「ま、楽しんできなさい」
「うん!」
私はそれからも、楽しくおしゃべりしてクレアちゃんと沙耶さんと過ごしました。授業?まったく頭に入ってきませんでしたよ。仕方ないですよね。
そして、土曜日。
受難の日々の、始まりです。