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少しだけ、戻ります

 

 少しだけ、時間は戻る。


 綾瀬恵が兵部礼人に関して相談していた時のこと。

 星香ほしか クレアの自室。


――――――――――――――――

 

 トゥルルル……

 トゥルルル……


 ピ。


 「はいもしもし、クレアですけど?」

 『あ、クレアちゃん?私、メグ。夜遅くにごめんね?』

 「メグか。いいよ、暇だったし。で?今度は何の相談?」

 『バレバレかあ……』

 「あったり前よ。何年あんたの幼馴染やってると思ってんのよ」

 『……十年?』

 「リアルな数字は出さなくていいの。……で。何?」


 どんな些細なことでも、メグは真っ先に私に相談する。それが私にとっては心地よかったし、向こうも自分を親友だと思ってくれている証拠だと感じていた。


 『あ~っと、その。私の部屋のこと、なんだけどね……?』

 「えなに、どうかした?」

 『……このままでいいと思う?』

 

 しばらく、無言。私はかつての自身の言葉を思い出していた。


 「……え、まだ一昔前の少女マンガにでも出てきそうなラブリーで乙女チックな部屋のままだったの?」

 『そこから!?』

 「いや、確か『女の子らしい部屋にする!協力して!』って言ってたのって、高校一年の時……だよね?それから二年あったけど、まさか本気で今でもそのまま?」

 『う、……悪い?』


 悪い。私が。私は内心冷や汗をかきながらそう思っていた。まさか自分の助言がこんなに効いているとは思っていなかった。いつも飽きっぽいメグのことだ、すぐに飽きて部屋を戻す……そう思っての助言だったのに。

 どうもこと礼人のことに関しては、メグは一切妥協する気はないらしい。そんな確信が私の中に生まれた。


 「悪かないけど……。もしかして、兵部が来たときに備えて、自分の趣味、隠してるとか?」

 『……悪い?』

 「悪くはないけどさ、あんた兵部の趣味把握してる?」

 『え、いや、まだだけど……』

 「まだ、ってことはする予定なんだ」

 『当たり前です!』

 「……で、もし兵部が乙女チックすぎる女の子が嫌い、もしくは苦手としていた場合、どうするつもり?」

 『う……。で、でも!私の趣味だって、その、男の子に好かれる趣味とは、その、限らないし……』

 「あのね。あんたの好きにした部屋でも、嫌われるもしくは避けられる可能性あるし、今のままでもそうなんでしょ?同じ嫌われるんなら、ありのままを嫌われたら?作った趣味が原因で嫌われたら、やりきれないわよ?」


 むぐ、と息を詰まらせた音が聞こえて来た。……やっぱりなにも考えてなかったな。そんなことを想いながら、私は言葉を続ける。というか、メグは絶対、あれのこと忘れてる!


 「てか、まだ家にあげるどころか付き合ってもいないのにそんな先のこと考えてる場合か!あんたは真っ先に心配しなきゃいけないことあるでしょが!」

 『え?』

 「弁当よ弁当!考えた?」

 『……………あ』


 あ、じゃない!忘れてたわね!?


 「……忘れてたわね?」

 『ま、まさかそんなわけないじゃないですかクレアさん!』

 「嘘つく時は敬語になるって、あんたほんっとにわかりやすい癖ね」

 『ふみゅ!』

 「唸ってもダメ。……とにかく、あいつの好きな料理、教えてあげるから早くメモリなさい」

 『あうん!』


 私は昔のことを思い出しながら、兵部が好きなはずの料理をつらつらと言っていく。ペンを走らせる音がわずかだが聞こえる。


 『……ハンバーグに、肉じゃが、カレー、と。これで全部?』

 「まあね。もっと知りたかったら本人に訊きなさい」

 『うん!……………あれ?』

 「どうしたの?」


 ふと、メグが何かに気づいたようだ。まだ何か忘れてることでもあったのか?


 『……なんで礼人君の好み、知ってるの?』

 

 なにも言えない。言えない。言えるわけがない。言ったとしても、絶対に信じてくれない!


 しまった、なんなんだこの展開!?

 こんな些細なことで十年来の友情にヒビが入ったり、なんてことは……させない!


 「……偶然?」

 『クレアちゃんも私とおんなじぐらいわかりやすい嘘つくよね!?』

 

 なんでいつもはポケポケしてるのにこういう時だけは鋭いんだ!


 ど、どうするどうするどうする!?


 『まさかクレアちゃん、礼人君と付き合ったことあるんじゃ……?』

 「……………………………まさか」


 ……ふと、名案が思いつく。……そうだ、これなら……いけるか!?


 『く、クレアちゃんの……』

 「……あの、メグ?」

 『裏切り者おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』


 ぶちっ!


 ……うわあ、怒らせちゃった。……まあいいや。すぐに仲直りできるはずだし。……というか絶対に仲直りしてやる。是が非でも、だ。……と、言うわけで。



 ピ、ポ、パ。


 私はメグの妹に電話をかけた。まあ、一応弁解でもしておこうかな。


 「あ、可憐ちゃん?」

 『あ、はい?なんですか?またお姉ちゃんを騒がせて……』

 「ごめんごめん。今回は私のミスだから、その、悪いけど謝っといてくれる?」

 『なんで私が』

 「こんどパフェおごってあげるからさ。好きでしょ?『エンジェルスイーツ』のパフェ」


 ごくり、と唾を飲む音が聞こえた。……よし。


 『……し、仕方ないですね。今回だけですよ?』

 「はいはい。わかってるわよじゃあね~」


 そう言うと、私は電話を切る。


 ……ふう。明日どうしようかな……。

 私のことを親の仇みたいな目でにらんできたらどうしようか……。


 なんて不安を抱えながら……、私は眠りについた。







 ――――――――――――――――






 時は、戻る。

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