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Act.nine  作者: 夜空
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#7 「再燃する紅」


 チームノインヴェルト対紅坂茜の決闘。八対一という戦力差のある戦いだったが、先に戦況を動かしたのは茜が操る戦機神威丙式煌炎だった。


 三年生の茶上羅兎率いる前衛部隊と正面から衝突した煌炎は、先制攻撃で横山黄乃が搭乗する乙式の胴部耐久力を半分減少させた。想定以上の強さを前に、前衛部隊は羅兎機を殿として撤退を選んだ。


 しかし、追撃の手を緩めなかった茜は羅兎が搭乗する丙式を振り切り、黄乃機を逃がすために立ち塞がった清奈と百井がそれぞれ搭乗している乙式二機を一瞬で撃破した。


 黄乃機を取り逃がし、二機が倒れたその場所で羅兎機と向き合った煌炎。後衛部隊が援護に駆けつけるまでという限られた時間で、羅兎は決着がつかなかった戦いの続きを始めた…………






「リロードをする前に、押し切らせてもらう!」


 既に弾が殆ど残っていないことから、今度は逃さないという強い覚悟で煌炎に喰らいつく羅兎。熱い思いを抱きながらも、少しずつ追い詰めるようにエネルギーダガーを振るう。


 対する茜はどうにかして武装をリロードする隙を探しながら、紙一重で攻撃を避けていた。ダガーが何度も体を掠めたとしても、それに臆すること無く避けられるギリギリで後ろへと下がり続ける。


 徐々に壁際へと追い詰められる煌炎。最初の衝突と異なり、茜にとってかなり苦しい展開が続く。好機を狙ってひたすらに時を稼いでいたが、そう上手くはいかなかった。


『こちら後衛部隊空峰美宙、間もなく陣形の展開が完了します』


「了解。コマンダーへ、狙撃ポイントの指示を要請。私が敵機を誘導する!」


 近距離通信によって後衛部隊の移動が完了した報告が羅兎の耳に入る。近距離通信が可能な距離にまで後衛部隊が来たということは、無事に黄乃が合流出来た証だった。


 清奈と百井が撃破されたことは無駄ではなかったと知り、羅兎は遂に仕掛けることを決めた。エネルギーダガーでの突撃を止め、射撃で退路を防ぐ攻撃に切り替えた。


「……明らかに動きが変わった。後衛部隊が合流したのであれば、もはやこれ以上の時間稼ぎも必要ないか」


 急に突撃を止めた羅兎機を見て、茜はすぐに後衛部隊の合流に気がついた。このまま事を運ばれてしまえば集中砲火から逃れられないと考えた茜は、多少の無茶は承知の上で動きを変えた。


 先程まで飛び回っていたというのに、突如として羅兎機の前に着地した煌炎。エネルギーブレイドを構えたその姿は、これ以上は移動しないという意思の表れであった。


「ここで戦うことを選んだか……コマンダー、敵がこちらの狙いに気づいた。誘導を中止し、現在地での交戦と援護射撃を要請」


『交戦を許可します。そうですね……翠さん、先に援護へ。私たちも後から合流します』


『了解。緑山翠、羅兎機との合流を開始いたします』


 誘導が出来ないと判断した羅兎はすぐにコマンダーへ状況を報告し、優花里は最も近い翠に単独での先行合流を命じ、新たな任務を任せられた翠はすぐに待機地点から動き出した。


 通信を終え、羅兎は改めて目の前にいる戦機と向き合う。まるで返り血を浴びたかのような真っ赤な機体色、それに討たれた後輩たちの姿を重ねた羅兎は覚悟を決めてエネルギーダガーを構える。


「さて、少し早いが最終ラウンドといこうか」


 互いに近接武器を構え、その刃を向け合う。両機はほぼ同時に前へ踏み出し、そうして始まった丙式同士の近接戦。それは達人同士の戦いでしか見られないような、手に汗握る激しい攻防戦だった。


 どちらかが一歩前に踏み出し、ブースターの勢いを乗せて刃を振るう。機体に当たる寸前で避けることもあれば、盾で直撃を防ぐこともあり、互いに耐久力を削れないまま時間だけが過ぎていく。


 切り札の一つであるフルバーストを使ってしまい、もはや小細工の一つも出来ない煌炎。何とか逆転の隙を狙おうとするも、レーダーに映った新たな反応がその思考を鈍らせた。


「!? もう来たか、狙撃機!」


 こちらへ真っすぐ向かってくる新たな敵反応。まだ一機だけとはいえ、茜は絶対に避けなけらばならなかった後衛部隊との合流を許してしまった。


 狙撃機と近接機、相性の良い二機を相手するには接近戦だと分が悪い。そう判断した茜はエネルギーブレイドを収納し、当初の目的である武装のリロードを最優先として動き始めた。


「羅兎さん、援護いたします!」


「とにかく隙があったら撃て! 私がそれに続く!」


 どうにかして距離を取ろうとする煌炎に、二人はそれぞれの強みを活かしながら攻撃を仕掛ける。羅兎がエネルギーダガーで近付き、避けたところを翠がスナイパーライフルで狙う。


 絶え間なく続く連携攻撃の中、遂に煌炎の体を弾丸が貫いた。スナイパーライフルの一撃を受けた煌炎は一瞬動きを止め、その隙を逃さぬように羅兎は追撃を仕掛ける。


 胴部目掛けて突き出されるエネルギーダガー、それを茜は瞬時にシールドで防ぐ。さらに翠機の射線と羅兎機が重なるように動き、咄嗟の判断で援護を難しくすることに成功した。


「これで狙撃はどうにかなった、後は一気に距離を離す!」


 狙撃を通させないような立ち回りが出来るようになった茜は、反撃の一つも出来ない今の状況を打破するべく、被弾を承知で急速に撤退することを選ぶ。


 フルバーストでは使えずに残っていたエネルギーグレネードを全て射出し、即座にブースターを最大出力で起動。爆発に紛れるようにして、煌炎は戦闘から離脱した。


「くっ、まだ余力を残していたのか……」


「追いかけますか?」


「……いや、後衛部隊との合流が最優先だ。防衛網を固めれば、必ず突破しなければならなくなる」


 一瞬で障害物の陰に隠れた煌炎。翠は追撃をするか聞いたが、羅兎は冷静に下がって合流するべきだと返す。想いを託された者として戦いたい気持ちを抑えながら、羅兎は優花里に通信を繋いだ。


「コマンダーへ報告、敵機が撤退した。防衛ラインと合流ポイントの再検討を要請する」


『分かりました。では……そこから南にある広場へ移動し、そこで待機してください』


「了解。翠、私たちも撤退だ。後衛部隊と合流する」


 コマンダーへ防衛ラインと合流ポイントの再検討を提案した羅兎。地形を確認した優花里は南にある広場への移動を翠と羅兎に指示し、二機は煌炎が逃げた方向に背を向けて飛び立った。


 一方その頃。爆発に紛れて撤退した煌炎は安全な場所に身を潜め、フルバーストによって消費した射撃武装の弾をリロードコマンドで補充していた。


「……全エネルギー再充填完了。リロードコマンドは残り二回……でも、多分これが最後」


 全ての武装にエネルギーが充填され、それと同時にリロードコマンドの使用回数を示す緑色のランプが一つ消えた。茜は煌炎の姿勢をそのままに、状況を把握するために広域レーダーを起動する。


 マップモニターが縮小表示に変わり、レーダーの探査結果が新たに表示される。現在地から南の地点、広場となっている場所に敵反応が計六つ。既に迎撃準備が整っていることを知り、茜は画面をそのままに作戦を考え始めた。


 後衛部隊に配備されていた四機のうち、一機は狙撃機で残りは不明。コマンダーはその特性からして前衛に出なかっただけで万能型の可能性があり、一機はコマンダーの護衛だとして、残りの一機は二機目の狙撃機だと仮定。


 前衛部隊に配備されていた二機のうち、既に耐久力が半分の射撃寄り万能型で、もう片方は無傷だが武装と装甲が極端に少ない近接機。ポジションは前衛が一機、中衛が三機、後衛が二機。


「狙うなら前衛部隊の二機だけど、必ず四機の援護射撃がある。一瞬の隙を突いて後衛を狙うか、それとも前衛を引き剥がすか……」


 部隊の展開と配置から作戦を練る茜。前衛を狙えば後衛が、後衛を狙えば前衛が。必ずどちらかに隙を晒す完璧な布陣を前に、茜はどうすれば突破出来るかを考える。


 とにかく粘って小さな隙を突くか、それとも前衛と後衛を引き剥がしてから合流する前にどちらかを狙うか。どちらにせよ、この戦いに勝つためにはもう一つの切り札を使う必要があると茜は考えていた。


 どのような作戦にするかはともかく、そもそもこの決闘を申し込んだ理由、本当の力を示すという目的を果たすためには、自分と煌炎が持つ全ての切り札を使わなければならない。


「前衛の相手をしながら後衛を撃ち抜く。チャンスは一瞬……行こう」


 茜は目的を果たす決意を固め、コックピット内にあるひときわ目立つレバーを下げた。一瞬、煌炎のシステムが完全にシャットダウンし、すぐにシステムの再起動が入る。


 先ほどまで青色に光っていたライトが、全て黄色く光り始めた煌炎。移動のために茜は人間のような動きで煌炎を立ち上がらせ、目標地点である広場の方を向いて飛び立った。






「遂に出てきたな……各機射撃用意! 正面から来る敵機を撃ち落とせ!」


 まっすぐ広場に直進してくる機影を目視で確認した羅兎。後方で控えていた三機へ射撃による煌炎の迎撃を指揮し、自身もまた接近戦を仕掛けるために前進する。


 黄乃機、翠機、美宙機の三機による射撃攻撃が始まり、先程まで静かだった競技場の中にエネルギーライフルの発砲音が響く。何本もの青い光が空に描かれたが、煌炎はその全てを避けながら尚も突撃を続けた。


「うっそ、何発撃っても当たらないんですけど!?」


「細かな機体制御、だけとは言えませんね。もしかして……」


「多分、翠ちゃんの思ってることであってると思うよ。そうですよね、コマンダー?」


「……コアシステムの第二段階解放。あの動き、マニュアルコントロールで間違いありませんわ」


 どれだけ弾を撃っても当たらない状況に、思わず声を出す黄乃と翠。全く分かっていない黄乃と違いある程度の予想が出来ている翠。戸惑いを隠せない一年生二人へ教えるために、美宙はコマンダーである優花里に答えを求めた。


 コアシステムの第二段階解放と、それによって可能となるマニュアルコントロール。優花里の答えは翠が予想していた通りだったが、その事実が確定したことで黄乃が再び声を上げた。


「第二段階解放って……あれのことですか!? だって、あれってAIによる機体の制御を切って自分で動きを制御するから、生え抜きのアクトレスでも習得するのが難しいって……」


「なるほど……確かにマニュアルコントロールであればあの細かい動きにも納得ができます。やはり凄い方ですね、茜さんは」


 煌炎はマニュアルコントロールを使用していると分かった今、その難しさについて身を以て知っている黄乃はさらに驚き、翠は実技訓練を共にしたからこそ彼女が持つ実力に納得した。


 紅坂茜が決闘の理由として話していた真の実力。その片鱗は既に垣間見えていたが、さらにコアシステムの第二段階解放まで使えると判明し、その件で三年生たちは決闘の展開に少し悩んでいた。


「関心してる場合じゃないよー。あれ、どうするの? こうなったら三年生だけで相手する?」


「……それも良いかもしれません。翠さん、黄乃さん、美宙さん。少し離れたところでサレンダーをお願いしてもよろしいですか?」


 茜がまだ力を秘めているという事実を前に、一年生や二年生では荷が重いと感じた美環。数よりも連携を重視しなければ敗色濃厚だと、そう感じたのは美環だけではなかった。


 美環の言葉を受けて、優花里はコマンダーとして黄乃と翠と美宙の三人に離れた地点でサレンダーすることを指示した。それだけの判断を迫られる相手だということを感じた三人は、反発することなくその指示を受け入れた。


「りょーかいです。三年生の先輩たちはともかく、私たちじゃしょうがないか」


「そうですね……お力になれず、すみません」


「じゃあ、私は百井と清奈ちゃんを回収してから直接戻りますね。先輩方、後はお願いします」


 大人しくサレンダーすることを受け入れた三人。黄乃と翠は後方に下がってから降参状態に入って機体を停止させ、美宙は降参状態に切り替えながら清奈と百井の回収に向かった。


 三機が降参したことは、遠方から突撃していた茜もすぐに確認した。レーダーに降参状態を示す白い反応が三つ増え、三年生の本気を感じながら煌炎は広場へと進む。


 紅坂茜の想いに応えるため、少数精鋭となったノインヴェルト。一年生の頃から培ってきた連携力と相対する茜は、切り札が自分だけの物では無いことを思い知らされる。

――戦機神威丙式煌炎のちょっとした話#2

「前回に引き続き、今回も戦機神威丙式煌炎のお話だよ! まさかコアシステムの第二段階とフルバーストシステムを解放してるなんて、流石にこれは想定外だったよ」


「真の実力を示すと言った理由、涼凪さんならもう分かっていますよね」


「そうだね……マニュアルコントロール、つまりAIが機体を制御するんじゃなくて、アクトレスが機体の制御をするテクニック。これが出来るからと言うより、これを使うから決闘を申し込んだってことだよね?」


「はい。トップアクトレスには実績と技術の二つが求められますから。得た物を無駄には出来ませんので」


「マニュアルコントロールはちゃんと扱えれば状況を変えるための強力な切り札になる。だけど、アクトナインは二人一組。マニュアルコントロールを使いたかったら、二人とも使えないと意味が無いんだよね」


「ノインヴェルトの関連資料によると、第二段階解放をしたアクトレスはコマンダーである優花里隊長ただ一人。でも、コマンダーは一人乗りですから」


「つまり、他にも組める相手が欲しくてチームの力を見極めたかったと。それにしては随分と手荒な方法だけど、もしかしてアレに倣って?」


「ノインヴェルトに加入申請をしたアクトレスは、チームメンバーと一対一の決闘を行う。それはチームへ入るために必要な試験であると。尤も、スカウトは例外だと記載されていましたが」


「皆、先輩たちに実力を認められてからチームに入ってるんだよね。それじゃあ今回はここまで。次回も涼凪ちゃんの後書きコーナーをよろしくね!」

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