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Act.nine  作者: 夜空
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#6 「力を示す紅き煌炎」


 チームノインヴェルトの隊長、紫乃崎優花里による紅坂茜のスカウトは、茜本人の希望によって誰も予想していない展開となった。


 本当の力を示すために、八対一の決闘を受けて欲しいと話す茜。常識では考えられないような戦力差がある決闘に反発の声が上がる中、優花里はその決闘を引き受けた。


 引き受けてくれたことに感謝してから戦機第二格納庫へ向かった茜。装動戦機のカスタムを依頼していた鈴蘭と再開し、自らが依頼した戦機神威丙式煌炎に搭乗する。


 そして今、遂に決闘の準備が整った。九機の装動戦機がカタパルトに待機し、決闘の開始を告げるカウントダウンを静かに待っていた。


『両陣営に通達。ただ今より、紅坂茜とチームノインヴェルトによる決闘を始めます。スリーカウントの終了と同時に、カタパルトの起動をお願いします』


 全ての装動戦機が待機状態となり、それを確認した鈴蘭が見届人として両陣営に通信を入れる。いよいよ決闘が始まるのだという実感に包まれながら、見届人によるスリーカウントが始まった。


『それでは……3! 2! 1! 出撃開始!』


 静かな競技場の中にカウントダウンが響き、終わると同時にカタパルトから戦機が射出される。見た目と動きに統一感があるノインヴェルトの八機、それに対するは赤い輝きを放つ紅坂茜専用機の煌炎。


 広大な競技場に進入した茜は、降り立つことなくブースターを吹かし続けて移動を始めた。飛行中にマップとレーダーを起動し、今のうちにノインヴェルトの出方を確認する。


「前衛四機と後衛四機、コマンダーは最後方。狙撃部隊による掩護射撃は厄介だけど……前から順に狙って墜とす!」


 レーダーで敵チームの動きを確認した茜は敵の不意を突くため、敢えて自分から前衛に噛みつくことを選び、ブースターをさらに吹かして突撃を始めた。この選択が吉と出るか凶と出るか。全てはノインヴェルトの作戦次第だが……


 茜が突撃を決める少し前のこと。やや中央よりの地点に降りたノインヴェルトは、たとえ敵機が一機だとしても油断することなく、数の差を活かした戦い方を選んだ。


 狙撃銃を持った二機と護衛一機と共にコマンダーが後衛に回り、残りの四機が前衛として正面から囲んで戦う。二段包囲と名付けられた作戦を、隊長の優花里はメンバーに話した。


「では皆さん、お伝えした通りにお願いしますね」


 作戦を伝え終わると同時に、少女たちはそれぞれの持ち場へ移動を開始した。狙撃機である二機は後方の遮蔽物に潜み、優花里は護衛と共に最後方へ。そして残りの四機は敵の反応を目指して前進していたが、中央を越えた辺りで予想外の反応を目にした。


「!? 全機迎撃準備! この速度、このまま突撃するつもりだ!」


 サブコマンダーとしてモニターをチェックしていた羅兎が目にしたのは、予想を遥かに超えるスピードで接近する敵機の反応だった。全速力で突撃する煌炎に対し、四機はまだ包囲陣形すら組めていなかった。


「嘘、もう!? まだ陣形だって――」


「目を離すな! 黄乃、前を見ろ!」


 想定外の事態に焦りを隠せない少女たち。右翼側に居た黄乃は驚きながらも包囲を急いたが、その行動がむしろ仇となった。煌炎は少し向きを変え、三機から離れるように動いた一機を狙う。


「しまっ――くぅぅぅ!」


 右腕を伸ばして突撃して来た煌炎に胴部を掴まれた黄乃。地面を引きずられながら腕部ビームガンを放たれ、一方的に耐久力が削られてしまう。


「各機援護開始! 奴を引き剥がせ!」


 初撃こそ許してしまったが、追撃を阻むように羅兎は指示を出す。三機は煌炎へ向けて射撃兵装で攻撃を開始したが、流石にそれを喰らうような動きをするわけもなく、攻撃の開始と同時に煌炎は手を離して遮蔽物の裏に隠れた。


「くっ、逃げられたか。黄乃、残存耐久力を報告!」


「残り十点なので、ちょーっと前には出たくないんですけど……」


「そうか……狙撃部隊、そちらから逃走中の敵機を狙えないか?」


『先程から狙っていますが……遮蔽物の間を縫うように移動しており、こちらからは射撃できません』


 敵に隠れられた前衛部隊は、今のうちに被害状況などの確認を済ませる。黄乃機は既に胴部耐久力が半分となり、要の後衛部隊も煌炎の動きを捉えられずにいた。


 被弾せずに実質一機を脱落させた紅坂茜。羅兎はその腕を心の中で称えながらもサブコマンダーとしてある決断をし、コマンダーである優花里へ進言するべく通信を開く。


「……コマンダー、後衛部隊か前衛部隊の移動を要請する」


『そうね……では、前衛部隊は最終防衛ラインへ移動を開始してください』


「了解。前衛部隊に通達、これより最終防衛ラインへ後退する。黄乃機を先頭とし、清奈機と百井機は先頭に随伴。私は最後尾で殿を務める」


「「「了解!」」」


 コマンダーへどちらかの部隊が移動することを提案した羅兎。戦況を鑑みて優花里はより援護がしやすい前衛部隊の後退を伝え、前衛部隊は新たに隊列を組み直して後退を始めた。


 損傷している黄乃機を先頭とし、中距離戦も得意な清奈機と百井機を護衛とし、近距離戦に特化している羅兎機が殿を務める。万全の体制で後退を始めた前衛部隊、その動きを遠方からレーダーで捉えた茜は、合流を防ぐため遂に動いた。


「やはり来たか。敵機接近! 私が迎え撃つ、その間に移動しろ!」


 遮蔽物の隙間から突如として現れた煌炎。攻撃を予測していた羅兎は三人に移動を指示し、自らは殿として敵機に接近した。


「仲間を逃がした? ということは、あれがサブコマンダーか」


「悪いが一年だからと容赦はしないぞ。先の分は返させてもらう!」


 前衛部隊の動きから茜は正面の丙式がサブコマンダー茶上羅兎の機体であることを理解した。接近戦を得意とし、経験もある相手。それを踏まえ、十分に警戒しながら茜は交戦を開始した。


 丙式と丙式煌炎。同世代、同タイプの機体が激しくぶつかり合う。しかし、武装を多く搭載している茜の煌炎と違い、羅兎機は速度を突き詰めた近接戦闘特化型。まともに近接戦をすれば、その違いが勝敗を分けるのは明白だった。


「同じ丙式、だが速度はこちらの方が上。武装の重量を甘く見たな!」


 加速力の違いにより、飛び回る煌炎を徐々に追い詰める羅兎機。殿として相手をしながらも、羅兎は黄乃たちから距離を離すようにして戦っていた。


 向かわせないように、無視をさせないように。そんな動きをしているのが分かっていた茜は、攻撃を防ぎながらもこの場を切り抜ける機会を狙っていた。


「流石に接近戦は相手に分がある……後退中の部隊はまだそこまで離れてはいない。……仕方ない。無茶をしてでも取りに行く!」


 徐々に競技場の端へと向かっていく二機の丙式。このままでは距離を離された上、煌炎が壁を背負わされた状態でタイマン勝負をすることになってしまう。そんな現状を打ち破るべく、茜は敢えて隙を晒すようなルートで障害物の間を抜け始める。


 狙撃を警戒しながら幾つも角を曲がり、煌炎は最初に通った地点と真っ直ぐ繋がる道へ出た。遠く離れた場所に戦機の背中を見た茜は、迷わずブースターを最大出力で起動した。


「なっ!? 前衛部隊に通達、敵機がそちらに向かった。狙いは黄乃だ!」


 急な動きに対応することが出来ず、羅兎機の頭上を凄まじい勢いで通り抜ける煌炎。咄嗟に通信を入れながら羅兎は動き始めたが、最高速に到達した煌炎は羅兎機でもすぐには追いつけなかった。


「了解。黄乃、ここからは一人で後退して」


「いやいや、流石に私も戦わないとまずくない?」


「まあまあ、ここは私たちに任せて。俺に任せて先に行けー! ってね」


 煌炎の接近とその狙いを羅兎から通信で聞いた清奈と百井は撤退を止め、黄乃一人を最終防衛ラインまで撤退させることを選んだ。


 最初は自分だけ戦わないことに思うところがあった黄乃だが、今の状況と自分の状態と仲間からの想いで考えを改め、覚悟と共に仲間たちへ背中を向けた。


「清奈……百井センパイ……分かった。絶対に皆を連れてくるから、それまで待ってて!」


 新たなやるべきことを胸に、最終防衛ラインで待っている後衛部隊の下へ向かった黄乃。その背中を守るように、二機の戦機神威乙式が煌炎の前に立ち塞がった。


「さてと。カッコつけちゃったし、頑張ろっか」


「ええ。黄乃は追わせません」


「……丙式の合流と後衛部隊の合流。防ぐ為には時間を掛けられない。一瞬で片を付ける!」


 ダメージを負っている黄乃機を狙う煌炎と、その進路に立ち塞がる二機の乙式。煌炎が射程内に入った瞬間、直進を防ぐように清奈が射撃攻撃を開始し、百井はクロスファイアを組むように移動を開始した。


 ばら撒かれる弾丸を避けながら、もう一機の動きも把握する立ち回り。無理難題にも近しい動きを求められた茜は、最低限の動きで完璧に熟していた。


「あの動き、まるで次に撃たれる場所が分かってるみたい……百井さん、もう少し前に行けますか?」


「んむむ……ちょっと厳しいね。さっきからちょうど攻めたいタイミングでミサイルとかグレネードが飛んでくるんだよ。流石にその中を突っ切るのはハイリスクだし……」


 清奈の射撃を避けながら、機会を見計らっている百井を牽制する。その動きには一切の無駄が無く、とても二対一で戦っているとは思えないほど煌炎には余裕があった。


 動きながらどうするかを考えていた茜は、今の状況を冷静に分析して作戦を練り上げる。残弾を気にしなければならない清奈機と、接近戦を狙うがあまり攻め手に欠ける百井機。そして遥か後方からこの場所へと迫る羅兎機。


「二機の武装構成的に残弾をそろそろ考えなければいけなくなるはず。後方から接近する反応もちょうど見えた。仕掛けるなら……今!」


 仕掛けるなら残弾を考えて射撃を渋った瞬間だと考えた茜。望んでいた通りの展開がすぐに訪れ、ビームキャノンの援護射撃が無くなったことを確認した茜は敢えて攻勢に出た。


「うわっと!? いきなりこっちに来るなんて!」


「百井さん!! 今援護を――」


 急に百井機へと狙いを変えた煌炎。その動きは流石に止めなければならないと思った清奈は、出し渋っていたビームキャノンを構えたが、その咄嗟の判断が茜の反撃を許した。


 構えの姿勢を取った清奈機。次の瞬間、ガラ空きとなった胴部を青い光が貫いた。それは百井機を狙っていたはずの煌炎が放ったビームキャノン。茜は百井機を狙うフリをして、清奈機の胴部を撃ち抜いた。


「くぅっ!? 今の一瞬を撃ち抜くなんて……」


「清奈ちゃん! これ以上、そっちの好きには――」


 戦況が悪化し始め、これ以上の時間稼ぎは難しいと感じた百井。清奈の援護を信じ、被弾覚悟で前に踏み込む。だが、それすらも茜は読んでいた。


 空中でビームキャノンを撃った煌炎に、エネルギーダガーを構えた百井機が迫る。完全に射撃の隙を突いた攻撃。しかし、斬られたのは仕掛けた側である百井機の方だった。


「焦って前に出るのも読めてる。これで終わり!」


 百井機が腕を突き出すよりも前にブースターを吹かした煌炎。右腕のエネルギーブレイドを構えながら百井機の横を抜け、通り際に胴部へ一撃を加えた。


 そのまま着地した煌炎は、即座に振り向いてからブースターを吹かす。こちらを振り向こうとしている百井機へと接近しながらビームキャノンを放ち、上昇しながらエネルギーブレイドを振り上げた。


「うっそ、でしょ……」


 ほんの小さな隙から一瞬で胴部の耐久力を全損した百井機。コアの稼働が即座に停止し、機体は静かに膝をついた。止めることが出来なかった清奈は、力強い想いで煌炎を睨みつける。


「っ……一人でも、まだ!」


 向かい来る煌炎へ射撃で時間を稼ぐ清奈。百井機が落とされた以上、自分が助かる頼みの綱は後衛部隊か羅兎機の到着のみ。何としても合流するため、清奈は必死に足掻いた。


 しかし、先を急ぐために全力を出した茜は躊躇うことをしなかった。撃ち合いの最中、煌炎が持つ全ての武装から無数の光が解き放たれ、照射されたエネルギー弾が乙式の全身を貫いた。


「そん、な……」


 目立った攻撃はエネルギーキャノンの一撃しか受けていなかったというのに、一斉射撃によって全身の耐久力が瞬く間に減少し、一瞬にして清奈機は機能を停止した。


 ノインヴェルトの二機が静かに眠りつき、このタイミングでようやく羅兎機が合流した。守る者は地に伏せ、守られた者は既に遥か遠く。合流することも考えられたが、羅兎の目には煌炎だけが映っていた。


「フルバースト……最後まで足掻いたんだな」


 静かに羅兎機の方へ振り向いた煌炎。全ての武装が白い煙を上げており、羅兎はリロードするまで再使用出来ない一斉射撃(フルバースト)コマンドを清奈が茜に使わせたのだと察した。


 フルバーストを使わせるだけの善戦をしたが、それでも傷一つない煌炎。守るために残った後輩たちの無念を晴らすべく、羅兎は煌炎へと刃を向けた。


「さて……後衛部隊が来るまでの間、少し短いが第二ラウンドといこうか」


 もはや守るべき者すらいない小さな戦場で、二機は静かに向かい合う。意志を継いだ者と既に全力を尽くした者。炎は再び燃え上がり、決闘を新たなステージへ誘う。

#6 「力を示す紅き煌炎」

――戦機神威丙式煌炎のちょっとした話#1

「今日は戦機神威丙式煌炎のお話だよ! 茜ちゃんの専用機として鈴蘭ちゃんがカスタムした機体なんだけど、茜ちゃんはどんな機体として調整を頼んだの?」


「全距離対応型の武装を各スロットに取り付けながらも、丙式が持つ速度という特性を活かした万能寄り速度攻撃特化型として鈴蘭さんに依頼しました」


「結構なカスタムを依頼したんだね〜。攻撃と重量と速度、そのどれも犠牲にすることなく良い感じのバランスでカスタムが出来るのは、流石は鈴蘭ちゃんだね」


「同室の付き合いしかありませんが、良きエンジニアと巡り合えました。そう言えば、鈴蘭さんはフリーランスのエンジニアですが、やはり学園内では有名なのですか?」


「元々鈴蘭ちゃんは中等部一年の頃から注目されてたんだけど、二年の時にフリーランスへ転向してからは依頼が殺到する程の有名人になったんだよね。そんな鈴蘭ちゃんがカスタムした煌炎、大事にしないとだね」


「はい。初となる私の専用機、地に落ちるその時まで共に使命を全うするつもりです」


「ちょっと気持ちが重たい気もするけど……それぐらい大事に扱うってことだよね。それじゃあ今回はここまで。次回も涼凪ちゃんの後書きコーナーをよろしくね!」

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