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Act.nine  作者: 夜空
13/14

#13 「順応し適応する力」


「……へぇ、驚いた。まさかあそこからこんな動きを始めるなんて」


「まるで曲芸みたいな動きで……しかも、その状態であんなにも正確な射撃を。まだコアの解放も行っていないのに」


 AI搭載型装動戦機の投入から僅か数分後。本気を出さなければ勝てないと理解した紅坂茜と緑山翠は互いを気にしない動きに切り替え、見事に劣勢から抜け出していた。


 競技場内を縦横無尽に飛び回り、攻撃役のことなど一切考えずに敵の攻撃を避け続ける翠。そんな中でも茜の照準には常に敵機の姿があり、引き金を引けば必ず弾丸が命中していた。


 確実に、少しずつ。一回のダメージ自体は高くなかったが、それ以上に驚くべき点は装動戦機が繰り出す動きとその動きから放たれた弾丸の命中率である。


 動きによる照準の補正と逆補正。動きが少なければ少ないほどAIの照準補正は強くなり、激しい動きをすればするほどAIの照準補正は弱くなる。


 だが、ブーストダッシュやブーストステップ、急上昇に急下降といった非常に激しい動きをしているにも関わらず、茜の弾が外れることは一度もなかった。


「一瞬の停止だけでもこの精度……システムの処理が少し変わっただけでここまで性能に差が出るとは」


「滑らかに動きが止まるこの感じ……高機動ならではの動き、というわけではないんですよね。これが新世代の力……」


 空中で停止し、その一瞬で敵機を撃ち抜く。本人たちも半信半疑で全力の動きをしていたが、それは徐々に出来るだろうという願いから確信へと変わった。


 この第四世代なら、やりたいことが全部出来る。そう思った二人は遂にお互いへの配慮を全て捨て、本気の動きを互いに行い、その甲斐あって遂に先頭の敵機が膝をついた。


「!? や、やりました! 装動戦機神威丁式、敵機を一機撃破しました!」


「やるじゃん二人とも!」


 人間離れした動きで遂に敵機を撃破した茜と翠。その動きをずっと見ていたエンジニアたちは、見せた反応こそ違えどその結果にとても驚いていた。


 一機目の撃破を反撃の狼煙とし、攻勢に出た装動戦機神威丁式。AI機たちを追い詰めるように少しずつ圧倒し始める中、それを見ていた芹は一人不敵な笑みを浮かべていた。


「……へぇ、こうも上手くやるなんて。やっぱり一年生は侮れないね。じゃあ……こんなのはどうかな?」


 思いついたことをさっそく実行に移すため、手元の携帯端末を操作した芹。操作したのはAIの自動指揮プログラムで、芹はAIに新たな指令を送信した。


 送信の完了と同時にAI機たちの動きが変わり、茜と翠は警戒しながら攻撃を続けたが、一瞬にして四機によるフォーメーションが組まれてしまった。


「これは……なるほど、こちらの動きを阻害する陣形でしょうか」


「リアルタイムでの対策……流石はプロのエンジニアというわけですか」


 動きにもすっかり慣れた二人の前に立ちふさがった四機のAI搭載型装動戦機。自由に飛ぶことを許さない徹底した集中攻撃が始まり、二人は反撃の機会を失ってしまった。


 世界にも通用する高度な動きを前に、二人は被弾を減らすことしか出来ずに居た。翠は回避を徹底し、茜はシールドを展開する。とても銃を構えて反撃するような隙は無かった。


「芹さん、いくら何でもやりすぎなんじゃ――」


「……いや、そうでもなさそうだ。まあ、見てればすぐに分かるよ」


「それって、どういう――」


 あまりにも無慈悲なAI機の動きを前に、やりすぎなのではないかと口を挟んだ菜七。だが、その先を見ていた芹は動きが変化し始めた瞬間を見逃さなかった。


 逃げ続けていたはずの装動戦機神威丁式。反撃の余裕なんてあるはずがなかったのに、僅かだがその動きに余裕が見え始めていた。


 体の向きを変える動きと、シールドを構える動きから徐々に無駄が無くなっていき、数秒後には銃を持っている左手を常に構えられるようになっていた。


 右手でシールドを構えながら、左手のアサルトライフルで敵機を狙う。止まらない動きの中で慎重に狙いを定めた茜は、遂に反撃の一手を打った。


 一方的な戦いの中から放たれた弾丸は、戦闘の流れを一瞬にしてひっくり返した。高度過ぎるが故に反撃を対策するために動きを変えようとしたAIは自ら隙を作り、さらにその隙を突くように茜は攻撃を続ける。


 陣形を変えようと試みた敵機を集中砲火し、一瞬にして二機目を撃破。そこからマルチパックの武器に手を伸ばし、立て続けに武器を持ち替えながら怒涛の連続攻撃を喰らわせる。


 初めにグレネードランチャーで敵機を分断し、スナイパーライフルで孤立した敵機の脚部を撃ち抜く。倒れた敵機をアサルトライフルで蜂の巣にし、あっという間に三機目も撃破した。


「マルチパックの自動給弾があるから、残弾さえ見ていればそれでいい……翠さん、ここからは接近戦を仕掛けます!」


「分かりました。では、攻撃はお任せします!」


 完全に戦闘の流れを掴んだ茜は敵機に接近してほしいと伝え、翠は回避行動を中断して床に着地する。敵機の方に向き直し、翠は思いきりブースターを点火した。


 ブースターの点火と同時に茜は右手のシールドとマルチパックのブレードを交換し、左手のアサルトライフルをショットガンに交換。その二つを構えた装動戦機神威丁式は、真っ直ぐ敵機に突撃する


 当然迎撃行動が始まったが、それを最低限の動きで躱しながら懐に飛び込む。ガラ空きの胴部にショットガンをお見舞いし、離脱しながらブレードで胴部を切りつける。


 相手の反撃を受ける前に離脱し、その動きに合わせてショットガンをもう一発撃ち込む。距離が離れてしまい致命傷には至らなかったが、最後に隠し武装であるダガーを胴部から取り出し、それを投擲して四機目を撃破した。


「四機目撃破……これで、最後!」


 茜と翠の連続撃破によって遂に最後の一機となったAIチーム。四機が膝をついた競技場で始まったタイマンバトル。最初に動き出したのは装動戦機神威丁式だった。


 踏み込んだ翠の動きに合わせて、茜は右腕のブレードを振る。機体が高速で敵機の左右を往復し、その度にブレードが切り裂く。連続ヒットのダメージは凄まじく、あっという間に最後の一撃を決める機会が訪れた。


「茜さん、今です! 最高のラストヒットを!」


「これで……終わり!」


 ブレードのラストヒットに相応しい最後の一撃を決めるため、装動戦機神威丁式は天高く飛び立ち、敵機目掛けてその刃を振り下ろした。


 青白く光り輝く刃が、AI搭載型装動戦機に振り下ろされる。一刀両断された胴部は残っていた耐久力を全て失い、勝者である装動戦機神威丁式だけがその場に立っていた。


「……ふぅ、最後はアドリブでしたが合わせていただきありがとございました」


「いずれは魅せるための動きも必要ですから。こちらこそ、ありがとうございました」


『二人ともお疲れ様! そしておめでとう〜! まさかあれを全て倒しちゃうなんて、流石に想定外だったよ!』


『茜さん、翠さん、本当にお疲れ様でした。間もなく機体の回収を始めますので、また戻ってきたらお話をしますね』


 ようやく第四世代型装動戦機のテストが終わり、テスト終了と同時に観客席から通信が入った。様子をずっと見ていた花咲姉妹から労いの言葉があり、そこからすぐに回収作業が始まった。


 回収機によって回収され、第一格納庫に戻ってきた装動戦機神威丁式。全ての部位に耐久力を残した状態で戻ってきたその姿は、まるで大戦に勝利した英雄のようだった。


「改めてお疲れ様〜!!! 二人とも本っ当に最っ高だったよ!」


 コックピットから降りてきた茜と翠。すっかり疲れ切ってしまった二人を迎えたのは、観客席から移動して来たエンジニア四人による盛大な拍手だった。


「こちらこそ、第四世代のテストという貴重な体験をありがとうございました。これまでとは一線を画す性能を持つ機体。そのテストに参加出来たこと、光栄に思います」


「この第四世代型装動戦機には一機だけで戦況を変えるだけの力があると、そう思わずにはいられないほど素晴らしい機体でした。それで……そちらの方々は初めまして、ですよね」


 四人の拍手を受けながら、第四世代型装動戦機のテストを行った感想を話した翠と茜。第四世代型の力を感じることが出来た二人は、心の底から参加出来たことに感謝していた。


 そんな感想に続けて、茜は初めて見るエンジニア二人に目を向けた。チームについての資料を見た際に名前だけは知っていた二人、鈴白菜七と草薙芹。初顔合わせということで、まずは茜が口を開いた。


「一年生の紅坂茜です。本日は第四世代型のテストにお誘いいただき感謝します」


「二年の鈴白菜七です。こちらこそ、本日は第四世代型装動戦機のテストを受けていただきありがとうございました」


「三年の草薙芹。随分とまあ派手にやってくれちゃったもんだ。……まあ、その分こっちも面白いものを見せてもらったよ」


 相手が上級生ということで、普段よりも礼儀正しく名乗りと感謝を述べた茜。菜七はお嬢様らしい振る舞いで返事を、芹は気怠そうな性格らしい言葉で返事を返した。


「それじゃ、細かい感想も聞かせてもらおうか。第四世代型、どうだった?」


「そうですね……簡潔に言えば、何もかもが第二世代型と第三世代型を超えていると感じました。エンジニアによる改修はもちろんのこと、基本性能に旧世代とは圧倒的な差があるかと」


「コアの解放をせずとも、まるでAIの補正を無視するかのような自由で安定した操作性。その上で補正による快適性も合わさり、とても素晴らしい時間を過ごすことが出来ました」


「……そう。なら良いけど」


 お互いに名乗ったところで、芹からテストの細かい感想を求められた茜と翠。二人ともその性能に賞賛の言葉を贈ったのだが、それを受け取った芹は少し残念そうな反応を返した。


「…………もう一つだけ聞かせて。何か気になったことはある?」


 二人が感想を言い終わった後、少し間を空けてから芹が再び感想を求めた。乗ってみて何か気になったことはなかったかと、その言葉には何か理由がありそうな感じだった。


「うーん……私からは特にこれと言ったことは何もありませんが、茜さんはどうですか?」


「……そう、ですね……一つだけ、違和感だと思ったところがありましたが……」


「話してみて。何が違和感だと思った?」


 気になったことはあったかと言われても、特に何もなかったと答えた翠。一方、茜は一つだけ違和感があったと答え、その言葉に芹は珍しく食い気味に何を違和感だと思ったのか問いかけた。


「…………"AIの補正"、あれが最後の方は私たちの動きに合っていたような気がしたんです。戦闘データを基にエンジニアがAIを調整するはずなのに、まるでAIがリアルタイムで学習しているかのような……」


 翠が特に何も気になるところは無かったと答えた一方で、茜はAIに関してある違和感を感じていた。戦いの最中、突然補正の掛かり方や切れ方が自分たちの動きに適応し始めていたと。


「AIの学習……でも、第四世代型に搭載されているAIユニットは旧世代と変わらないはずじゃ……」


「そうそう。細かい調整はされてるはずだけど、基本的にはあんまり変わらないんじゃなかったっけ?」


 茜が感じた違和感、それを聞いたエンジニア三人は首を傾げた。第四世代に積まれているAIは旧世代の物から殆ど変化しておらず、故に性能の違いをそこまで感じること自体が不思議なことだったのだ。


「……あの、芹さん。もしかして――」


「……ふふっ、あっははっ! やっぱり、私が思った通りだ! プログラムをしっかりすれば、第四世代のコアならアレが動く! これだよ、私が知りたかったことは!」


 何故そんなことが起こったのか。その理由に心当たりがあった菜七が口を開いた瞬間、芹の大きな笑い声大きな独り言が格納庫の中に響いた。


 芹の急な笑い声に驚いた五人の少女。何かを人知れず期待していた彼女の笑い声が収まり、話を遮られた菜七は改めて口を開き、今度はしっかりと芹に向かって疑問を投げかけた。


「芹さん……もしかしなくても、勝手にシステムAIを自作の物に交換したんですね? あれほどテストに乗り気だったのは、データの蓄積がないアクトレスを乗せたかったから。そうですよね?」


 搭載されているAIを勝手に交換し、その結果が欲しくてテストの準備を手伝ったのか。先ほどまでの落ち着いた様子ではなく、まるで問い詰めるかのように菜七は話し始めた。


「あー……これは始まったね。鈴奈、二人で先に作業始めちゃおっか」


「う、うん……茜さん、翠さん、改めてご協力いただきありがとうございました。では、私たちはデータ整理などの作業がありますのでお先に失礼しますね」


 菜七の話が始まると同時にその様子から何かを察した涼凪は鈴奈の手を引き、まるでこの場から逃げるかのように二人はこの場を後にした。


「勝手にしたことは謝るけど、でも良いデータが取れたのは事実。これが旧世代にも落とし込めるようになれば戦力アップ間違いなし、でしょ?」


 一年生のエンジニア二人がテストの結果をまとめに向かった直後、全くもって反省していない様子の芹が反論をするために口を開いた。


 確かに勝手なことをしたが、新戦力のためには仕方なかった。そう得意げに話した芹だったが、その言葉が菜七の心に蓄積されていた感情を爆発させた。


「……何で……何でそうやっていっつも勝手なことばかりするんですか! どうして勝手にこんなものを実装しちゃうんですか! 会議だと適当なことばっかり言うのに、こういう大事なことは何一つ自分から言わないし、そうやって勝手なことをされると困るっていつもいつも――」


 ここまで溜まっていた怒りを一気に爆発させるように口をまくし立てる菜七。先ほどまでの様子からは考えられないほどの激情に、茜はどんな顔でここに居ればいいのか分からなくなっていた。


「……あの、これは一体……」


「少し、席を外しましょうか。今の芹さんには、菜七さんからの言葉が必要なんですよ」


「は、はぁ……そう、ですか……」


 菜七によるお説教が始まってしまい、思わず翠に聞いてしまった茜。チームにとっては既によくある光景ということもあり、慣れている翠は茜を連れて格納庫を去った。


 二年生による三年生への説教が格納庫に響く中、双子の姉妹はデータ整理に着手し、二人の少女はチームルームへ向かう。テストは本当に終わりを迎え、少女たちはいつも通りの日常へと戻る。


 第四世代型装動戦機と、草薙芹が生み出したカスタムAI。新たな力は何を生み出すのか。その道を知るチームリーダー紫乃崎優花里は、次の一手を考えながらその時を待っていた…………

――チームノインヴェルトのちょっとした話#5

「今回はチームノインヴェルトについてのお話です。改めて初めまして茜さん、二年生の鈴白菜七です。よろしくお願いしますね」


「三年の草薙芹、これからよろしくねー」


「菜七さん、芹さん、こちらこそ今回はよろしくお願いします」


「では今回のお話ですが、今回は私たち上級生エンジニアについてのお話ですね。まずは私から。エンジニア専門の二年生で、主な業務はプログラム関係とお部屋のお片付けを担当しています」


「……片付け、ですか?」


「エンジニアって、やっぱり仕事してると部屋が凄いことになってくんだよね。だからそれをどうにかしてもらってるってわけ」


「道具を片付けたり、ゴミを捨てたり。作業は付きっきりになることが多いですから、快適性を保つためには結構大事なお仕事なんです。では次は芹さんの番ですよ」


「はいはい……エンジニア兼アクトレス、メインプログラム担当。好きなことは寝ること。嫌いなことは働くこと。……ま、こんな感じかな」


「相変わらず適当に……芹さんはいつもこんな感じですけど、神威女学園どころか世界で見てもトップレベルのプログラマーなんですよ」


「なるほど……つまり、エンジニアの皆さんはしっかりとした個性と確かな腕をお持ちなんですね」


「そーいうこと。じゃ、今回はこの辺で」


「私たちの出番は今回限りで、次回からはまた元に戻りますので。では、次回の後書きコーナーもよろしくお願いしますね」

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