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Act.nine  作者: 夜空
12/14

#12 「丁の型番を背負いし新世代の力」


 花咲姉妹の案内で第一格納庫を訪れた紅坂茜と緑山翠。新たにノインヴェルトへと配備される新機体の試乗を頼まれた二人が目にしたのは、これまでのモデルとは一線を画すデザインの装動戦機だった。


「これは……まさか第四世代……?」


「その通り! これが今回ノインヴェルトに導入されることになった最新型、その名も……装動戦機神威丁式ノインヴェルトカスタムだよ!」


 見たことがないデザインを前に、思わず声を漏らした茜。その呟きに反応した涼凪が三人の前に出て、注目を集めながら装動戦機の紹介を始めた。


 神威重工が新たに開発した第四世代型装動戦機、その名も装動戦機神威丁式。既にエンジニアたちの手によってカスタマイズが施されたそれは、ただならぬ雰囲気と共に佇むその姿は、まるで搭乗者のことを待っているかのようだった。


「新機体のお話は聞いておりましたが、確か隊長機だとお聞きしたような……?」


「確かに最初はコマンダーの専用機として予定していたんですけど、優花里隊長からの指示で二人乗りも出来るようにしたんです。今回はそのテストということで、茜さんと翠さんのお二人に搭乗していただきます」


「とりあえず細かい話は後でちゃんとするから、茜ちゃんと翠ちゃんはコックピットで待っててね!」


 本物の第四世代を実際に目にした茜と翠。これからこの機体に搭乗するのだという実感が湧いてくる一方で、翠は隊長である紫乃崎優花里専用機だと聞いたことについて話した。


 そんな翠の疑問に鈴奈が答えた。翠が聞いた通り計画初期はチームの隊長、つまりコマンダー専用の一人乗りを予定していたが、その隊長からの指示で二人乗りも可能にしたのだと。


 翠の疑問に答えが示されたところで、話もそこそこに涼凪が搭乗を急かし、二人は急かされるがままコックピットへと向かった。


 搭乗用の通路へと上がり、装動戦機神威丁式の前に立った茜と翠。第二世代用共通コアブロックとは明らかに異なるデザインに息を呑みながら、コックピットの中に入る。


 全体的にさらなる近未来感を意識しながらも、決して視界の邪魔にはならないように光量の管理が徹底されたデザイン。コックピットの中は、快適という二文字が相応しい空間となっていた。


「硬すぎない低反発のクッションに、まるで頭を包み込むようなヘッドレスト……凄いですね、これは」


「計器類の配置は変わっていませんが、少し気になっていた部分が解消されている……これからはこれが標準ということでしょうか。ふふっ、技術の進化とはやはり素晴らしいですね」


 従来のカスタム品を越えた質の良さに、二人はすっかり魅了されていた。まだこの一機しか配備されていないが、全戦機がこの仕様に変わる未来を想いながら二人はシートに腰を下ろした。


『あー、あー、マイクチェックマイクチェック。二人とも、コックピットの調子はどう? 何か変なところとかあった?』


「変なところなんて……寧ろ、凄すぎるぐらいですね」


「ええ。第四世代の素晴らしさはもちろんのこと、皆さんがどれだけ丁寧にこの機体を改造したのか、その想いを既にこの身で感じております」


 二人がシートに座ったところで、格納庫内の端末を操作している涼凪から通信が入った。聞き取りやすいスピーカーから声が入り、二人は率直な感想を涼凪に伝える。


『ふっふっふ、何と言っても最新世代である第四世代型装動戦機ですから。じゃあさっそくで悪いんだけどシート右側の肘置きに収納があるから、その中にあるマニュアルを取ってもらえる?』


「肘置きに収納って……なるほど、スライドするとカバーが開くんですね。第四世代操縦マニュアルノインヴェルト改修版、これで合ってますか?」


『そうそう、それそれ! じゃあ最初のページを開いてもらって、まずはその機体について色々と説明するね。まずは――』


 言われるがままシートの肘置きに手を伸ばし、隠し収納の中から操縦マニュアルを手に取った二人。マニュアルの確認が取れたところで、涼凪による第四世代型装動戦機と装動戦機神威丁式ノインヴェルトカスタムの説明が始まった。


 戦機神威丁式、ノインヴェルトカスタム。仮決定としてそう名付けられたこの機体は、高い拡張性と対応力を活かしたカスタムが施されている。その違いは素人目で見ても明らかであり、マニュアルにはその使い方についてもびっしりと書かれていた。


 第四世代の操縦方法、装動戦機神威丁式の特徴、ノインヴェルトカスタムの変更点、各スロットに追加された武装の使い方。涼凪による長い長い話がようやく終わり、その説明からやるべきことを理解した茜が口を開いた。


「……なるほど、大体の仕様は把握しました。つまり私たちがするべき手伝いというのは、二人乗り時の対応能力を主とした性能検証、ということで間違いないですか?」


『その通り! 私たちエンジニアも一応操縦は出来るけど、やっぱり実戦経験があるアクトレス特有の動きがあるからね。その癖がどう出るのか、どう影響するのか、それを知りたかったんだ』


「そういうことでしたか。確かに、そういった実戦的なデータとなれば私たちアクトレスの出番ですね」


『そうそう、そういうこと! それじゃあ説明も済んだところで、リフトをカタパルトまで動かしちゃうね〜』


 茜の予想は見事当たり、エンジニアからの手伝いとは実践の経験に基づいた動きがどう影響するのかを知るためのテストだった。


 説明と手伝いの内容が話し終わり、遂に機体を乗せたリフトが動き出す。背部に積まれた武装たちを揺らしながら、リフトはカタパルトにゆっくりと固定される。


「……紅坂茜、準備完了」


「緑山翠、同じく準備完了しました」


 カタパルトに固定されたことをコックピットから確認した二人は、最後に機体と各武装に問題が無いかを確認し、準備が完了したことを通信で伝えた。


『では、改めて試験の内容を確認します。本試験はフリーランディングトライアルをベースとしており、最後にAI搭載型第三世代戦機との模擬戦を行っていただきます』


『破壊できなくてもいいから、なるべく全ての的を狙って動いてね! それじゃあ……テストスタート!』


 出撃前最後の確認が鈴奈から改めて行われ、その説明に続いて涼凪が試験の注意点について話したところで事前に行う説明が全て終わり、カタパルトから勢い良く機体が射出された。

 

 第一格納庫から射出された一機の装動戦機。綺麗な純白のボディが風を切り、ライン状の青い光が空中に軌跡を残す。姿勢を崩さない丁寧な逆噴射で着地し、降り立つと同時に試験が始まった。


「始まりましたね、トライアル……本当に大丈夫なんでしょうか?」


「さあ? 実力は確かだけど、第四世代のパワーに振り回されるかもね」


「お二人とも初見ですから、確かに操縦面で一抹の不安は残りますが……私たちノインヴェルトのエンジニアが改造したんですから。……きっと、大丈夫ですよ」


「そうそう、鈴奈の言う通り! きっと二人なら第四世代でも大丈夫だよ!」


 試験が始まり、その様子を観客席と格納庫から見届けるチームノインヴェルトのエンジニア四人。上級生である二人は茜と翠の実力について心配していたが、花咲姉妹は茜と翠のことを信頼していた。


 心配と信頼を寄せられる中、茜と翠は装動戦機神威丁式の操縦に集中していた。地を蹴り、空を飛び、銃口を的に向け、引き金を引く。いつもしていた当たり前の動作だったが、第四世代の違いはここにも出ていた。


「っ……反応と動きに癖がある……でも、狙い撃つ!」


「次は……前方右から三つ。動きを合わせるのでお願いします!」


 少しだけ動きに手間取っているが、それでも次々と的を撃ち抜く二人。アドバンスドフレームのおかげで多少の無理が効くと分かってからは、息を合わせて難なく的を狙っていた。


 的を撃ち抜きながらコースを走り、あっという間にテストは最終段階に移行した。ブザー音と同時に第二格納庫から機体が飛び出し、競技場内にAI搭載型の装動戦機たちが降り立った。


「……さあ、ここからが本番だよ。私がカスタムしたこいつらを相手に、初めての第四世代でどれだけ戦えるのか……楽しみだね」


 地を揺らすほどの衝撃と共に降り立ったのは、五機の装動戦機。五機全てAIが搭載された第三世代型装動戦機であり、まるで本当にアクトレスが乗っているかのようだった。


 的を狙うのはあくまでも操縦に問題が無いかを確認するための物。この模擬戦こそ、第四世代の対応力がどれだけのものなのか、そしてそれをアクトレスが発揮させられるのかを見るための本当のテストだった。


「五機を相手に……なるほど、これは中々ハードなテストですね」


「流石にこれだけの数を前にすると緊張してしまいますね……茜さんは大丈夫なのですか?」


「ええ、私たちは絶対に負けませんから。テストとはいえ……これら全てを倒してしまっても構わないのでしょう?」


「……お強いのですね、茜さんは。それなら、今はその強さを頼りにさせていただきます!」


 目の前に着地した五機の装動戦機を前に、思わず立ち止まった茜と翠。二人はそれぞれの思いを口にし、それでもテストに臨んで勝つことを選んだ。


 翠が機体を動かすと同時に五機も動き出し、遂に模擬戦が始まった。牽制するような射撃を掻い潜りながら前進し、茜はシールドを構えながらアサルトライフルを構える。


 翠が回避行動に専念して機体を動かし、茜が狙いを付けて敵機を撃ち抜く。だが高性能のAIを搭載した敵機は決して楽な相手ではなく、これまでの的と同じように当たるはずが無かった。


 銃口から青い光が放たれるも、敵機に当たる寸前で躱されたり、避けられない攻撃は腕部で肩代わりするなど、敵機の数を減らせないまま戦いは続いた。


「結構苦戦してるみたいですね……いくら第四世代とは言えやっぱり五機同時投入はダメだったんじゃ……」


「……まだ、本気じゃないみたいだね。あくまでも二人はテストをするつもり、ということかな……」


 射撃をしながら前進と後退を繰り返す姿を見て、菜七が苦戦しているようだと呟く。だが同じ光景を見ているはずの芹は苦戦しているとは思っていなかった。


 苦戦しているというよりも、ただ本気を出していないのだと感じた芹。慎重な動きと射撃でしか攻撃していないのは、基本的な動きでテストをしているのではないかと彼女は予想した。

「……けど、そんなんじゃ満足出来ないよね。二人には悪いけど、本気を引き出させてもらうよ」


 だが、これでは満足する結果は出ない。わざわざこの程度の動きではテストをする意味がない。第四世代と二人の本気を引き出すために、芹は端末を操作してAIのリミッターを解除した。


「……!? カメラアイの色が変わった……?」


「まさか……翠さん! すぐに回避行動を――」


 AI搭載機たちのカメラアイが緑色から赤色に変わる。それを見た翠は動きを鈍らせ、茜が回避行動の指示を言い終わるよりも先に青い光が放たれた。


 確実に胴部へ当たると思われたが、直撃する寸前で茜が咄嗟にシールドを展開し、何とか胴部への被弾だけは防ぐことが出来た。


 だがその一発で攻撃の手が止まるはずもなく、先頭の一機に続いて後方の四機も丁式に銃口を向け、今までは狙ってこなかった距離からも次々と弾丸が放たれる。


「リミッターが外れたAIの実力は、世界にも通じるレベルだと聞いていましたが……流石に、これは……」


「第四世代の性能があるとはいえ、本気でやらないと勝てそうにありませんね……」


 明らかにレベルが違う動きを前に、翠は丁寧な動きを何とか保ちながら躱しながら立ち回る。しかしこのままでは追いつめられるのも時間の問題であり、何が負担になっているかを理解している茜は賭けに出ることにした。


「……翠さん、私が当てやすいように動くのではなく、回避行動を続けながらとにかく攻撃チャンスを増やしてくれますか?」


 たとえまともに敵機を狙えるようなタイミングでなくとも、とにかく攻撃する機会を増やして欲しい。それがこの戦いを勝つために茜が考えた作戦だった。


「それは、構いませんが……それで当てられるのですか?」


「撃ちます……いえ、"必ず当てます"。だから、私を信じてお願いします」


 実力を知っているとはいえ理論も何もない提案を耳にした翠はそれで敵機に弾を当てられるのかと聞き返したが、茜ははっきりとした声で自らの意思を言葉にして返した。


「……分かりました。では、少々荒っぽい動きになりますので、しっかりとお願いします!」


「ええ、必ず撃ち抜いて見せます……さあ、反撃開始です!」


 全力で敵機から逃げていたはずの装動戦機神威丁式は突如動きを変え、互いに敵機を狙うことが難しい変則的なルートで競技場の中を飛び回り始めた。


 この変化がAI搭載機との戦いにどのような結果をもたらすのか。二人のアクトレスとそれを見守る四人のエンジニア。少女たちは今、第四世代が持つ本当の実力を目撃する。

――第四世代型装動戦機のちょっとした話#2

「前回に引き続き、今回も第四世代型装動戦機についてのお話だよ! 茜ちゃんが今回登場したノインヴェルトカスタムだけど、実は凄まじい量の武装が搭載されているんだよね」


「頭部、胴部、腕部、腰部、脚部に二つ、そしてマルチパックに八つ。計十八個のスロットとそれを埋め着く大量の武装。これだけの武装を搭載できるだけのパワーがこの機体に……?」


「ふっふっふ、もっちろん! 第四世代用のコアとアドバンスドフレームは従来のモデルを大幅に超える性能を持っているから、これまでだと過積載で出来なかった武装構成が出来ちゃうんだ!」


「武装があれば選択肢は増えますが、切り替えや管理が難しくなる。この辺りはアクトレスとエンジニアでしっかりと話し合う必要がありますね」


「そうだね。特に第四世代型装動戦機は基本性能が凄く高いから、万能に出来るからと言って何でも積んじゃうのは良くないね」


「……それにしてはノインヴェルトカスタムの武装が随分と多い気がするのですが……」


「そ、それは……それは、コマンダーが全距離で戦えるようにしただけだから! そ、それじゃあ今回はここまで! 次回も涼凪ちゃんの後書きコーナーをよろしくね!」

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