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Act.nine  作者: 夜空
11/14

#11 「第四世代型装動戦機」


 現在から時は少し遡り、一年生アクトレス四人が楽しく買い物を楽しんでいた頃。その一方、ノインヴェルトのチームルームではとある会議が行われた。


「突然の招集でごめんなさい。花咲姉妹から完成の報告を受けたら、居ても立ってもいられなくって」


「私は構わない。むしろ、完成の瞬間を楽しみに待っていたぐらいだったからな」


「気にしないで。どうせやることも無かったからね」


「芹さんはそうかもしれないですけど。私、今日はお休みだったんですけど……」


 チームルームの奥にある作戦会議室。その中で円形のテーブルを囲む四人の少女。二年生一人と三年生三人という、中々に珍しい光景が広がっていた。


 アクトレスである紫乃崎優花里と茶上羅兎。そしてエンジニアである鈴白(すずしろ)菜七(なな)草薙(くさなぎ)(せり)。隊長である優花里から突然呼び出されて三人はここに集まっていた。


「まあまあ、文句言っても仕方ないでしょ。菜七、資料の一番」


「相変わらず人使いが……この埋め合わせは必ずしてもらいますからね。こちらがノインヴェルトで運用する新たな神威製装動戦機、第四世代型の開発資料及び改造計画書です」


 相変わらずやる気の無さそうな芹に言われ、持って来た鞄の中から資料を取り出した菜七は三人にその資料を配る。分厚い紙の束を片手に、少女は説明を始めた。


 第四世代型装動戦機。装動戦機の現行モデルでは最も新しい世代であり、その特徴は従来の世代を大幅に超えたカスタマイズ性。ノインヴェルトは今年の激戦を見据えて、新型の導入を計画していた。


「第四世代にも様々なフレームタイプが新たに追加されていますが、今回はアドバンスドフレームを採用しました」


「変形機構が無い普通の二脚型だけど、その代わりに基本性能はトップクラス。うちの隊長さんにはぴったりのやつだね」


 新型としてエンジニアが選んだのは、拡張性と基本性能に優れたアドバンスドフレームだった。従来のスタンダードフレームから大きな変化は無く、第四世代の中でも普通であることが特徴なフレーム。


 オールラウンダーとして戦える紫乃崎優花里のことを考え、エンジニア同士が意見を出し合ってこのフレームは選ばれた。だが、当の本人は自分が搭乗する以外のことも考えていた。


「こちらの装備ですが、可変式ライフルを中心としながら各スロットに武装を追加することで全距離での対応を可能にする予定なのですが、どうでしょうか?」


「……可変式ライフルではなく、マルチパックによる武装切り替え。というのはどうでしょう」


 新型についての説明を続けていた菜七。武装に関する話を終えながら意見を伺うと、優花里は菜七の提案とは異なる案を出した。


 それはマルチパックによる武装切り替えを用いることで、ありとあらゆる場面に過不足無く対応するという案。アクトレスとエンジニア、その両面から高い技術が求められる難易度の高い提案だった。


「確かに、マルチパックなら各スロットにさらなる自由度が生まれるけど……確実に問題は増えるね」


「一応新型の名目上はただの専用機ではなく、コマンダーの専用機なんだろう? 優花里以外にも使えるのか、それは」


「美宙さんなら問題ないと思いますが、現状ではやや不安が残るのは事実ですね。菜七さん、細かい調整をお願いできますか?」


「うーん……ある程度なら出来ると思いますけど、どのレベルに合わせるのかというところが少し。美宙さんが乗れる程度でいいんですか?」


 優花里からの提案に、厳しそうな表情を浮かべる三人。マルチパックにすれば当然ながら操作の複雑化は避けられず、それは優花里以外に誰も乗れない可能性があるということ。


 次期コマンダー最有力候補である空峰美宙であってもやや不安が残る。それを解決するにはエンジニアの腕が問われるが、優花里はそこにもう一つ条件を付け加えた。


「……いえ、紅坂茜さんも含めてお願いします」


「茜さん……というと、新しい一年生のアクトレスですよね。噂になってた例の転校生」


「ええ。彼女には素質がありますから、今のうちからそれを伸ばしたいのです」


 優花里が付け加えた条件、それは加入したばかりの紅坂茜も含めて調整するというものだった。噂だけ耳にしていた菜七は念のために確認を取り、優花里は間違いないと言葉を返す。


 三年生と二年生に加えて一年生、しかもコマンダー経験の無い少女も搭乗出来るようにする。いつにも増して厳しい条件に、二人の少女が疑問を口にした。


「……そうまでして肩入れするなんて珍しいね。何か惹かれる部分でもあった?」


「同感だ。彼女は類稀な実力を持っているが、普段からあんな無茶をするようならコマンダー向きとは思えない。何か理由があるなら教えてくれないか」


 一年生の頃からエンジニアとして関わっている者として、アクトレスとして関わっている者として、それぞれ言葉を話した芹と羅兎。


 どうしてそこまで茜に拘るのか。その理由を問われた優花里は何かを思うように目を閉じ、かつて一度見ただけで忘れられなくなった景色を思い浮かべながら口を開いた。


「茜さんを見つけたあの日、不思議とその姿が重なって見えたのです」


「重なって見えた? それって一体……」


「……チームココノエザクラ隊長、桜木(さくらぎ)(よる)。かつて、国内最強と呼ばれた彼女と」


 陽咲焔と紅坂茜。二人の決闘を見たあの時、茜の戦い方と装動戦機の動かし方が、チームココノエザクラの隊長である桜木夜と重なって見えた。優花里の口から出た予想外の言葉は、会議室に静寂をもたらした。


 桜木夜。かつて、他を圧倒する程の戦闘スキルと采配スキルから国内最強と謳われ、中等部を無敗の状態で終えた少女。現在は高校二年生のアクトレスである彼女と、決闘で見た茜の姿が似ている。確かに優花里はそう口にした。


「……そう言えば、夜も中等部で転入してからあっという間に駆け上がった天才アクトレスなんて言われてたっけ」


「もしかして、本島の方で知り合いだった……とか?」


「知り合いだからと言って、戦い方が似るとは思えないが……いや、まさかそういうことか?」


 誰も予想していなかった名前が出たことに、三人は困惑や戸惑いを隠せなかった。神威女学園に通っている者なら、アクトナインに関わっている者なら、きっと誰もが知っている名前。


 それが島の外から来た上に公式戦の記録が無い少女と関係があるかもしれないという話は、三人に深く考えさせ始めた。


 様々な憶測が飛び交う中、それらはあながち間違いでも無いような気がしてならなかった。細かい情報の点と点が線で繋がり、不確定だとしてもその名前は確かに紅坂茜へと繋がった。


「彼女は中等部二年最後の試合で大怪我を負い、回復したとしてもトップアクトレスになるのは絶望的だと言われていた。まさか、それが理由なのか?」


「トップアクトレスへの執着か……ありえない話じゃなさそうだね」


「でも、夜さんってそんな感じでしたっけ? トップアクトレスにも、そこまで拘りはなかったような……」


 紅坂茜と桜木夜は本島で知り合っており、アクトレスの夢となるに相応しいトップアクトレスを諦めることになってしまった夜のため、茜はこの学園に来た。


 だが、この理由もそこまで納得のいくものではなかった。桜木夜という少女のことを同学年故に多少詳しい菜七は、彼女にそこまでトップアクトレスへの想いは無かったと話す。


「確かに、夜さんはトップアクトレスを取ることに拘っていたわけではありません。ですが、栄光への道が途絶えたとなればどうでしょうか」


「……つまり、叶わないとなれば欲しくなると?」


「その可能性もありえるでしょうが……夢を勝手に受け継いだ。という方が私は近しいと考えています」


 トップアクトレスに執着していないなら、紅坂茜がそこに拘る理由は何か。その答えを優花里はやや遠回しな言い方で三人に示した。


 紅坂茜は桜木夜の想いを勝手に受け継ぎ、自分勝手な行動でトップアクトレスを目指していると。これまでの茜を思い返せば、確かにその言葉は最も腑に落ちるものだった。


「……で、そうだとしてどうするつもり? その一年の子をどうしたいの?」


 茜が抱えている理由について話していたその時、話が落ち着いた瞬間を狙って芹が口を開いた。理由はともかく、結局第四世代をどう調整するのかと。


「もしトップアクトレスという夢に囚われているのであれば、私たち三年生がしてあげられることは夢から目覚めさせてあげることだけでしょう」


「それが余計なお節介だとしても、か?」


「コマンダーの後任育成も兼ねていますし、どのみち私たちが取れる選択もそう多くはありません。尤も、エンジニアの皆さんの協力が不可欠ですが」


 芹からエンジニアとして問われた優花里は、その考えを変えることなく話し始めた。トップアクトレスという夢に囚われているなら、道を示すことでその夢から覚ましてあげるべきだと。まるで、誰か別の人物と重ねるかのように。


 だが、この考えは結局この場で辿り着いた憶測でしかない。羅兎はそれがお節介だと言うが、だとしてもこの選択にはメリットがあると優花里は返した。


 紅坂茜をコマンダーの候補とするかどうかで、二人の間に生まれてしまった対立。予測を信じるのではなく慎重に判断するべきだと言う羅兎と、現状で予測できる情報から今のうちに動こうとする優花里。


 両者の意見は真っ向から対立するものであり、会議室の中自体は静かな様子でありながらも、確かに剣幕な雰囲気が漂っていた。


「……いいんじゃないの、別に。コマンダーの資格がどうとかはともかく、少なくとも実力は十分あるんでしょ?」


 重苦しい空気が広がる中、それを吹き飛ばすような言葉を芹が口にした。一先ず細かい話は考えずに、とりあえず茜が新型に乗れるよう調整してしまえば良いと。


「芹さん……でも、今から調整ですよ? 月末までに間に合うかどうか……」


「ま、何とかするしかないね。そこは私たちの腕の見せ所ってことでしょ」


 だが、エンジニアにさらなる負担が掛かる話ともなれば黙っているわけにもいかず、同じエンジニアである菜七がこの話に口を挟んだ。


 第四世代型装動戦機の調整項目を新しく追加した場合、果たして今月末に行われる勝ち抜き戦までに調整が間に合うのかどうか。


 完全にエンジニア頼みとなってしまっている問題を不安がっている菜七に、芹は珍しくやる気を見せることで答えを示す。


 あの草薙芹が何とかするしかないと言った。それはこのチームノインヴェルトにおいて、どのような言葉よりも信じるに値する確かな言葉だった。


「……本当にそれで良いのか? 来月になってからという選択肢もあると思うが」


「早いに越したことは無いし、うちの隊長さんはこういう返事が欲しかったんだろう?」


 芹の言葉を聞いた羅兎は何も急がずとも他に手はあると言って確認をしたが、芹は優花里の方に目を向けながら早いに越したことはないと答えた。


「……ええ、長い付き合いから分かっていただけたようで何よりです。エンジニアの皆さんにはお手数おかけしますが、改めてこちらの件をお願いできますか?」


「…………はあ、分かりました。こうなったらとことん付き合いますよ私も。涼凪ちゃんと鈴奈ちゃんに言っておけば良いですよね? 芹さんは私が戻るまでに準備しておいてくださいね!」


「分かってるよ。じゃ、また後で」


 三人の視線を集めながら、優花里はゆっくりと口を開いた。芹に感謝を示しながら、エンジニアの二人に向けて頭を下げながらお願いの言葉を口にする。


 チームの隊長が言葉と共に頭を下げる。その行動で遂に折れた菜七は渋々その話を飲み込み、やることを口に出しながら会議室を去り、それに続いて芹も調整の準備をしに向かった。


 エンジニアの二人が去ったことで、会議室は随分と静かになった。紆余曲折あったが無事に話も終わり、優花里と羅兎は親しい友人として先程の会議で出た話について話し始めた。


「本当のところ、どのぐらい予想が合ってると思ってるのか聞かせてくれないか?」


「絶対、とまでは言いませんが、少なくともかなり的を得ていると思っています」


「何処からそんな自信が出てくるんだ……何か知ってることでもあるのか?」


 紅坂茜と桜木夜の繋がりについて、改めて問いかけた羅兎。優花里は余裕の姿勢を崩すこと無く答え、そこに何かあるのかと思った羅兎は何か知っているのかと尋ねた。


「……ココノエザクラに復活の兆しがあると、そんな噂話を最近よく耳にするのです」


 尋ねられた優花里は、学園で流れているある噂話について話した。桜木夜がココノエザクラを復活させようと秘密裏に動いていると。


「……本当なのか? フリーランスになってからは戻る気配が無いと聞いていたが」


「ココノエザクラの元チームメンバーである四垂(しだれ)桜吏(ろうり)さんからもお聞きしたので、何か起こるのは間違いないかと」


「そういえば、桜吏とは親しい仲だったな。だが、どうしてその話が茜に繋がるんだ?」


 あまり聞いたことがない噂話に首を傾げる羅兎。だが、優花里はその噂話を友人であり元ココノエザクラのメンバーである四垂(しだれ)桜吏(ろうり)からも聞いたと情報の裏も既に取っていることを話した。


 情報の裏も取っていることから、確かに噂話の信ぴょう性はあることが分かった。しかし、どうして復活の予兆が茜に繋がるのか。それを分かっていない羅兎に、優花里は自身をこの考えに至らせた最大の情報を話した。


「実は、ココノエザクラから茜さんをスカウトするお話があったそうです。チーム自体がまだ復活もしていないという、あまりにも早すぎる段階で」


 紅坂茜と陽咲焔による決闘の後、密かにココノエザクラから茜へスカウトがあった。これこそが二人の少女に関係があることを裏付ける情報だった。


「……なるほどな。復活もまだ予定だというのに、わざわざ新入生へ声をかけるのはおかしいと。そういうことか」


「復活のためにメンバーを補充するとしても、新入生を充てること自体がレアケースだというのに、茜さんは転入生でまだ学園生活に日が浅い。仮に勝利を目指しているとしても、少し気になる話だと思いませんか?」


「確かに引っ掛かる。ココノエザクラ自体がそこまで実力者集団ではなかっただけに、考え方の変化や特別な理由が無ければそうそうありえない話というわけか……」


 チームが復活する場合、殆どは以前と同じメンバーが集まる。だが、かつてのチームメンバー全員が集まるという保証は何処にも無く、様々な理由でチーム人数が不足する場合がある。


 メンバーが不足した際には当然メンバーを集めなければならないが、その殆どはフリーランスとして活動している上級生のアクトレスに声を掛けることだった。


 チームの復活は新しくチームを作るよりも手間が掛かるため、その負担に加えて新入生の面倒も見れる余裕は少ない。故に新入生をスカウトすることは余程の理由が無ければ滅多にない。


 そして、余程の理由が出来るほどココノエザクラは勝ちに拘っていたわけではなく、元々は桜木夜を中心とした友人たちで集まって出来たチームである。


 このことから優花里は勝利のために茜をスカウトしたという状況はおかしいと感じ、元から二人は知り合いであった可能性が高いと考えていた。


 ようやく納得できる話を聞けた羅兎。スカウトの理由に違和感があることへ同意を示し、二人の意見は遂に一致した。


「色々と考えられることは多いですが、少なくとも茜さんを譲るつもりはありません。もし対立してしまった時は、きっと戦うだけですから。さて、そろそろ私たちも行きましょうか」


「……そうだな。何があっても、私たちは戦うだけだ」


 長い時間を掛けて、ようやく桜木夜と紅坂茜についての話が終わった。茜に関してはスカウトした以上は何処にも渡さないという結論で、ココノエザクラに関しては対立するなら戦うだけだと結論を出し、二人も会議室を後にした。


 桜木夜。彼女の行動がノインヴェルトにどのような影響を与えるのか、そして紅坂茜が望むトップアクトレスの夢は誰の為の物なのか。交錯する願いと願いが絡み合い、それは装動戦機の中で新たな真実を映し出す。

――第四世代型装動戦機のちょっとした話#1

「今回は第四世代型装動戦機についてのお話だよ! 茜ちゃんは第四世代について何か知ってることはあるかな?」


「現在の最新世代であり、従来の装動戦機よりも高い拡張性と基本性能を持つ。こんな感じでしょうか」


「その通り! 第四世代に使われているアドバンスドフレームは、発展型という名前に相応しい進化を遂げているんだよね」


「私は発表の配信を見ていたわけではありませんが、この第四世代が実質的に最後の世代だという話を聞きました。涼凪さんはどう思いますか?」


「これ以上の世代となると、よっぽど革命的なアイデアが無い限りは第四世代が当分の間は最新なんじゃないかな」


「となれば、長く戦うことを考えて今のうちに慣れておいた方が良さそうですね」


「そうだね! とは言っても、まだまだ第四世代は高価で希少だから全てのチームに保有可能数は一機までっていう制限があるんだけどね」


「そうなると、当分はコマンダーやエースの専用機という扱いになりそうですね」


「まあ実際の運用方法はチームによるだろうし、慣れておいて損ってことはないと思うよ。それじゃあ今回はここまで! 次回も涼凪ちゃんの後書きコーナーをよろしくね!」

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