#10 「新たな出会いは鈴の音と共に」
決闘の翌日。朝早くからチームルームへ向かった茜は一年生のアクトレス三人と出会い、横山黄乃の思いつきで四人一緒にショッピングモールへお出かけすることに。
服飾店が並ぶイーストエリアで二人組に分かれ、茜は黄乃と一緒に様々な服を試着した。その中から気に入った服を茜はプレゼントしてもらい、紙袋と共に二人は集合場所へと向かった……
「翠ちゃんたちもおつかれ〜。何か良いものは見つかった?」
「一通り見て回り、普段使いできそうな春服を二セットほど購入しました。清奈さん、これからはトレーニングが終わったらこちらに着替えてくださいね?」
「まあ、善処はする……それより。茜、黄乃が迷惑かけなかった?」
「迷惑だなんて。むしろ、私の方が色々と教えていただきました」
事前に決めていた集合場所で二人を待っていた茜と黄乃。待ち始めてすぐにかなりご機嫌な様子の翠と満更でもなさそうな清奈の姿が見え、その様子からお互いに良い買い物が出来たことを知った。
「それじゃあ服はこの辺にしといて、ちょっと遅めの朝ごはんにしよっか」
「賛成。今朝はまだ何も食べてないし」
「確か、今日はカフェに新作が並ぶ日ですよね。せっかくですし、皆さんで行きませんか?」
「そっか、アレが出るの今日だったっけ。皆で楽しく過ごすならファミレスも良かったけど、そっちも良いね。茜ちゃん、今からカフェでも大丈夫?」
「ええ、私は構いませんよ」
茜と清奈の服を買ったところで、黄乃は朝ごはんについて話し始めた。時間的には朝食を食べるにはやや遅いぐらいだったが、腹ペコの少女たちは朝ご飯を求めて動き出す。
話し合いの結果、案内人となった黄乃の案内で四人が訪れたのはイーストエリアの反対側であるウェストエリア。飲食店が集まっている大きな区画で、その一角に構えるアールボットというカフェに四人は入った。
「いらっしゃいませ〜! って、黄乃ちゃん! 今日は皆で来たの?」
「はい! あ、四人で奥の席にお願いします」
「はいは〜い! 四名様、奥の席にご案内〜」
黄乃の知り合いと思しきテンションの高いウェイトレスの案内で、四人は奥のテーブルに着いた。落ち着いた様子の店内は見た目通り居心地が良く、素敵なソファに少女たちは腰掛ける。
「こちら今月のサービスで配布しているコーヒー風チョコでございます。では、ご注文が決まりましたらそちらのベルをお願いしますね!」
「はーい、ありがとうございます! それじゃあ皆は何頼む? 茜ちゃんはメニュー表を見ながらゆっくり考えていいからね」
サービスのチョコを置いて簡単な説明をしてからウェイトレスが去り、少女たちはさっそくメニューを考え始める。初見の茜がメニュー表を眺める中、三人は思いついたものを口に出した。
「いつも通りオリジナルブレンドとホットサンド」
「私はパンケーキとミルクティーにドーナツをお願いします」
「セイちゃんと翠ちゃんはそれでオッケーね。私はアイスコーヒーとサンドイッチにドーナツかな。茜ちゃんはどうする?」
既に何度も来ているからか、三人はメニューを見ることなくすぐに注文を決めた。翠と黄乃はしっかりと新作のドーナツもカバーしており、残すは茜の注文のみとなった。
三人がすぐに注文を決めた一方、初見の茜は何を注文するのか決められずにいた。幼い頃からこういったオシャレな場所とは縁がなく、少女は経験の無さを実感していた。
「そうですね……このカフェらしいような、何かオススメのメニューはありますか?」
「オススメかぁ……だったらセイちゃんと同じのが良いかな。ここのコーヒーとホットサンドは真似したくても真似できない美味しさがあるんだよね」
「……なら、私も清奈さんと同じものをお願いします」
どうしても決められない茜は黄乃に助言を求め、清奈と同じ注文に決めた。全員の注文が決まったところで卓上のベルを鳴らし、現れたウェイトレスに黄乃が注文を伝える。
全ての注文を聞いたウェイトレスが去り、注文が届くまでの間を少女たちは雑談をして待つことに。初めは先程の買い物について盛り上がっていたが、話が落ち着いたところで茜が口を開いた。
「そう言えばウェイトレスの方と黄乃さんは随分と仲が良さそうでしたね。このカフェにはよく来ているんですか?」
「あーそれもあるんだけど、あの人は二年の内田愛依先輩。中等部の頃から仲良くしてもらってるんだ」
「ハンマー使いのメイ。トップアクトレスを目指すなら、茜も覚えておいた方がいい」
「なるほど……」
口を開いた茜が話したのは、このカフェで働いているウェイトレスの少女についてだった。やけに黄乃と仲が良い様子が気になった茜、その疑問に黄乃と清奈の二人が答えた。
内田愛依。神威女学園の二年生で、黄乃とは中等部からの付き合い。ロボットスポーツでは非常に珍しいハンマー型の武装を使うことからそれに因んだ異名を持ち、茜にとっては頂点を争う相手になると。
軽い紹介で謎のウェイトレスについての話は終わり、今度は最近のロボットスポーツについて色々と話していると、遂に注文した料理が続々と届き始めた。
「お待たせしました~! ご注文の品は以上でお間違いないでしょうか?」
「はーい、大丈夫です!」
「はい、ありがとうございます! では、どうぞごゆっくり〜!」
次々とテーブルの上に料理が並んでいき、あっという間に注文した料理が全て揃った。どれも彩り豊かな見た目をしており、食べずともその美味しさが伝わってくるようだった。
「それじゃあ、さっそく食べますか! ではでは、お手を拝借して……」
「「「「いただきます!」」」」
全ての料理が揃ったところで、黄乃が食事の挨拶をする音頭を取る。四人の少女は言葉と共に手を合わせ、朝食を食べ始めた。
「……うん、いつも通り美味しい」
「ここのパンケーキ、甘じょっぱい感じがちょうどいいんですよね」
「ほんと、どれも美味しいよね〜。ねえねえ、茜ちゃんはどう? 美味しい?」
「…………美味しい。ホットサンドって、こんなに美味しいものだったんですね」
プレスされたことでザクザク食感となっているベーコンとサラダのホットサンド、バターの塩気と甘みが効いた朝食にぴったりのパンケーキ、タンドリーチキンとシーザーサラダで満足感たっぷりのサンドイッチ。
どれも目に見えるところから見えないところまで非常に手が込んでおり、その見た目から想像していた味以上の美味しさだった。
それぞれ美味しい朝食をたっぷりと楽しんだ少女たち。あっという間に料理を食べ進め、最後のドーナツやチョコを食べ終える瞬間まで楽しみ尽くした。
「……ごちそうさまでした」
「お粗末様でした。期待通り……いえ、それ以上のお味でした」
「相変わらず良いもの作るんだから、本当に最高のカフェだよね〜。ねえねえ茜ちゃん。初めてのカフェだったけど、どうだった?」
「……初めて来た私でも、十分楽しめました。教えていただき、ありがとうございます」
再び少女たちは手を合わせ、楽しい食事の時間は終わりを迎えた。美味しい食事で満足そうな表情を浮かべている四人。余韻を楽しんでいる中、黄乃が席を立った。
「じゃあ割り勘にしても良いんだけど……今回はチーム資金の方から払っちゃおっか」
「……チーム資金の方からって、良いんですか?」
「ノインヴェルトは皆さんと食事した際や、イベントなどを開いた際のためにチーム資金を日頃から貯めているんですよ」
「私たちや先輩も使ってるし。だから、茜も気にしなくていいよ」
会計のために席を立った黄乃。チーム資金で払うという話に疑問を持った茜に、翠と清奈の二人がノインヴェルトのチーム資金事情について話した。
チーム資金とはチームで管理する共有資金のことであり、主に装動戦機のカスタマイズやメンテナンスに使われるのだが、ノインヴェルトではメンバー共有の財布として使っていた。
「そうそう、そういうものだから。じゃあ、お会計行ってくるから適当に待っててねー」
チーム資金についての説明が終わったところで、黄乃はレジへと向かう。会計を待つ間、茜は今のうちにチーム関係で知っておきたいことを二人に聞き、三人は話をして黄乃の帰りを待った。
その後、会計を済ませて戻ってきた黄乃と共に三人は席を立ち、元気なウェイトレスと寡黙な店主に見送られながら店の外に出た。
遅くなってしまったが朝食を済ませた四人。今度はウェストエリアからセントラルエリアへと移動し、日用品など必要な物の買い物を始めた。
色々と見て回っているうちにすっかり大荷物となった少女たち。予定していた以上に買い物を楽しんだ結果、気づけば時刻は昼過ぎとなっていた。
「いや〜、話しながらだと楽しくなっちゃって、つい色々買っちゃったよね。皆はどう? 楽しかった?」
「……まあ、否定はしない」
「はい、とっても素敵な時間でした」
「とても有意義な時間を過ごすことが出来ました。改めて、お誘いいただきありがとうございます」
「それなら良かったよ。じゃ、そろそろ帰ろっか!」
時間も時間ということで、四人はそろそろ学園へ戻ることに。黄乃から買い物の感想を求められた三人の少女は、それぞれ言葉は違えど同じ感想を返した。
大荷物と共に、満足そうな雰囲気でショッピングモールを出た四人。再びバスに乗って学園へと戻り、荷物を持ったままチームルームに入った。
「たっだいまー! って、スズちゃんリンちゃん! もしかして今日はメンテナンス?」
「おかえり皆! 今日はメンテナンスじゃなくて、今のうちに月末の予定を立てとこうと思ってね」
「おかえりなさい。今日は皆でお出かけしていたんですね」
チームルームに帰ってきた四人。荷物と共に入室した少女たちを、双子の少女が迎え入れた。髪型以外そっくりな二人。その姿に見覚えがある茜は、最後に入室しながら口を開いた。
「……涼凪さん? それと、確か鈴奈さんでしたよね」
「久しぶり茜ちゃん! いやー、ノインヴェルトに入るって聞いた時はびっくりしたよ〜」
「はじめまして茜さん、妹の花咲鈴奈です。姉の涼凪と一緒にノインヴェルトのエンジニアをしていますので、どうぞよろしくお願いしますね」
二人の少女、花咲涼凪と花咲鈴奈。彼女たちはチームノインヴェルトの専属エンジニアで、涼凪とは転校初日ぶり、鈴奈とは初めて会った茜は、二人と挨拶を交わした。
エンジニア二人と新たな加入者が挨拶をしたところで、四人は買ってきた物の中からチームルームに置いておく物を選び、手早く荷物を片付ける。
「茜ちゃんたちも荷物は適当なところに置いといていいからね。じゃ、私たちは寮に戻っちゃうから。今日はありがとうね〜!」
「それじゃ、また明日」
荷物を片し終えた黄乃と清奈は、一足先に寮へと戻った。去っていく二人を見送ってから、茜と翠は涼凪と鈴奈の二人も交えてこの後の予定について話し始めた。
「茜さんはこの後、何かご予定はあるのですか?」
「いえ、特には決めていませんが……」
「だったらさ、もし良かったら二人とも私たちのテストに付き合ってくれない?」
「新機体の調整で少し手を貸して欲しいんです。お願いできますか?」
翠からこの後の予定を聞かれた茜。特に決めてないと答えると、そこに涼凪と鈴奈が食いついた。実は新機体の調整をしていて、そこにアクトレスである二人の手を借りたいと。
茜と翠は顔を見合わせ、二人のお願いに協力することを決めた。茜は新機体への興味で、翠は何となく面白そうだという理由で、四人は新機体が待つ第一格納庫へと向かった。
チームノインヴェルトを包み込む静けさ。平和の証であるそれは、新たな嵐の前兆か。真実を知る新機体は、静かに搭乗者を待っていた……
――チームノインヴェルトのちょっとした話#4
「前回に引き続き、今回もチームノインヴェルトについてのお話だよ! なんと今回はスペシャルゲストにお越しいただきました!」
「も、もう! お姉ちゃん、ふざけてると話が進まないし、勝手に進めちゃうからね。ということで、改めて初めまして茜さん」
「ええ、初めまして鈴奈さん。お二人はチームノインヴェルトの専属エンジニアなんですよね」
「その通り! 鈴奈はエンジニア専門で、私はアクトレスの補欠も兼任してるんだ。装動戦機の定期メンテは鈴奈の担当で、私は試験が必要になるような整備を担当してるんだよ」
「しっかりと仕事が分かれているんですね。……そういえばノインヴェルトのエンジニアは他にも上級生の方がいらっしゃったと思うのですが」
「二年の菜七ちゃん先輩と、三年の芹先輩だね。今日はちょっと予定が合わなくって、でも近いうちに会えると思うよ」
「月末の個人戦に向けてチームメンバー全員の機体を最終調整しますので、多分その時にお二人ともお話しすると思います」
「分かりました。その時を楽しみにしています」
「二人とも面白い先輩だから、楽しみに待っててね。それじゃあ今回はここまで! 次回も涼凪ちゃんの後書きコーナーをよろしくね!」