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Act.nine  作者: 夜空
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#1 「襲来、紅の新星」


 装動戦機という巨大な人型ロボットを操縦して競う新たなロボットスポーツ、アクトナイン。世界平和が実現したこの世界は、ロボットスポーツという新たな戦場に闘志を燃やしていた。


 まだアクトナインが作られる以前に日本はロボットスポーツに目をつけ、日本海の海上に浮かぶ超巨大海上プラント、ニュートウキョウをロボットスポーツ用に大幅改装した。


 競技場や整備場などの他、パイロットであるアクターとアクトレス、整備士であるエンジニアを養成するための学校も建設された。


 様々な学校が建設されたが、その中でも神威重工が手がけた神威女学園は世界に名を轟かせるほどのアクトナイン強豪校として知られるようになった。


 少女たちが切磋琢磨し、頂点であるトップアクトレスの称号を目指して競い合う。そんな神威女学園は設立から十年という節目を迎え、それと同時に新たな風が吹き込もうとしていた…………






「ここが神威女学園……ここなら、きっと……」


 大きな校門の前で立ち止まり、校舎を見つめながら静かに想いを馳せる少女が一人。本島から飛行機でこの場所に来た彼女、紅坂(こうさか)(あかね)の姿がそこにあった。


 胸に当てていた手を動かし、首元のペンダントを手に取る。僅かに輝きを放つ宝石、かつて決意を誓ったそれに目を向けていると、学園の方から一人の女性が現れた。


「おっ、ちゃんと時間通りに着いてたんだね。茜ちゃんで間違いないよね?」


「はい、本日転校予定の紅坂茜です」


「オッケー、ちゃんと合ってたね。私は響野(きょうの)京香(きょうか)。元プロアクトレスで、今はこの学園の戦機トレーナーをしているの。よろしくね」


「こちらこそ、よろしくお願いします」


 茜は戦機トレーナーである京香と互いに自己紹介を済ませ、握手をしてから学園の中へ進む。正門からまっすぐ伸びている道を二人で歩いていると、その途中で京香が話し始めた。


「それにしても、この時期に転校してくるなんて珍しいね。理由、聞いてもいい?」


 人によっては答え難いと理解しながらも、それでも気になった京香は転校してきた理由を尋ねる。茜は少し考える様子を見せたが、強い意志と共に理由を話した。


「……欲しい物が出来たんです。普通の高校だと手に入らなくて、だからここに来たんです」


「高校に入ってから欲しくなったってこと? 茜ちゃんって結構強欲だねぇ」


 欲しい物が出来たから、それを手に入れるためにここに来た。そう答えた茜に、京香は面白い雰囲気を感じながら言葉を返す。


 その後、他愛もない話をしながら二人は校舎の中に入り、靴を履き替えてから校舎の中を進む。エレベーターで五階に上がってからさらに廊下を歩き、茜はようやく目的地である教室にたどり着いた。


「はい、着いたよ。じゃあ先生に言ってくるからちょっと待っててね」


 転校生である茜の紹介をするために、ホームルーム中の教室に京香が一人で入る。廊下にも少し漏れ聞こえていた声に大きな声が加わり、少し経ってから京香は廊下へ戻ってきた。


「はーい、茜ちゃん。皆が主役の登場を待ってるよ」


「分かりました。案内、ありがとうございました」


「どういたしまして。それじゃ、学園生活楽しんでね〜」


 京香からのバトンタッチを受け取った茜は、堂々とした立ち振舞で教室の中に入る。注目を集めながら少女は教壇に向かい、担任の横に立つ。


「では、自己紹介をお願いします」


「はい。……紅坂茜です。"トップアクトレス"を取りにここへ来ました」


 担任である市川(いちかわ)(しき)の声を合図に、茜は自己紹介と共にあることを宣言する。その言葉は転校生で盛り上がっていた教室の空気を、一瞬にして凍りつかせた。


 トップアクトレス。それはアクトレスの頂点を表す称号であり、称号を手に入れるということは学園最強になるということでもあった。


 そのような宣言をしたのだから、茜を見る目が変わるのは当然のことだった。少女たちが茜の言葉でざわつく中、一人の少女が茜に向けて声を上げた。


「トップアクトレスを取りに来たと、本気で言ってるのか?」


「本気でなければ、言いませんよ」


 様々な意味が込められた少女の一言に、茜は見つめ返しながら言葉を返す。両者の間にはまるで火花が散っているかのような雰囲気があり、教室全体がすっかりその気迫に呑まれていた。


「焔さん、今はホームルームですから席に着いてください。茜さんも奥の空いている席に――」


 このまま一触即発の空気が続けば、最早ホームルームどころではなくなってしまう。そう感じた識が担任として二人を落ち着かせようとしたその時、誰もが予想していた言葉が飛び出した。


「少しだけ、時間をください。紅坂茜、学年一位であるこの陽咲(ひさき)(ほむら)が貴女に決闘を申し込みます!」


 学年一位の陽咲焔、彼女が茜に向けて放った言葉は教室の空気を震わせた。決闘の申し込み自体は神威女学園の日常風景だったが、転校生が転校初日に申し込まれることは前例が無かった。


「決闘だなんて……焔さん、転校生にいきなり申し込むのは冗談でも許されませんよ」


「冗談じゃないですよ、先生。私はただ、転校初日であんなことを言うような人の実力をちゃんと測りたいだけですよ」


「入学には一定の実力が必要、それが編入となれば尚の事。それは焔さんも理解していますよね?」


「分かっています。それでも、あんなことを言った人の実力は気になりますよ。多分、私以外にもそう思ってる人は居るでしょう?」


 流石に度が過ぎると判断した識は何とかして焔の申し込みを取り下げさせようとしたが、少女がその意思を曲げることはなかった。


 担任と少女の会話を聞いていた茜は、静かに教室の中を見渡していた。皆が私の言葉を待っている。そう思った茜は身の振る舞い方について考え、あらゆる可能性から一番トップアクトレスに近そうな答えを口にした。


「……私は構いませんよ。決闘、受けて立ちましょう」


 トップアクトレスを取るには、とにかく戦績が大事になる。転校初日から学年一位を相手に良い戦績を収めることが出来れば、それは素晴らしい第一歩となるだろう。


 そんな考えで決闘を引き受けた茜は、焔のことを見つめながら次の言葉を待っていた。決闘の成立を前に再び教室がざわつく中、返事を聞いた焔が遂に口を開いた。


「そういう自信があるから、トップを取りに来たなんて言ったわけか。決闘を受けたこと、後悔するなよ。私は先に競技場で待ってるから、絶対逃げるなよ!」


「あ、ちょっと! 焔さん、まだ話は終わってないんですよ!」


 先に競技場で待っている。そう言い残して焔は席を離れ、担任の制止を振り切って教室を出る。識は頭を抱えながらも現実を受け止め、起きてしまったことの収拾をつけるために茜へ声をかける。


「……はあ、分かりました。担任である私が決闘の見届人となりましょう。紅坂茜さん、決闘のルールは既に知っていますね?」


「はい。アクトレス二名による一騎打ち、勝利条件は相手のコア耐久力を全損させること」


 ルールを知っているか問われた茜は、決闘のルールを簡潔に答える。ルールを知っているのなら決闘自体には問題ないが、転校生である茜には大きな問題が一つだけあった。


「ルールを把握しているのなら決闘自体に問題は無さそうですね。ですが、茜さんにはエンジニアが居ないことも分かっていますね?」


 転校初日の茜には自分の装動戦機を見てくれる親しいエンジニアがおらず、それが神威女学園に於いては大きな問題だった。


 神威女学園では、エンジニア以外が戦機のカスタマイズを行うことは禁じられており、それはたとえ知識があったとしても例外ではない。とは言え、カスタムする気がない茜は、それを特に問題とは思っていなかった。


「分かっています。転校生である私には当然エンジニアの協力者は一人もいません。ですが、知識自体は私にもありますし、カスタムはしませんので特に問題は――」


「はいは〜い! エンジニアなら、私が立候補しま〜す!」


 カスタマイズは必要ないから、エンジニアも必要ない、そんな言葉が茜の口から出かけたその時、とある少女が手を挙げながら声を上げた。


「私、エンジニアクラスの花咲(はなさき)涼凪(すずな)! 今回だけでもいいからさ、貴女のエンジニアを任せてもらえないかな?」


 元気よく茜のエンジニアに立候補したのは、アクトレスクラスとエンジニアクラスの両方で講義を受けている少女、花咲涼凪だった。


 転校生という珍しさや、学年一位から決闘を申し込まれても動じない性格。そんな茜に興味を持った涼凪は目を輝かせていたが、茜はそこまで乗り気ではなかった。


「カスタマイズはしませんので、私のことは――」


「でもでも、エンジニアは必要だと思うよ。いるといないとじゃシステム設定とか武装設定の作業量が大違いなのに、それでも断っちゃうの?」


 エンジニアを任せてほしいという話を断ろうとした茜だが、どうしても整備を担当したい涼凪はエンジニアのメリットを説明して自分を売り込んだ。


 エンジニアでなくともカスタマイズ以外なら問題ないとは言え、エンジニアが居ればその作業効率は段違い。それは茜にとっても確かなメリットであり、まるで押し売りのように売り込まれた茜は遂に自分の意思を曲げた。


「……そこまで言うのなら、エンジニアのお手並みを拝見させていただきましょうか」


「やったー! ありがとう茜ちゃん! それじゃあ早速、私たちも競技場にレッツゴーだよ!」


 少女の熱意に負け、涼凪の同伴を受け入れた茜。担当エンジニアを認めてもらえた涼凪は嬉しさのあまり茜に抱きつき、そのまま手を引っ張って歩き出す。


 担任の声など気にもせずに駆け出す涼凪と、そんな涼凪に引っ張られて振り回される茜。二人はエレベーターで一階に降り、中庭を抜ける道を通って校舎を抜け、とある建物へと入った。


 校舎の裏手にある巨大な施設。ニュートウキョウどころか世界を見渡しても珍しい、装動戦機専用巨大競技場。その格納庫に二人は立っていた。


「よーし、到着! ここが競技場の格納庫だよ! 競技や訓練にエントリーする装動戦機は、ぜーんぶここに格納されるの!」


 装動戦機の格納庫というだけあって凄まじい広さがあり、待機場所には神威重工製の装動戦機が静かに乗り手を待って佇んでいた。


「ここに戦機が……。それで、私が搭乗可能な戦機は?」


「奥に訓練用の共用戦機があるから、今回はそれに武装を付け替える感じかな。まずはどの戦機に乗るかを決めて、その後に武装を決めよっか」


 待機中の装動戦機を前に、どれが搭乗してもよいものなのかを茜は尋ねる。涼凪は答えながら歩き始め、二人は格納庫の奥へ向かった。


「今あるのは二つだね。第二世代でバランスタイプの乙式と、第三世代で近距離戦に特化した丙式。茜ちゃんはどっちに乗りたい?」


 戦機待機場所。その足元にある端末の画面上に、格納庫の裏に仕舞われている共用の装動戦機が表示される。一機は第二世代の近中距離汎用型である戦機神威乙式、もう一機は第三世代の近距離攻撃特化型である戦機神威丙式。


「臨機応変に立ち回り、勝利を掴み取る。近距離で攻め続けるのもいいけれど、堅実に射撃と近接を絡めるのも……」


 装動戦機が映っている画面を眺めながら、茜は戦略を考えていた。様々な戦いを想定し、それぞれに合った対策を考える。


 そんな考えはいつの間にか口に出ており、それを聞いた涼凪はあることを思いつく。集中している茜の横で携帯端末を操作し、その場で作ったカスタムプランを提示する。


「色々とやりたいんだったら、乙式がオススメだね。拡張済装甲に色々と武装を付け足して、目指すは何でも出来る万能機体とか?」


 茜の作戦を聞いた涼凪は、自信満々に第二世代の乙式を勧めた。拡張済装甲に武装を追加し、あらゆる場面に対応可能な機体にすればいいと。


「……出来るならそれがいい。頼める?」


「もっちろん! じゃあコックピットでシステムの起動をして、私の合図を待っててね!」


 その提案に茜は乗っかり、カスタマイズが定まったところで涼凪が機体を格納庫に用意する。茜は言われた通りコックピットに向かい、涼凪は端末と携帯端末を繋げて操作し始める。


「オープン状態でレバーを引いて、ボタンを音が鳴るまで長押しする。キーレスじゃないだけで、起動がこんなに面倒だなんて」


 上昇リフトからコックピットの中に入った茜は、第二世代特有の面倒な操作に文句を言いながら電源を起動していた。


 電源の起動と同時に戦機のメインシステムが立ち上がり、全ての計器やシステムがオンラインになる。茜は目視での確認作業を始め、その途中で通信システムに通信が繋がった。


『……あーあー、テステス。茜ちゃん、ちゃんと通信聞こえてる?』


「通信機能、問題ありません。コックピット内の確認も……全て完了しました」


『よーし、それじゃあカスタム始めるよ!』


 涼凪からの通信が入り、茜は話しながら全ての確認作業が終わったことを報告する。コックピット内の確認と接続作業の準備が完了し、遂に武装の接続が始まった。


 拡張済装甲のスロットと呼ばれる接続部に、作業用アームで武装を接続する接続作業。涼凪は慣れた手つきでアームを動かし、接続作業は順調に進んだ。


『……よし、アーム可動終了! 接続と認識、共に問題なし。それじゃあリフトを動かしちゃうね』


 肩部ミサイルポッド、腰部グレネードポッド、背部ダブルキャノン、計三スロットに装備が追加された神威乙式。無事に接続が出来ていることを確認した涼凪は、出撃準備の最終段階に移る。


『固定装置を解除し、機体の移動を開始。今のうちに相手の機体構成を伝えておくね。今回焔ちゃんが搭乗してるのは……丙式の超近距離特化構成みたいだね』


 機体を出撃用カタパルトがあるゲート前に移動させながら、涼凪はサポーターとして対戦相手である陽咲焔の情報を茜に伝える。


「それなら接近戦を避け、地道に射撃戦で相手の耐久力を削る。それか……いや、何か警戒すべき点は?」


『腕部ビームガンが拡散タイプになってるから、腕の動きに注意した方がいいと思う。後は……っと、ゲート前に到着を確認、リフトをカタパルトに固定するね』


 速度が自慢の丙式を、更に近距離戦へ特化させた超近距離特化構成。それを聞いた茜は対応策を考えながらエンジニアの意見を求め、涼凪は注意すべきところを伝えながら作業を進める。


 ゲート前に着いたリフトをカタパルトに固定し、コックピットのハッチが閉じる。これで後は入場の合図を待つのみとなった。


 一年生最強である学年一位と実力不明の転校生。結果がまったく分からない対戦カードは、新たなる歴史の幕開けだった…………

「ここからはエンジニアである花咲涼凪が色々な解説をする後書きコーナー! 最後までよろしくね!」


――装動戦機のちょっとした話#1

「今日は装動戦機のお話なんだけど、茜ちゃんは装動戦機が何メートルあるか知ってるかな?」


「フレームによって変化しますが、一般的には18m前後です」


「その通り! ちなみに、装動戦機は現在第四世代型まで開発が進んでるけど、第一世代以外は現在も多くの競技シーンで活躍してるんだよね」


「第一世代型は試験用として開発された15mほどの機体で、どちらかというと二頭身のようなデザインなのが特徴ですよね」


「そうそう! そんな第一世代型は一線を引いた今でも操縦訓練用として使われてるの。だから、実は現在開発されている全ての世代が様々な場面で使われてるんだ」


「たとえ古い世代だとしても、使い道はあるということですね」


「そういう事! それじゃあ今回はここまで。次回も涼凪ちゃんの後書きコーナーをよろしくね!」

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