82. 登場
謁見の間には複数の反応があった。私が途中まで一緒に来ていた面々ははっきりと把握できた。後他の気配はアジオンブリア王国側の人間だろう。
中の会話は私には聞き取れなかった。しかし、ダニーさんは中の様子が分かるみたいだった。仄かに笑みを浮かべていた。
「まだ、入らないの?」
「今はまだ違うと思うな…いや、もうそろそろかな」
私はダニーさんがタイミングを決めるまで待った。その間、人の位置だけは正確に把握していた。この状況なら交渉は決裂だろう。ステラ達を連れて逃げるのが今の一番良い選択肢だろう。私は突入した後の事を念入りにシミュレーションしていた。
(そう言えば…)
謁見の間の前なのに、扉を守護する兵士は居なかった。この国は人口だけは多く、人手不足という事は無いだろう。
(ああ、そうか)
あの二人の兵士が私達をここに連れて来るのと、扉の守護を任されていたのだと瞬時に理解した。だから今、ここには誰も居ない。
(皆、不思議に思わなかったのだろうか…)
「呼ばれたみたいだ、じゃあ行こうか」
そんな事を考えていると、軽い言葉と共にダニーさんは扉を開けた。私は少し焦った。こんなに堂々と入るとは思っていなかったからだ。
「お姉ちゃん!」
最初に聞こえてきたのはステラの私を呼ぶ声だった。
「お前、どうやって逃げた!」
国王と思われる人が怒鳴って来た。かなり太った人間だった。怒鳴っただけで息切れしていた。その姿は見苦しかった。
(こんなのが国王なのか)
タクステディア王国の国王も見た事は無いが、こんな感じだったら嫌だなと思った。
「君の部下は不誠実でね。素直に通してくれたよ」
「バカな!」
国王はダニーさんの嘘に簡単に騙されている様だった。頭も弱いみたいだった。
「じゃあ、僕らは帰らせてもらうよ。もちろん邪魔するなら、抵抗するから」
隊長さんと部下の人達が剣を抜いて警戒態勢に入った。そのまま、私達の元まで駆け寄って来た。
「お姉ちゃん大丈夫?」
「…空腹で力が出ない」
そんな私にステラは肩を貸してくれた。相変わらず優しい妹だと思った。
「戦争が続いても良いのか?」
「それはこっちのセリフだよ」
その言葉に国王は悔しそうな顔をした。私達はそれを無視して王城を後にした。私の馬は崖に落ちて死んでしまったので、ステラの馬に一緒に乗せてもらった。
(やっぱり来るべきじゃなかったな…)




