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60. 回復

 油断した訳では無い。確かにステラとの戦闘に集中していたのもあっただろうが、気配を感じる事が出来なかった。


(いや、言い訳だ。客観的に見ればこれは油断)


 背中から胸を刺されて、激痛が走った。ステラがすぐに襲撃者を攻撃してくれたお陰で、私から剣が引き抜かれた。私はパパに教えられた話を思い出していた。パパも後ろから刺された事があったらしい。その時、私がしつこくどうしたのか聞いたのも思い出した。その事が今は役立っていた。

 私はまず切れた血管を、魔力操作で操った魔力で繋げた。小さな血管も全てを繋げる事で出血を止めた。意識が途切れそうになりながらも、慎重に魔力操作をした。


(パパはこんな状況でも正確に魔力操作が出来るなんて、やっぱり凄いな)


 私は全ての血管を繋ぎとめた後、回復魔法の詠唱を始めた。襲撃者に気付かれないように小声で詠唱する。小声の詠唱でも無事に回復魔法が発動した事にほっとする。そこで漸く周囲の状況を把握する事が出来た。会場に魔物が居る事やステラが襲撃者に魔法を浴びせている事も分かった。

 私は回復した後、何をすれば良いのか考える。ステラは襲撃者に負けてはいないが、勝ってもいなかった。ステラの魔法は悉く躱されていた。やはり襲撃者は只者では無いようだった。でも、私とステラ二人なら勝てる程度の強さだ。

 共闘すれば、容易く倒せるだろう。


(でも…ごめんステラ、私、負けず嫌いなんだ)


 ステラが襲撃者を引き付けている間、私は体内の血管を繋ぎ止めている魔力と回復魔法に使っている魔力以外を亜空間に送った。回復する傍から魔力を送り続けた。人は魔力が無くなる事で死ぬ。そうする事で私は死にそうな状態の振りをした。

 回復が完了して、傷が塞がった後も死んだ振りを続けた。そして、タイミングを常に伺っていた。襲撃者に気が付かれないように、観察している事が気付かれないように。ずっとタイミングを、チャンスを待った。

 そして、襲撃者がステラに剣を振ろうとしたところで私は動いた。気配を消したまま、襲撃者の背後に回った。そして、襲撃者の背中から胸へ剣を刺した。襲撃者には気が付かれていなかった。難なく刺す事が出来た。


「私、負けず嫌いなの」

「刺しても死なないとは…流石親子だな…」


 襲撃者はそう言葉を発すると息絶えた。襲撃者の言葉は良く分からなかったが、無事にやり返す事が出来た。ただ、今、初めて人を殺した。自分の手で。

 少し気持ち悪さが込み上げてくる。私はそっと手を合わせた。


(……)

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