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3話 質屋から服屋へ

「アルー、いるー?」

 

 エレナは知り合いの名前を呼びながらまだ新しい石造りの店の扉を無造作に開ける。


「おう、エレナか、久しいな……隣のは……ここらへんじゃ見たことねえな……」

 訝しげな様子でこちらを伺う男。髪は灰色がかった茶色で、髭を蓄えており、顔にはしわが刻まれ、信頼を感じる印象だ。

 服装はシンプルなものだが、生地や付いているボタンなどのディテールを見ると上質なものだとわかる。


「さっき薬草を取りに行ってる時に知り合ってね、リュウイチっていうの」

 

「お初にお目にかかる、早速で悪いが、買い取って欲しい物があるんだ」


 龍一はネクタイピンを胸元から外し、店主アルに渡す。


「なんだいこりゃ、見たことねえな」

「ブローチみたいな物さ」


 初めてみるネクタイピンをルーペでまじまじと鑑定する店主。

 

「これは貴族が喜びそうな品だな、それもかなりの上物だ、エレナの知り合いだし、金貨90枚でどうだ?」

「それで頼む」


「ちょっと待ってろ、今用意してくる」

 金貨の準備をしに裏に行く店主、その間店に売ってる品を見る。

 質屋だけあって色々なものが置いてある、店主のいたカウンターには宝飾品がケースの中に入っており、店の壁には様々な武器や防具が飾ってある。


「紹介していなかったけど、彼はアルバート・レイノルズ、信頼できる人よ。にしても……金貨90枚って……、庶民の3年分の収入よ」

「そんなに価値があるのかあれ、当面はありがたいな」

 龍一がこの世界での貨幣価値を理解した瞬間である。


「ほれ、金貨90枚だ、数えるか?」

「いや、大丈夫だ」

 受け取った金貨を手に取りセカンドバッグにしまう。


「アル、ありがと」

「おう、こっちも珍品買えてよかったぜ、兄ちゃんまた何かあったら持ち込んでくれや」


「ありがとうアルバートさん、恩に着る」

「じゃあ早速、服を買いに行きましょうか」


 再度店主にお礼を言い、店を出た龍一はネクタイピンを売却して得た金で、街の中心部にある服飾店に足を運ぶ。

 店の外壁には洗練されたデザインの服がショーケースで展示され、入り口には警備が立ち、窓にはステンドグラスや幻想的な模様が描かれている。


「ここにはよく来るのか?」

「そんなわけないじゃない、庶民はこんな良いところ来れないわよ」


 先の質屋とは違い、静かに店の扉を開ける彼女。内側の扉の上部にはベルが付いておりカランコロンと上品な音が聞こえる。

 

 「いらっしゃいませぇ、本日は何をお探しでしょうかぁ」

 店に入ってすぐ、女性の店員はエレナに話しかける。


 「ごめんなさい、私じゃなくてこの人の服を選びに」


 店員は龍一の方に顔を向けると少し顔を引き攣らせた。


「すまない、この黒い服がこちらの国だと目立つようでな、普通の服を探している」


「あ、はい!かしこまりましたぁ、好みの服装とかございますかぁ?」


「特にないが、一般的な物より少し良い物が欲しい」

「じゃあこれとかいかがですかぁ?」


 店員が持ってきたトップスはグレーがベースのシャツであり、カジュアルな印象だが上品さを感じさせられる、また、胸元のポケットには小さい青色の宝石がつき、ボタンには店名の”ミスティック・テーラー”の【MT】のロゴが印字されてある。

 ボトムスはシンプルなデザインのものだが、上質なウールが使われており、深いブルーの色をしている。こちらもポケットには控えめに店名のブランドロゴが入っている。

 

 正直スーツ以外あまり着てこなかったのでなんでもいい、そのまま店員に勧められるまま試着をし、購入する。

 着ていた服は買ったショッピングバッグに入れ、店員が出口まで持ってくれる。

 

「ありがとうございましたぁ」


「なかなかの値段だったわね」

「まあ金貨15枚、そんなもんだろ」

 

 新しい装いで店を後にした龍一はこれで目立つことはないと思っていたのだが、別の意味で目立っていた。

 それは一般的な庶民には絶対に手に届かない高価すぎる服を買ったことである。

 

 

「みてみて、あれミスティック・テーラーの服よ」

「ほんとだ、MTなんて憧れるわぁ」

「きっと、どこかの貴族様なのねぇ」



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