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駅ピアノ_エスキース

作者: タニシ

エスカレーターを登り終え、改札を出ると、雑音を蹴り飛ばすようなピアノの音が駅の構内を反響していた。

腕時計を見る。13時16分。まだ時間がある。

僕は音の正体を探して構内を見渡した。ぐるぐると歩いて、お城口側の一番奥。ガラス張りになっている窓の手前に空間があることに気が付いた。下の階に続く階段の壁が邪魔をして、自由通路からはこの空間が見えないようになっている。

誰かの悲痛な叫びを表現したような激しくて切ない曲調。吸い寄せられるようにして奥の窓の方へと向かうと、音の正体が現れた。

20代くらいの髪の長い女性がグランドピアノを奏でている。

ストリートピアノ。

この駅にピアノが置かれていたとは知らなかった。

演奏者の彼女は時折り右足でペダルを踏んだり腕を動かしている。その度に音が変化して響いていく。ここからだと手元は見えない。もう少し近づこうとして、いや、彼女の集中を途切れさせたくないなどと思い返し、遠くから様子を伺う。これだけ訴えかけるような弾き方なのに、誰一人として立ち止まらないことが不思議だった。

演奏は続いている。聞いたことが無い曲だった。何かの映画の主題歌とかだろうか。音が連なって盛り上がりを見せる。ビリビリとした緊張感と集中力がここまで伝わってくる。右腕が滑らかに、勢いよく動く。

グリッサンド。

最後の一音を余韻に残しながら、彼女が演奏をやめた。そこで僕も息を吐く。知らない間に呼吸を止めていたようだ。彼女は側に置いていた黒のリュックサックを背負うと、いそいそとピアノの元を離れた。僕も慌てて振り返って歩き出した。

腕時計は13時20分を指している。

たくさんの人が行き交う中を足早に歩く。頭の中では先ほど聴いたメロディが流れている。

名前も知らないピアニストの、聞いたこともない曲に乗っ取られている。

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