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第一話 ブループロム

その頃、青い薔薇を受け取った話題の人物である竜宮寺 乙女は嬉しそうな笑みを浮かべたまま、住宅街の一等地にある有り余る庭付きの屋敷へと帰っていた。


「お帰りなさませ。お嬢様」


乙女を出迎えたのは普段よりお世話をしているメイドの三月(みつき) マチ。


珍しい混合種と呼ばれる種族で両親の特性を受け継いでおり、特に顕著なのは灰色の耳は垂れ下がって鳥の羽のような柔らかさを見せ、尻尾は膨らんだ鳥の胸の様な毛並み。


目尻は垂れ下がっておりどこか眠たげな雰囲気を感じさせる。


髪は邪魔にならないように短くしているが、耳の分だけボリュームがある。


服装は古風なヴィクトリアンメイド服を着ており、まさしく由緒正しきメイドの姿があった。


「ただいま。お母様とお父様は?」


「奥様と旦那様は市長と打ち合わせの為出られております」


「そうなの……。そうだわ。この花に合う花瓶を用意してくれる?」


嬉しそうに乙女が見せたのは大事に手に持った青い薔薇で、それを見たマチは一瞬目を丸くしてから納得したように相槌を打つ。


「かしこまりました。すぐにご用意いたします。そのお花はお預かりいたしましょうか?」


「いえ、部屋にいるから花瓶を届けてくれる?」


「では、そのように」


頭を垂れ乙女が背を向けてからマチは顔を上げて頼まれた品を探しに行く。


広い屋敷には他にも使用人がおり、乙女が通るたびに姿勢を正しお辞儀をする。


数分もしないほど歩き、自室に戻ると乙女は肩にかけていた鞄を置いて、ベッドに腰掛ける。


手に持った青い薔薇を見れば見るほど頬が緩んで表情が崩れて行き、あまりに人に見せないような笑顔を晒してしまう。


何故、超が付くほどの名家のご令嬢が何もない一般庶民の誘いを受けたのか、それには理由があった。


彼女が幼い頃に見たよくあるテレビドラマの一つ、少女漫画を原作とした逆ハーレムモノでヒロインは似たような境遇のお嬢様。その相手役はまさに一朗の様な庶民でそれでも本気で恋して、向かい来る逆境に立ち向かう、そんなお話。


どこかで見たような話だが、当時子供の彼女には信じられないほどの衝撃で、それは今でも胸の中で燻っており、まさかドラマの様な出来事が本当に起こるとは思ってみなかったが事実、彼女の目の前には夢にまで見たヒーロー役が現れてしまった。


初めてクラスで顔合わせした時も、もしかしたらなんて思いはどこかにあったがそれが現実になろうとは考えはしても起こるとは思っていなかった。


故に、毅然とした様子ではあったし、今もそうしているつもりだが内心はハッピーとパニックが頭の中でホームパーティーをしている。


そんな愉快な状態の所に、ドアをノックしてマチが花瓶を手に現れる。


「お待たせしました。お嬢様」


「ありがとう。そこのテーブルに置いてくれるかしら」


指示された場所にマチは花瓶を置いて三歩下がる。


そして乙女の顔から滲み出る「どうしたのか聞いてっ!」という表情に対して適切な言葉を持ってして対応する。


「ところで、その青い薔薇はどうなされたのでしょうか」


花瓶に薔薇を挿して、乙女は嬉しそうに答える。


「学校でクラスメイトの男の子に頂きましたの。四日後、いいえ。満月の夜に踊って欲しいと誘われてこれを」


愛おしそうに見つめるその薔薇が彼女にとっては夢が形に成ったものなのだ。


「なるほど、ブループロムですか。ちなみにお相手は?」


「壱波 一朗様ですわ」


クラスメイトだから名前を覚えていると言うわけではなく。


やはり庶民であり、自らの夢に一番近い人間だからこそ調べていて、覚えている。


だから、彼が彼女にとって害のある人ではないことも知っているし文字通り、平凡な男子生徒だということも。


それが、その平凡な彼があの場で、劇的な態度でこの青い薔薇を差し出してきたという事実が何よりもロマンチックだった。


寧ろこの日の為にすべてを装ってきたのではないかと言うほどに。


「聞いたことがありませんね。素性のほうはこちらで調べておきます。それでは、わたくしは仕事が有りますので失礼させていただきます」


頭を下げてマチはそそくさと乙女の部屋を出る。


「あら、まだ話足りないのに……」


少し残念そうな様子で乙女はそう呟いた乙女だったが、制服を着替えることもせず、じっと青い薔薇を嬉しそうに見つめていた。


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