第四話 安眠は嵐の後で……
移動する車の中、紫苑は一誠の腕に抱きつきながら先ほどのことを考えていた。
「そんなに心配なら彼に会わなければよかったじゃないか」
一誠がたははっと笑いながらそう言うと紫苑は唇を尖らせて口にする。
「竜宮寺家の女は大抵、恋に溺れるもの。だからこそ親として娘が迷惑をかける相手のことは心配になるわ」
「あっ、そっち」
てっきり乙女のことが心配なんだと思っていた一誠は誤魔化すように笑う。
「乙女はわたしの娘よ。本気になったら相手のことなんて無視してどんなことをしてでも手に入れようとするもの」
事実、自らもその罪状に記憶があるからこそ理解できる。
「まぁ、それはそうだね」
被害と言うとあれだなぁと一誠は思ったが当時の自分のことを思い出すと少なくとも紫苑のやり口は褒められたものではなかったと記憶している。
「あなたほど、優しくて強い男の子じゃないと乙女の本気に耐えられないでしょうし。心配だわ」
「僕達がなにを言っても変わりはしないんだ。出来るだけ僕のほうからも彼にフォローはするからそんなに悩ましい顔をしないで」
そう言って一誠は優しく紫苑の頬を撫でる。
「んっ。もう、あなたったら……」
少しだけ迷惑そうな顔をしたと思ったらすぐに嬉しそうな様子で紫苑はその手の暖かさを受け入れて甘い雰囲気が車内に広がる。
運転手の使用人はと言うとまた始まったと口から零さずため息をついた。
「つ、疲れた……」
家に帰りバタンキューとベッドに倒れこむ一朗。
肉体的にというよりは精神的に疲れていた為、このまま寝て一度リフレッシュしよう目を閉じた瞬間スマホが鳴る。
通知に目をやると乙女からのメッセージだった。
見なかったことにしようと思ったが嫌な予感がしたので大人しくアプリを開く。
『本日はお時間を取っていただきありがとうございました。急なお願いだったにも関わらず両親に会っていただけて嬉しかったです。それに今日はゆっくり二人だけでお話できたのもとっても楽しかったですわ。一朗様も楽しかったでしょうか? そう考えると自分ばかり楽しかったのではと少し不安に思ってしまいます。それはそうと、お話していた時のことで、―――』
この辺りまで読んで一朗は絶句して、深呼吸して一人ごとを呟く。
「俺、これ読んで返事しなきゃ駄目?」
無視を決め込んでも良いがこの熱量を見て無視したとなれば数時間後にでもインターホンがなるだろう。
恐らく読んだのに返信が無いから何かあったのではないかと心配して。
ただそれが無視されたという事実を突きつけられたとき彼女がどう反応するかまでは想像できなかったが間違いなく良い方向には向かないとだけは断言できた。
だとしたら、このまま寝るわけにも行かないと大人しくメッセージに目を通してつつがなく返信をして今度こそとベッドに身を預けたが再びメッセージが届き、差出人ですべてを悟る。
結局、一朗が安眠につけたのはそれから二時間後のことであった。
第四話
安眠は嵐の後で……
End