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第三話 休日は好奇心に潰される

入学して初めての長期休暇、ギリギリ滑り込みでこの数日、あれよこれよと色々あった事を一朗はぼんやり思い出す。


……本当に色々あった。ブループロム、姫々とのショッピング、竜宮寺 乙女への弁解。最後に関しては何が問題なのかすら理解していないし、そもそもどうして竜宮寺はあれほど剣呑な雰囲気だったのだろうかと頭を抱えたが、悩んでも仕方ない事を考えるのをやめて、ここで一休みしてリフレッシュしようと思いつき、一朗は商業区へと足を運んでいた。


目当ては巨大ショッピングモールにある映画館。


この間、姫々と来た際に目ざとくチェックしており、ロストレガシー時代の作品を安価で上映していることを知ってわざわざ朝から電車に乗り、すでにすぐそばまでやってきていた。


携帯で調べていた上映情報を見て思わず顔がほころんでしまう。


ロストレガシー時代の作品、当時である西暦にして1999年頃、当時では革新的な撮影方法とCGを使用し一世を風靡したSFアクション映画。


今なお根強い愛好家たちに楽しまれ愛される作品でロストレガシーオタク達からも評価が高く、同じくロストレガシーオタクの一朗も大のお気に入りで映画館の大画面で見れることに嬉しさを隠しきれていなかった。


それに今日は誰の付き添いでもなく一人で自由気ままであることが心のゆとりを生み出している。


そんな上気分で歩いていると明らかに怪しい人物を見かけてしまった。


黒いサングラス、白いマスクにグレーの帽子を被って変装しているが、神樹族の特徴である長い耳が隠しきれていない上に、信仰している神の恩恵が授けられたと言われている橙色のイヤリングが見え隠れしている。


それを見た一朗はクラスメイトのリリア・ペンティアである事を確信していた。


けったいな事をしている割に爪が甘い変装に思わず声を掛けたくなるがぐっと堪える。


ばれたくないからこその姿なのだろうがあまりにも稚拙で気になってしまう。


普段は寡黙で知的、シルクの様にきめ細やかな白い髪とスラリとしたモデル体型が目を引く麗人にして神樹族の巫女の家系だという話なのだが。


「……見て見ぬふりがベストなのは間違いないな」


そう自分に言い聞かせるように一朗は呟いた。


しかし、ああもあからさまに隠されては気になってしまうというのも事実。


尾行というものどうだろうか、などと頭の中でのたまうが見失わないように足取りはバレないほどの距離を取って、後ろをついて行ってしまう。


「たまたま、たまたまこっちに行ってみたくなっただけだ」


自分に言い訳をして一朗は当初の予定を放棄して尾行を開始してしまう。ブループロムの件と言い本人は無自覚だが、意外と享楽的な面が一朗にはあるらしい。


商業区と一言で済ますには範囲は広くあちらこちらで店が構えられておりすべてを把握しているのは行政側だけじゃないのかと思うほどに多種多様。


そんな誰もが行き交う場所を迷い無く進む暫定リリア・ペンティアの後を追っていく。


ショッピングモールからは遠く離れて雑貨やアパレル、宝石店やオシャレなカフェが建ち並ぶショッピングエリアにたどり着き、さらにそこから脇道に入り込んで人通りの少ない路地に出ると建物からしてファンシーな通りに出た。よく見るとどの店も女の子が好きそうな愛らしい衣装や小物が売られている。


そのうちの一つにリリア・ペンティアが入っていく。流石に中まで追っていくのは趣味が悪すぎるし野暮だろうと一朗は外から中の様子がわかるようなショーウィンドウから少しだけ様子を覗いて当初の目的へ戻ろうと考えた。


ちらりとロリータ系ファッションを着込んだマネキンや小物が並ぶショーウィンドウを覗いて一朗は足を止めた。


「なっ!」


並べられた小物の中には見かけることの少ない、ロストレガシー時代の物であることを証明する復刻マークの入った当時内容のまま刊行されたタブロイドがあった。


「まさか、こんなところで見かけるとは」


思わず心の声が漏れ出てしまう。


そもそもタブロイドの復刻にしても種類も数も果てしないほどあるため目的を持って欲しいもの調べても入手することも難しく時折刊行されるものと運よく出会う以外に無く、置いているところも少ない。


そのため、こういうコレクターアイテムの様なものは一期一絵。今回の場合、可愛いアイテム扱いでこの店が仕入れているようで店の中にも幾つか販売している様子が窺えた。


「復刻タブロイド、値段も安価でコレクションのし甲斐もある。これは是非欲しい! が……」


その為にはこのロリータショップへと足を踏み入れなくてはならない。流石に欲しいものがあるとは言え一朗も躊躇いが勝ってしまう。


どうしたものかと悩んでいる間に時間は過ぎていき、この機会を逃せば次はさらに足が遠のく。


腹を括って一朗がショーウィンドウのタブロイドから顔を上げると見知った顔がガラスの向こうで蛇に睨まれたカエルのように表情を固めている、リリアの姿があった。


「……。」


時として、人は大してやましいことが無くとも無意識に逃走してしまうことがある。


そして、逃げられれば追ってしまうのも人の性である。


つまり、冷や汗をかいて突如逃げだした一朗に対してリリアは店を飛び出してそのあとを追ったのだ。


「まてまてまてまてっ! なんで逃げてるんだよ、俺はっ!」


一人状況を叫ぶが、だとしても一度逃げ出してしまった以上止まる事はできない。


それを理解して人ごみの中へ逃げ込もうと大通りに出たのだが。


ガシッ。


華奢な指が肩に掛かり、かつてないほどの力で掴まれたことを悟る。


「貴方、確か壱波君よね……クラスメイトの」


スーッと血の気が引いていくのがわかる。


恐る恐る振り向くとやはり、リリア・ペンティア。その人であった。


「や、やぁ。あーっとえーっと、どうしたのこんなところで?」


誤魔化すなんて言葉にも満たないレベルのぎこちない返事。そもそも何を誤魔化すつもりなのかも本人が理解していないというのも要因の一つである。


「貴方こそ、ずいぶんお急ぎだけど何か用事でも?」


「まっ、まぁそんなところかな。はっはははっ」


乾いた笑いで答えるが明らかに動揺している一朗にリリアの問い詰めるような瞳が鋭くなっていく。


「そう。一応聞いてあげるけれど、少しお茶していかないかしら?」


逃げたらボコる、そんな雰囲気に一朗はのどを鳴らして観念したように頷いた。


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