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瞳に映る輝く世界 ――英雄の残したもの――  作者: カンタロウ
エピローグ
7/63

魔獣との決着

 ジーク――いや、カルミア・スカーレットの損害は、両腕のリアブレイスとヘルメットが欠損していた。

 他には、金色の髪が埃や泥で汚れているぐらいだ。

 それ以外の怪我や欠損部分は見当たらず、瞳の中に眠る赤い炎は消えているように見えなかった。

 海斗は涙の輝きをそう捉えてしまったのだ。


「あぁまだ戦える」


 拳を握れる。立ち上がる力が残っている。

 それだけでも十分だった。

 海斗の瞳の色が本当は赤だったこと、『ドラゴンスレイヤー』を使っていることは、この際どうでもいい。今は、目の前に立つビック・ウォーウルフを倒すことが先決だと言わんばかりに、カルミアは立ち上がった。


「無理するなよ。ヤバかったら全力で逃げろ」


 海斗は、彼女の1歩前に立って剣を構えた。構え方は、オーソドックスな中段の構えをする。


「ワレは逃げん。胸張って帰りたいからな」


 カルミアの意思は、強い。

 彼女と一緒ならこのモンスターも容易く倒せるだろう、と確信した。

 出る幕は無さそうだし適当に流すことも考えたが、もしまた固まったら嫌なので本気でやることにする。正直、自分なんかが本気でやったところで足でまといになる現実は目に見えているし、気が引けるが、自分が痛い思いすることなく、倒せれば最高だ。最悪死ぬことなく、夏休みを自宅で過ごせるレベルの傷ぐらいなら負ってもいい気持ちで剣を強く握りしめた。


「グルルルル」


 怖い。

 背筋が凍り、目の前がクラクラする。

 このモンスターが吐きだす殺気だけで、ぶっ倒れそうになるのをなんとか気力で持ちこたえ、睨む。

 魔物と呼ばれたその目は白く、また恐怖が増すばかりだ。


「アイツの弱点知ってるか」


 海斗の言葉にカルミア2秒ほどだまり、フンと鼻で笑った。


「そんなもの知ってたら、とっくの前に倒してるわ」


「たしかに」


 グーの音も出ない正論を叩きつけられて言葉を失う。


「全く状況観てないから、どんな攻撃しているのかとか知らないんだけど……」


「それならワレは知ってるぞ。実際にくらったしな」


 胸張れないものを自信満々に言うとは、さっきの攻撃で頭でもおかしくなったのだろうか。心配になる。


「雷、仲間を魔法陣から召喚、背中にある触手で攻撃……あとは噛みつくとかオーソドックスなやつだな」


 指で折りながら数える。


「どれも痛そう。しかも、俺鎧とかきてないから、くらったら即死だろ」


「絶対に守るから安心してくれ」


 さっきまで負けてたやつが言うセリフが言える言葉なのか。ため息が漏れる。

 頭がおかしいと言うか、ただのアホなのかもしれない。

 しかし、心強い事は確かであった。1人だったら確実に勝てなかっただろうし、周りに人がいる事で湧く強さとはこのことなのだろう。

 身をもって実感した。


「なら、背中は任せた」


「任せてくれ、海斗。ワレは前線張るのも、守るのも得意だからな」


 さっきまでの絶望していた表情と打って変わって、自信満々の強気な姿勢だ。親指を立てているから、多少は信用してもいいのだろう。

 深呼吸して、気持ちを落ち着かせる。

 大丈夫、大丈夫。俺は1人で戦うわけではないんだと、自分に言い聞かせる。


「ワオ―――ン!!!」


 ビック・ウォーウルフは天高く雄たけびを上げると、共鳴するかのようにまた光を放って2体のウォーウルフを召喚した。


「海斗、いけ!」


えっ、俺初めてなんだけど――という言葉は今の状況に相応しくない。


「わかった」


 カルミアの合図と共に前へと走った。

 2匹のウォーウルフも反応し、走ってくる。

 このままいけば正面衝突するだろう。どうにか対策を考える必要がある。

 考えていたところ一筋の閃光が目の前に立つ。

 カルミアだった。


「させん。ホワイト・ショット!」


 カルミアは左手に持っている剣を前へと突き出した。その瞬間、光の刃が無数に飛び、ウォーウルフの体を貫通する。


「きゃん」


 倒れ込んだが、それでもまだは立とうとする。そこにとどめを刺すために、彼女は距離を詰め、1匹の首を跳ねた。それから、もう一匹の首も同じやり方で飛ばす。

 慣れてるな――海斗はその手さばき具合に見惚れていたのは確かだろう。少しだけ圧巻されていたが、すぐさま自分のやるべきことを思い出し、ジャンプした。

3メートル……いや4メートルのジャンプは、ビック・ウォーウルフの頭上を越した。


 ――ちょっと飛びすぎたかも。


 力加減が慣れていない。だが、都合がいい。そのほうが攻撃しやすかったからだ。

 大剣を大きく振りかぶり、ビック・ウォーウルフの頭に狙いを定める。

 軌道が落ち、ビック・ウォーウルフの頭が近づいてくる。

 大剣の間合いに入り、剣を振り下ろそうとした瞬間、頭上から紫の光がジグザグに地面へと落ちる。


 彼女が言っていた雷とはこれの事なのだろう。剣を今更戻しても間に合わないし、空中の状態では自由に身動きも取れない。

 死を実感した。


「ウィング!」


 海斗の体が右へと動いた。まるで風に揺れる木の葉のようにふんわりと優しく、それでも抗えない力強さがあった。

 カルミアの魔法によって、海斗が何かすることなく雷を交わすことに成功する。だが魔物を倒せたわけではない。まだ戦いは始まったばかりだ。

飛ばされた状態でもなんとか受け身を取って、そびえ立つ壁に着地する。


 スーパーマンになった気分だ。いや、どちらかというとスパイダーマンに近いか。まあなんにせよ、スーパーパワーを手に入れたことは確かだから、この力をフルに使えなくても多少は使いこなしたい。


膝を曲げ、一気に伸ばす。ビューンと飛び、ビック・ウォーウルフの喉に向かって剣を振る。今度は反応できなかったのか、雷を落とすことも、触手を出すこともせず、ただただ喉を切られた。


「……ッ」


 何をされたのか理解していないのか、キョトンとした顔で海斗を見ていた。だが、その喉から砂の粒が滝のように流れている。


「生物じゃないのかよ」


そりゃそうか。魔物って言っていたし。

 異世界のなんでもありに感心した。


「そいつは、アンデットだ。死んでいる」


「死体が動くのか」


 反対側の壁に着地し、観察した。

 ビック・ウォーウルフは自身から流れる砂に反応することも無いし、痛がるそぶりも見せない。ずっと海斗とカルミアを交互に見て、どっちを攻撃するか見定めているようだった。

 知能は見えないし、反応も遅いからアンデットというのは間違いないのだろう。ゾンビ映画を元にして考えているが……。


「だったら余裕だろ」


何故、彼女が負けたのかわからない。もしかして、手加減したのだろうか。

 また同じような行動で壁から飛び立った。狙うは頭。確実にこの大きい剣で切り落として、早いとこ終わらせたい。そのほうが死ぬ確率も減るし、彼女について少しばかり知れる時間もあるだろうから――『ドラゴンスレイヤー』を左側に持ち替え、移動のスピードだけで切り落とす算段だった。



「海斗!」


 下でカルミアが叫ぶ声が聞こえる。一度動いたからには止まれないし、何よりも舐めていた。

 瞬間、眼にギリギリ見える早さでビック・ウォーウルフがこちらを見る。確実に目は合ったし、捉えていた。


「あっ、やば……」


 上から黒い影が鞭のように伸びた。その先端には確実に海斗の体を捉え、仕留める勢いで振り下ろされる。

 避けることもできないし、動く事もできない。かといって、このまま進めば確実にあの触手にぶち当たる。

 後悔が募った。

 だが、



「背中は守るから、安心しろ」


 白い鎧が上空まで移動していた。

 カルミアが手をクロスにして、苦渋の表情で盾になってくれていたから当たらなかった。


「ごめん」


そう言い残して、海斗はビック・ウォーウルフの喉に向かって剣を立てた。喉を同じ形で切るが、傷は浅い。だが、それは見越していた。

 クルッと空中の状態で体を捻りして、ビック・ウォーウルフと正面に向き合う形で空中を移動する。


「オラァ!」


 最大限に力を込めて剣を投げる。狙うは頭だ。ゾンビ映画でよく頭に向かって銃弾を乱射していたから、それに影響を受けた行動である。

『ドラゴンスレイヤー』は、一直線に放たれ、目の前で弱り切っていたカルミアに集中していたビック・ウォーウルフは気付かなかったのだろう。大きな剣はこめかみに刺さり、そのまま体内へ入った。そして、反対側から剣が突きだし、壁へと刺さる。

 ビック・ウォーウルフは最初だけ動いていた物の2秒もすれば、力なく倒れ込んだ。


 海斗もなんとか反対側の壁に着地し、そのままゆっくりと降りる。

 これはゾンビ映画で培った倒し方だから自信がなかった。


「………」


 倒れた衝撃で舞った砂ぼこりで、ビック・ウォーウルフがよく見えない。それにカルミアもどうなったのかわからない。


 ――頼む終わっててくれ。


 神は信じないけど、このときはきっと神に向けて祈りを向けていたのだろう。強く念じていた。


1つの影が砂ぼこりの中で立った。ビック・ウォーウルフかと思ったが、大きさと形が違う。あの魔物よりも小さく、二本足で歩いている。つまり、


「カル……」


 本名を言いかけて危うく口を閉じる。彼女の本名は、まだ口にしてはならない。カルミア自身が自己紹介するまで、絶対に言ってはいけない――そういう約束だったからだ。


「海斗、やったな」


 カルミアが親指を立て、眩しい笑顔を向け、海斗も口が緩む。

 

――そっか、終わったんだ。

達成感とやりきった幸福感で気持ちが満たされていた。

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