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瞳に映る輝く世界 ――英雄の残したもの――  作者: カンタロウ
エピローグ
4/63

ドラグネス王国の王女-01

 海斗が走った瞬間、ジークは唖然とした。

 確かに逃げろとは言った。だが、こんなに早く行動を起こせるものだろうか。

 もう少し焦ったり、驚いたりしてもいいのではないか、と考えた。


「思い返してみても面白い奴だったな」


 剣を喉元に突き立てても彼は怯えることをせず、冷静に対処しようとしていた。

 この世界の住人は剣や魔法は存在しない。だから、彼にとって現実味は無かったのかもしれない。

 いや、目の前で木の葉を真っ二つに切ったのだからその切れ味は、確かに証明できたはずだ。

では、なぜ彼は怯えなかったのだろうか。

どうして、彼は冷静になれたのだろうか。

 一体なにが彼をそこまで、死ぬかもしれない状況でも強く精神を保てていたのか不思議だ。


「この場を生きて出れたら、また話せるだろうか」


 何かを隠していることは、明白だ。


「グルルルル」


 唸り声と共に、黒い影へ光が注がれる。

 現れたのは、オオカミの姿をした魔物だ。前方に立つ2体の魔物は腰ぐらいの大きさで、後方の1体は3メートルは優に超えていた。

 前方2体の魔物は、ウォーウルフで間違いない。灰色の毛並みからそう判断した。しかし、後方の大きな魔物はわからなかった。黒い毛に生気を感じさせない白い不気味な目。とりあえず、仮称としてビック・ウォーウルフと名付けた。


 情報が無い魔物を含めて考えると、勝てるかどうか怪しい。

 この世界へ来る前に負った傷を心配し横腹をさすった後、海斗を脅すときに使った剣『レイヴの剣』を鞘へと納める。

 左手首ある金色の腕輪へと目を移し、強く念じた。瞬間、腕輪は光に包まれ、身の丈に合わない大きさの黄金の剣へと姿かたちを変える。

 

 名前は、『ドラゴンスレイヤー』。別名『授かりし黄金の剣』だ。スカーレットの血を持ち、国民と国王に認められた者にしか与えられない世界でたった1つだけの特別な武器だ。先祖代々受け継がれおり、数多もの人間が手にしていた。

 しかし、実際は、彼女を除いた元スカーレット家は誰1人として使えなかった。自分の身の丈に合わない大きさと重量感が関係して、この武器を振ることができなかった。それにドラゴンスレイヤーは国の宝であるから、壊してした場合、王としての顔向けができなくなるなどなど、様々な理由を言い訳とし手首に巻いたお守りとなった。


そこで彼女は様々な模索をした結果、いま身に纏っている鎧『レイヴの鎧』を開発することに成功する。このおかげでドラゴンスレイヤーは歴史の中の武器ではなくなり、国を守るための歴史を創る武器として生まれ変わった。だが重量感が去ることは叶わなかった。やはり、どんなやり方をしてもこの武器は手足のように振るうことができず、なんとか使えても大勢の敵を一撃でなぎ倒すことしかできない。とは言え、歴代で握った人間の中では、彼女が一番扱えているのは確かだ。

 


これを手に取ったからには、適当な戦い方をしてはならない。に恥じない戦い方をする必要がある。

 深呼吸して、仲間の顔、両親の顔を思い浮かべると自然に勇気が湧いてきた。この状況でも勝てるはずだと込みあがってくる思いが彼女を強くする。


「ワレはドラグネス王国の王女カルミア・スカーレット。必ず帰ると約束した仲間のために、友のためにここで死んではならん」


 自分を強く鼓舞し、『ドラゴンスレイヤー』を両手で握りしめる。


「ゆくぞ、魔物ども」


 カルミアの声と共に、前方のウォーウルフが大きな遠吠えをあげる。

 先に動きを見せたのは、右のウォーウルフだ。山のように尖がった牙を見せながら、ジャンプ攻撃をしかけてくる。

 剣を振るうにしては間に合わず、カルミアは左手を盾にしわざと噛ませた。


「……ッ!」


 メキメキと鉄の鎧にヒビが入った。

 この鎧は、ウォーウルフのような下級魔物の力では壊すことができないはずなのにいま目の前にいる下級魔物は、鎧を噛んでヒビを入れた。今までの経験はすべて無駄だろう。この魔物たちは、初めて戦う新種の魔物であり、上級魔物だ。


 左手を力強く地面に叩きつけた。地面にくぼみができ、そこに魔物の体が埋まる。次も動かないよう頭を踏みつけた。苦しそうに暴れているのを抑えるようにもう一度強く踏みつけた。その間に空となった左手で『ドラゴンスレイヤー』を握り直し、一直線に走ってきたウォーウルフに狙いを定める。

どこかのタイミングでもたもたしていれば、首元を噛まれていただろう。間一髪のタイミングで『ドラゴンスレイヤー』を横に振るう。


ブウン!


 風の音とともにウォーウルフの体は上と下に分かれ、ドサッと力なく落ちた。

 最後に踏みつけていたウォーウルフの胴体に突き刺し、斜めへと剣を引く。どこに引っかかることもなく、思うがままに剣が進み、綺麗に切り裂くことに成功した。


 肉塊と化した魔物たちからは血が流れることは無かった。その代わり、流れたのは無数の砂の粒。地面を滑り広がった無数の砂は、この世界に来る前に戦った魔物を連想させる。

 ロウカミ国の兵士として使われていた魔物も血1滴流すことなく死んで灰となった。

 予想できることは、1つ。魔物が『アンデッド』であること、それしか考えられない。

 

 しかし、死者を蘇らせて兵士として活用するのは無理があるし、誰が得をするのだろうか。『アンデッド』として復活させたとしても命令は聞かない。命令を遂行してもらうためには、それ専用の魔法を重複させなければならない。そうした場合、『アンデッド』を保つ魔法と命令を遂行するための魔法を2つ同じ力で永遠とかけ続ける必要がある。それは体の負担が大きく、人間の体でこなすのはほぼ不可能だ。一応可能とする人物が歴史上に1人いるが、もう死んで今は居ない。


 つまり、人間ではない誰かが裏で手助けをしているとしか考えられない。


 しかし、どうしてなのだろう。

 ロウカミ国は死の道を辿っている。栄光の道はあったもののドラグネス王国との3年も続く戦争(銀竜戦争)で、財政状況や食糧不足は深刻になっている。また、支配下である国々は一致団結したように独立を目指して行動を起こしていた。

あとは時間さえたてばロウカミ国は滅ぶのに、どうしてドラグネス王国との戦争を続けるのか。

目的が不明だ。


 考えを断ち切るようにビック・ウォーウルフが大きく吠えると、黒い光が昇った。そしてまた同じウォーウルフが2体現れた。

 まるで共鳴するかのように現れた光とウォーウルフに違和感を持ちつつも、剣を構えた。


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