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瞳に映る輝く世界 ――英雄の残したもの――  作者: カンタロウ
異世界人転移編
2/63

謎の声と青い光

イヤホンをした少年―—諸星海斗は、夏らしい爽やかなジェイポップに耳を傾けていた。

 普段はこんな音楽聞かないのだけれど、夏を少しでも感じたくて選んだ。 


 それも全て明日から夏休みだからだ。


 それ以外に理由はない。

 明日から夏休み――この響きがどれだけ素晴らしい事か、嬉しい気持ちを噛み殺していた。

 宿題は倍以上あるけれど、そんなことどうだっていい。今はこの『明日から夏休み』という響きをしっかりと感じて、何をするか考えていたかった。

 ただやりたいことは全部、休日中にできるものばかりで特別夏休みにする理由が無いものばかりだ。むしろ、どうして今までやってこなかったのか考える用事ばかり。


 ――まぁいっか。


 特に悩むべき問題でもないので、振り払った。

 どうせ明日からの自分が考えるだろう、と楽観し、今日の夕飯なにを食べるか考えながら左に曲がる。

 そこに広がるのはシャッター街だ。数年前までどこもかしこも賑わった商店街だったのに、時が経つにつれてスーパーやショッピングモールが開店し、ここに思入れが無い客は新しく綺麗な建物へと足が取られ、その結果この商店街は死滅していった。

 一応、居酒屋や和菓子屋などの規模が小さい店は生き残ったのだが、正直儲かっているようにも見えない。閉店するのも時間の問題のように思える。


 前は結構な人が利用して、この道も沢山の人が通っていた。なのに今では彼以外の人間は通貨さえせず、静寂だけが蠢いていた。


 ただ海斗には、思入れが1つだけある。テレビで紹介されたことも、雑誌に載ったこともないようなこじんまりとしているが、それでも暖かくて優しい団子屋で学校帰りの姉からみたらし団子を奢ってくれた思い出が1つだけ残っている。

 だが、その思い出の団子屋はない。ショッピングセンターが開店したと同時に消えてしまった。


「美味しかったなぁ」


 思い出と共に食べたくなった。今日の買い物リストに足すとしよう。スマホのメモに記した。


 ――さて、帰るか。


 1人だからこそできる速足で、家に向かって進む。

 こういうときにさっさと帰れるのが1人のいいところだ。誰にも邪魔されないし、傷つけられることもない。

 だけど、何故こんなに悲しい気持ちになるのだろう。

 家に帰っても1人。

 学校でも1人。

 休日でも1人。

 このまま大人になって就職しても1人なのだろうか。


「………」


海斗自身、今のいままで人は避けてきた。その理由が人とは違う色をした赤い瞳によって散々傷つけられたからだ。

 だから、人は傷つけるものとして、避け続ける自分を正当化し、こじれたプライドを持って生きてきた。だけど、どういうわけかその壁が最近は崩れようとしている。今まで天高くそびえ立っていた孤高の壁が、バラバラに壊れようとしていた。

それも全てクラス委員のせいだった。

 彼女の優しく知的な顔は、あまりにも彼の心を優しくしてくれる。

もし彼女であれば、打ち明けても大丈夫だと思ってしまうほどに。



「なわけないだろ」


 どんな人間も全員一緒。少し違いが生まれれば平気で暴力を振る生き物だ。

 嫌な記憶から逃れるように、足を速める。


 (ほんとは誰かと居たいんでしょ?)


  囁き声が聴こえる。

 声の主はわからないが、女性で、聞き覚えのある優しい声だ。あの声の小ささからして後ろに誰かいるのは確かだ。

 首をひねった。

そこに広がるのは、シャッターで閉じられた店だけで誰も居ない。しいて言えば奥の方に走っている車が見えるけど、遠すぎて聴こえるはずもない。

 つまり


「幻聴か……」


 納得のいく答えであると同時に、独りだからこそくる恐怖心が全身を走った。毛が逆立ち、背筋がゾクゾクと震える。

 一気にこの場所が居心地の良い場所から、恐怖の場所へとすり替わってしまう。


ズンチャ、ズンチャ。

 

 耳から流れるジェイポップは、相変わらず陽気でリズムがいい。恐怖心が緩和される。


「てか、俺イヤホンして音楽聞いてたよな」


 教室を出る前からずっとしているイヤホンと流れ続ける音楽。音量は人の声をかき消せるぐらいの大きさだから、大声を出さない限り聞こえるはずがない。

 さっきの声はというと囁き声で、声に張りが無かった。

 つまり、これは


 ――幽霊。


 音楽でもかき消せない恐怖が襲い掛かる。

 全身を前に向け、最大のスピードで走った。


 たっ、たっ、たっ、たっ。


 周りにあるシャッター街が怖さを余計に引き立てた。

 人が居ないと言うことは、何かしらの理由があるのだと身をもって感じる。これから違う道を通って変えるべきなのだろうかと考えながら走って、走った。

国民的音楽へと自動的に変わり、それも口ずさみながら前へ前へと進む。


たっ、たっ、たっ、たっ、たっ。


夏の日差しと運動による熱で、体中がサウナのようにあったまっていた。汗がにじんで目にしみるが立ち止まっている余裕もなく、ここを1秒でも早く出る事だけを考えた。


商店街ならではのアーケードの終わりが見える。あそこがゴールだ。


息が上がり、横腹が痛む。口の中から血の味がするけれども、恐怖が後ろから這っていると思えば、そんなことどうだっていい。

走っても振り払えない恐怖心がゴールを目の前にすると、少しだけ力が弱まる。


 ――あともう少し。


ゴールまで10メートルもない。だが、ゴールはできなかった。

目の前に突如として現れた青い光により、通行を阻まれたからだ。


「なんだこれ」


息が上がり、こめかみ辺りから汗が落ちる。

謎の囁き声が聴こえたと思えば、次は青い光だ。LEDのような明るい光が行く手を阻む。


「………」


現実ではありえないことばかりを目の前にして、海斗は放心状態となった。

状況が読み取れず、頭の中は混乱している。何がどうなっているのか、誰かに説明をしてもらいたいが、説明をしてくれる人は誰一人いない。

可能であればさっきの囁き声に説明してもらいたいけれど、幽霊はそう簡単に出るものではないだろうから、無理だろう。

 つまり、この状況を理解し、どうするか考えるのを全て1人でしなければならない。


「1人じゃ無理だろ。パニックホラーものでも誰か居てくれるぞ」


 左耳のイヤホンを外し、一呼吸置く。

 これも全て人を避けてきたからなのだろう。自分の行いを呪ったが、こうするしか身を守る術を知らなかった。だから仕方ないんだ、と自分を納得させる。


「なんだっけ。知るにはまず視覚からって言うよな」


 恐怖心を少しでも緩和するために独り言を言いながら、その光をじっくりと観察した。

 一応歩き回るこも考えたが、パニックホラーものであれば先に動いた人が死ぬという鉄則があるので動かないことにした。


「………」


この観察でわかったことは2つある。まず1つ目は、青い光は円のようになっていることだ。直径2メートルはあると見ていいだろう。次に2つ目だが、この青い光の長さも2メートルある。

 つまり、直径2メートル縦2メートルの光の円柱ができあがったことになる。


「こんな情報で何がわかるんだよ!」


 頭をかきむしった。

指についた汗を服で拭う。そして、頭を冷静にするため深呼吸した。


 正直、見ただけでは何かわからない。全く予想もつかない事が目の前にあってドッキリを疑ったが、自分をドッキリするほど仲いい人が居ないので即否定した。

 いじめの線も考えたが、高校でいじめられるほど特別やらかしたことも何かした記憶が無いので、これもあり得ない。

 最終的にわかったことは、自分が虚しい人間だと言う事だけだった。


「じゃあ、なんだよこれ」


 頭痛が痛いなんて言葉を今なら受け入れられるほどに、混乱している。

 ただ一つだけ謎の可能性が芽生えていた。おかしいとはわかっているけれど、もうこれしか考えられない、と言いたげに頭の中で強く思い浮かべる言葉。


「異世界転移とかありえる?」


 あり得ないのは知っている。

 だが、大体の転移とか転生ものの漫画とかアニメは、何か声だったり光を出したりするのであり得るのではないか、なんて思ってしまっている。

 

「孤独を突き詰めた結果、現実と妄想の区別がつかなくなったのかよ」


 ため息が出る。


「ここで考えても、埒が明かねぇ」


 飛び込むべきかどうか考えた。

 もしこれが異世界転移であればラッキーだし、何もなければ肩透かしで終わり。でも、もしそれで死んでしまったら、と嫌な考えがよぎる。


 ――なら、やはりやめるべきか。


 クヨクヨ考えているそのとき、青い光が強くなる。ビリビリと電気が走り、熱を渦巻く。

 蒸気のような蒸し暑い風が体内の熱を刺激し、汗が噴き出る。

 帰ったらシャワーでも浴びるか、と悠長に考えている海斗の前で青い光がしぼんでいく。ゆっくりと、まるで映画館の明かりのように徐々に徐々に消える。

 そして、とうとう光が無くなり、そこに現れたのは白い鎧――RPGで見るようなプレートアーマーが仁王立ちで立っていた。


「異世界人かよ」


 現実と妄想がとうとう区別できなくなったようだ。

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