松永さん、返事に困る。
「松永が早くオーケーしないから、中野君が出て行っちゃったじゃん」
そう言って松永さんの横っ腹をつつくのは、松永さんを呼んできた女子。
松永さんは、友人の攻撃から胴を守りつつ
「ええっ、私のせいなの!? だって、何て言えば良かったの?」
と、友人にたずねました。
「普通に、友達になってあげても良いよって」
「なんかそれ、私が偉そうじゃない?」
松永さんは嫌な顔をしました。
「なら、お友達からお願いしますって言えば?」
「私からお願いしちゃうの? 恥ずかしいんだけど」
と、また顔をしかめる松永さん。
「じゃあどうするのよ?」
「だってさあ、こういうのって普通は男子から聞いてくるんじゃないの? 連絡先教えて下さいとか、良かったら遊びに行きませんかとかさ。
中野君が何も言ってくれないから、オーケー出来ないよ」
「んー……。
――私達の中で、先に中野君から連絡先を聞かれた人って居る?」
部員達が、お互いの顔をキョロキョロと見た。
「……居ないっぽいから、松永から誘ってあげないと無理そうだね。女子にめちゃくちゃ緊張するみたいだから、連絡先とか聞けないでしょ多分」
「ええー!?
どうしよう……」
松永さんは、途方に暮れました。
「松永、中野君をあんまり気に入らなかった感じ?」
「そんなことないよ。
良い人そうだと思ったけど、彼氏としてとかはまだ全然分からないから……」
「そりゃそうでしょ。とりあえず、一回だけ遊んであげて、それで気が向いたら友達になってあげればって話。
背が低い女子が安心するんだってさ。いじめられたのがトラウマになってるんだよ、きっと」
「んー……期待させちゃわないかなあ? 責任取れないよ私」
「私が『あくまで友達としての紹介だからね』って言おうか?」
「それも私の自意識過剰みたいで嫌だし……。大体、中野君は私と友達になりたいか分からないよね?」
「あいつが松永さんと友達になりたくないなんて、あり得ないでしょ」
「ありえなくはないでしょ」
松永さんが軽く笑って、言いました。
「全然タイプじゃないかもしれないじゃん」
「それはないでしょ」
と、別の部員。
「前から中野君のお気に入りだったみたいじゃん、松永さん。実際、中野君デレデレだったもん。そもそも、可愛くて綺麗って言ってたし」
「あれは、私を傷付けないように、気を遣ってくれたんじゃないの?」
松永さんは、照れながらも嬉しそうです。
「見るからに優しいしね、中野君は」
「そこまで信じてるんだったら、一回遊んでみなよ。いきなり二人きりでとは言わないからさ。私達と一緒にご飯食べよ?」
うんうんと、他の部員も頷きます。
しかし松永さんは、即答しませんでした。
松永さんは少し考えてから
「とりあえず、すぐには決められないから、中野君に謝って返事待ってもらう」
と言い、音楽室から出て行きました。
「あ、逃げた」
「逃げたね」
「けどさあ、なんか脈有りな感じだよね?」
「だって、中野君の話が可愛かったもん。私、中野君が泣いた時に抱きしめてあげたくなっちゃった」
「私も私も! これが母性本能ってやつかって思った」
「お前のは発情なんじゃないの?」
「発情じゃないから!」
爆笑する一同。
笑いがおさまった頃、一人が言いました。
「とにかく、上手くいくと良いんだけどねー」