中野君、吹奏楽部に入る。
中野君は、小学校高学年になった頃から、どうしても納得いかないことがありました。
読んでいる恋愛漫画の主人公の男が、いじめられっ子でモテない自分からすると、贅沢に感じるのです。
せっかく可愛い女の子が優しくしてくれているのに、好きじゃないから断るなんておかしいよ。可愛い女の子に告白されたら、とりあえず付き合えば良いのに。とにかく彼女になってもらって、まずは好きになる努力をしてみれば良いじゃないか。
そう思いました。
その後も恋愛漫画を読み続けた中野君ですが、主人公を大好きになれた恋愛漫画は多くはありませんでした。
ボクだったら、彼女が出来たら大喜びするのに。もし漫画のヒロインみたいに可愛い子が自分のことを好き好き言ってくれたら、すぐに好きになれちゃうよ。あーあ、彼女が欲しいなあ。女友達でも、絶対に大事にするのに。将来、一人くらい女友達が出来るかなあ?
ずっとそう考えながら、日々を過ごしました。
中野君に念願の女友達が出来たのは、高校一年になってからでした。
高校に進学し、高校の部活動のリストを見て、中野君は困りました。興味のある部活がまるでないのです。
しかし、帰宅部がない学校なので、とりあえず部活を必ず選ばなくてはいけません。
中野君の目が、吹奏楽部の文字を見つめたまま止まりました。
彼は思いました。金管楽器は得意でもないし好きでもないけど、他の部活よりはまだ足を引っ張らずにやれるかも……。
中野君の通っていた中学校は、生徒全員が音楽の授業で金管楽器を演奏させられていました。一応、金管楽器の経験者なわけです。
とりあえず吹奏楽部に体験入部に行ってみた中野君。
すると、部活の先輩は全員女子。新入部員も、中野君以外は全員女子でした。
中野君は、気まずさを感じました。男子部員は居ないと聞いた時、帰ろうかと思ったくらいです。
しかし中野君は、お姉さん達に紅茶とお菓子で歓迎されてしまいました。
「男の子の好きなお菓子じゃないかもしれないけど、いくらでも食べてね」
「ボク、緊張して、あまりお腹空いてないです」
先輩達にそう伝えた中野君。
「えー!? やっぱり男子が居ないとダメ!?」
「怖い人は居ないから、大丈夫だよ?」
「女子とか苦手?」
先輩達は焦って、中野君の機嫌を取ります。
中野君はみんなにチヤホヤされて、肩まで揉んでもらえました。
その優しさに感動して、そのまま入部してしまった中野君でした。