わけもわからないまま転移した
目が覚めるとそこは見知らぬ天井だった。薄暗い空間でもわかる狭い天井だ。寝ている俺を囲むように三人いる。人、と言っていいのかは疑問だ。
「目ガ覚メタカ」
聞き取りにくい日本語を話したのは、岩の怪物。人型をしているのはわかるのだが、全身を岩のような何かが覆い隠している。横にいるのはケモミミの少女で、その隣には紫色の肌の男性。地球とは思えない存在ばかりだ。
これは、異世界転移というものだろうか。別に車に轢かれたわけでも、魔法陣に巻き込まれたわけでもない。ただ目の前にいる存在は地球にいないはずだ。
「起きたなら移動しようか」
ケモミミの少女は流暢な日本語を話した後、別の言葉で緑と岩の人に話しかける。多分、多分英語なのだが、成績が良かったわけでもない俺にはわからない。ただ彼らはその言語で話しを進めていき、移動しようとしている。
「え? いや、どういう状況?」
「説明をしたいのだけど、余裕がなくてね。安全なところに行けたら説明するよ」
「……それを信じろと?」
「他にできることがあるの?」
思い付きでいってみたが、ケモミミは慣れているのか、想定していたのかよどみなく答える。召喚した人が悪いやつなんてのも割とある話だ。だから、警戒したふりをしているのだが、なんだかんだ上手くいく。異世界に移動するというのはそういうことのはずだ。
「わかった、ついていくよ」
「うん、それは助かるよ。私達も余力はないからね」
ケモミミが先導して歩く道は薄暗い。大きな建物なのか、管理が行き届いていないようで、石片などが転がっている。いくつも分かれ道がある場所を彼らは庭のように歩いていく。
「そういえば、名前はなんて言うんだ?」
沈黙に耐え兼ねて俺は尋ねた。
「俺ハ2。コイツハ、4」
「私は1。作戦が終われば変わる名前だけどね」
英語がわからない俺でも、数字だとわかる。通しの番号であり、意思の疎通以外を排した名前だ。
「……本名は教えられないってか?」
「情がわいたら困るからね」
そんな簡単に情がわくものだろうか? いや、こうして一緒に行動している時点で多少の情はあるが、困るほどのことかと聞かれると疑問だ。
それから数時間ほど歩く。長い間歩いていれば、いろいろと聞く時間もあるわけで、彼らの話を聞いた。それは俺から始めるのではなく1が、二人に問いかけている。2には日本語で、4には何を話しているか分からないが、多分英語なのだろう。4と話している間は気を使ってくれたのか、聞き取りにくい日本語で2が話してくれた。
聞くと彼には大切な人がいて、その人に一言謝りたいらしい。だから、こうして作戦に参加しているとのことだ。実際何の作戦かだとかは教えてもらえなかったが、彼が真剣なのはわかった。
「ここだね」
1が指さしたのは天井付近にある通気口。高いところにあり、跳ばないと手も届きそうにない。
軽やかに跳んだ1は付いている柵をつかみ、そのまま壊す。するりと体を入れ込み、中に入る。
「行クゾ」
俺がそんなことをできないのは織り込み済みなのか、2が俺を持ち上げる。そうすることで何とか入り込むことができる。入ってわかるのだが、這って進まなければいけないほど狭い。こんなに狭いと2は入れないのではないだろうか。
「さぁ、進むよ」
「いや、待てよ。二人がついてきてない」
「そうだよ」
「……どういうことだよ?」
「その説明も向こうでするから、ついてきて」
それ以上問いかけることもできず、ついていくことしかできなかった。