場
「あ……そっか」
次郎はあっさり納得した。読者諸君にも、少し特撮に詳しければ察して頂けるはずである。もしわからない場合は「アメリカ」「戦隊」で検索だ!
「最初は『レンジャー』案ばっかだったんだけどぉ~。
ベテラン議員から『ファイブ』案が出されて、一気に空気変わったよねぇ~」
ダークメイスンのキャラがまた不安定になり始めていた。いや、常に不安定か。
確かに戦隊シリーズも初期は様々なタイプのタイトルがあった。それから「○○マン」の時代を経て「○○レンジャー」の時代にいたる。
近年はもう「ジャー」さえついていればよい感じになってはいるが、そのパターンに則らない戦隊も過去稀に存在していたのだ。
「でも、レンジャーの方が良くないですか?
ファイブだと、5人にしなきゃいけないでしょう?
今時だと人数増えていくの、結構普通ですよ?」
次郎は今後現れるべき6番目の戦士に思いを馳せていた。いや、本来ならそのポジションはダークメイスンなのだろうが、彼は既に寝返り済みだし。一体どういう計画性でこの物語は進んで行くのか。
「そ。ジロちゃんの言う通り。
与党の若手議員はそう主張して徹底抗戦したんだけど、『戦隊は5人に決まってる!』って思い込んでるベテラン議員と、『保持する戦力には上限を設けるべき』っていう野党が裏で繋がって、その意見をつぶしちゃったんだよねー。
ほーんと、バカなんじゃないのかなぁ」
全くである。
長官はゴホンと一つ咳払いして、妙な感じになりかけていた場の空気を引き締めた。
「と、とにかく『ファイブ』案で決定してからも、既にある登録商標のチェックや各会派の意見調整に難航した。
そのため、一旦【なんちゃらファイブ(仮)】という仮名称が付けられた」
「国連やアメリカからの催促、えげつなかったもんねぇ」
ダークメイスンが言う通り、外圧に弱い日本政府の焦りが伝わってくる仮名称だ。
しかし、だとしても、この仮名称はそのまんますぎやしないか。いや、まぁこんなもんか。
「そしてこの私、大郷廣雅が正式に長官に就任し、組織固めをしているうちに、突然正式名称がこの【なんちゃらファイブ】に閣議決定された」
「え、それじゃあ野党の反発はすごかったんじゃ……?」
それはそうだ。突然の閣議決定など行えば、「権力の暴走」だの「独裁政権打倒」だのと騒ぐ者が現れそうなものだが。
「ところがそうでもなかったのよね~」
美優が言った。え、そうなの? 美優ちゃん。
「その頃には国会も、『もうなんちゃらファイブでよくね?』という空気になっていたからな」
え、軽っ。マジかダークメイスン。議員たち、飽きちゃってたのか。
「そういうわけで、この組織の正式名称は【究極無敵爆裂防衛戦隊なんちゃらファイブ】となったのだ」
次郎はどうも釈然としない顔だった。もちろん筆者もまったく釈然としていない。
「でも……国連の組織なのに、なんで日本の国会でやってたんですか?」
「国連はー、組織の設置は決めたけど「あとは日本でやってねー」って丸投げしたんだよね~」
次郎は思いっきりため息をついた。ダークメイスンの答えがあまりにも予想通りだったのだろう。
「まぁ、それだけ日本が頼られてるってことでしょ?
裏を返せば、日本が貧乏くじ引くのは結構いつものことじゃん?」
美優はあっさりと言った。
「ま、マジっすか……」
がっくりと肩を落とす次郎。長官は苦虫を噛みつぶしたような顔になった。
「美優くん、できれば、逆に裏を返して欲しかったなぁ。
……だがまぁそういうわけだ。
レッド。実は君にも既にコードネームは発行されている。
なんちゃらスーツを支給する際に伝える。
自己紹介アクションも考えておくように」
おお、自己紹介アクション。戦隊の花形コンテンツの一つだ。ここは是非ともビシッと決めてほしいところである。
「え、ああいうの、自分で考えるんですか?」
「あったりまえじゃない!」
美優がぐっと拳を握り、テンション爆上げで一歩踏み出した。
「あたしはぁ……。
……ふんっ!
創世の! 赤き翼!! ブラフマァァ~~~レッドぉ!」
何という美麗なアクション。最後に決めたくるりと一回転。そこでもちろんスカートがふわっと広がって……。
いやはや、読者の皆様にお見せできないのが残念である。精緻に描写したいところだが、それをすると少し問題が生じかねないので割愛する。本当に申し訳ない。妄想力を逞しくしていただけるとありがたい。あー悶々する。
「ふっ……。
至高の暗黒……。スプリィィム! ブラック!」
こちらはうって変わってシンプルかつ重厚なアクション。ビシッと背筋の伸びた立ちポーズのまま、動かすのは右手のみ。手首を軽く振り、そのまま顔を隠すように前髪をかきあげる仕草。どう考えても読者的には「何故美優のアクションではなくこちらを詳述するのか」と言ったところだろう。
「か……カッコ良……っ!」
思わず引き込まれてしまう次郎に、長官は満足げな笑み浮かべてうなずいた。
「ではレッド、君の改造手じゅ……」
プルルルル。
長官の言葉を遮るように、ただのスマートフォン型超高性能携帯端末が鳴った。
ピッ、と音を立てて通話回線を開く長官。
「はいこちらなんちゃらファイブ長官、だいごぉぉうだ!」
……なにっ!!」
長官の血相が変わった。何か重大事が勃発したらしい。
「ど、どうしたんですか?」
ただならぬ空気の長官。次郎の緊張感も高まっていく。
美優もダークメイスンも、いつになく真剣な顔になっていた。
「……わかった。そちらは任せる」
長官は静かにそう言うと、ピッ、と音を立てて通話回線を閉じた。
「ゴズメズーンの先遣隊が地球に到達した!
諸君、出動だ!」
くわっと目を見開いて三人に命ずる長官。
「らじゃあ!」
「ハァ~イ、了解でかしこまり~!」
美優、ダークメイスンが敬礼して答える。
「なんちゃらファイブ、初出動だ! 全員でゴズメズーンを撃退せよ!」
……全員?
「ちょ、ちょっと待って下さい! あとの二人は?」
確かに、ここにメンバーは三人しかいない。次郎を入れて三人だ。
「ん?」
きょとんとする長官。ちょっと可愛い。
「ん? じゃないっすよ。五人なんでしょ? ファイブなんでしょ?
あとの二人はどうしたんです?」
「これで全員だよ? いまんとこ。
あー、あと二人、増えるといいねー」
ちょっと待て。まだあと二人分もこの茶番を行うというのか。それともまた別のチート存在をスカウトしようというのか。