登
長官
前回のあらすじ!
Dメイスン
ある日、一通の謎の招待状を受け取った、Neet改めフリーターの田中次郎。
呼び出された会議室に到着した彼を待っていたのは、
地球に迫る危機に対抗する国連の組織だった。
突然改造手術を受けることになった次郎の運命は……!?
次郎
究極無敵爆裂防衛戦隊!
美優
なんちゃらファイブ!
「でも、でもなんなんですかこの組織は!
国連とか言ってましたけど本当なんですか!?」
次郎は最後の反撃に出た。確かに『地球滅亡の危機』自体に疑義があるなら、魔改造手術を拒否する事も可能だ。
……という、前回のラストからそのまま今回に突入する。
「そうだな。メンバーについてはわかってもらえたと思うが、組織についてはまだだったな。
レッドが不安になるのも無理はない」
セリフの最後をうまく差し替えて長官が言った。こいつ、慣れてやがる。
「そりゃあ、自分が人間でなくなっちゃう手術なんか、信頼してないと受けられないよねえ」
美優がとても常識的な発言をした。素晴らしいぞ美優。優しいぞ美優。その名前の通り、美しく優し……。
「……そうか。俺の手術が信用できないか……。
このダークメイスン。この身の不徳、恥じ入るばかりなり」
ちょっと暴走気味になった筆者を遮って、ダークメイスンの落ち込んだ声が響いた。いや、この状況で魔改造手術を信用しろと言う方に無理があるぞ。
「いや、メイスンさんが個人的に信用できないとかじゃなくて……」
次郎のこの反応は、つい相手の気持ちを慮ってしまう日本人の素敵な性だ。
だが。
「ほんとぉ? ラッキー!
じゃ、やろう手術。今すぐやろう手術。楽しいよ手術」
ほら言わんこっちゃない。こういう日本的な文化は海外では、いや、異次元の存在ならなおさら通用しないぞ。
ダークメイスンはテンション爆上げで次郎の手を握った。
「だから! 待って下さいってば!
組織のこと聞かないうちは、手術なんて受けませんよ!」
ダークメイスンの手を振りほどいて叫ぶ次郎。
「へーえ、じゃあ聞いたら受けるってことね?」
「あ……!」
とどめを刺したのは美優。いいぞ美優。実際は何の言質も取れているわけじゃないが、今の次郎ならこのまま押し切れるだろう。行け! 頑張れ美優!
「では早速、説明しよう」
長官が厳かに言った。お前かーい。
「暗黒星団ゴズメズーンの地球侵攻をキャッチした国連は、秘密裏に特別防衛組織の編成を決定した。
その名も!
【究極無敵爆裂防衛戦隊なんちゃらファイブ】!!
そして君は、その戦隊のレッドに選ばれたのだ!」
……。ま、まぁ、タイトルでわかってはいたが。本当にそれが正式名称だったとは。
「…………」
ほら、次郎も言葉を失っている。
「感動で声も出ないか?」
「違うみたいだけど?」
ドヤ顔で胸を張る長官に、即全否定の美優。
「俺は知っている。
……あれは人間が『どん引き』をしている時の顔だ」
ダークメイスン君。正解。
「いや……、いや、だって! まず『戦隊』までが長すぎるでしょ!
それに【なんちゃらファイブ】って、名前まだ決まってないんですか!?」
「レッド。君が疑問を持つのも無理はない。そしてその全てを解決するのも私の役目だな」
長官はうんうんとうなずきながら言った。そう。読者だって筆者だって疑問だらけだ。
「ではまず一つ目の疑問だが……」
「ではまず一つ目の疑問だが……。
メイスン君、3回目だ。バスケットボールなら、あと一回で退場だぞ?」
またもや登場したダークメイスンの先読み。確かにしつこい。長官の怒りももっともである。
「長官、俺、バスケがしたいです」
やりたいならやればよかろう。手を伸ばせる以上、世界を獲れる選手になれる。
「はいはいはいはい茶番はそれまで。
前回全く話が進んでないのに、今回もそんな感じにするつもり?
事態は急を要するんでしょ? もう忘れたの? バカなの?」
そう。美優の言う通りである。レッド一人の説得にまるまる二話使うとか、どう考えても異常だ。いいぞ美優。頑張れ美優。
「すまなかった。美優君。
で、一つ目の疑問だが……。
まずこの戦隊名が決定するまでに紆余曲折があったことを言っておかねばなるまい」
長官が厳かに言った。ついにこのふざけた名前の秘密が明かされるのだ。読者諸君もわくわくして欲しい。できれば。
「紆余曲折、ですか……」
「うむ。
国連で、戦隊の設置が決定した後、その名前をめぐって国会は紛糾した。
憲法や現行法との整合性、各種団体との折衝……。
数十時間の審議が行われ、この要素は外すことができない、というものだけに絞り、最後には国民投票を行う案まで提出された」
「そ、そんなことがあったなんて……」
確かになかなかの紆余曲折である。
「もちろん、『極秘組織』だから、国民投票案は却下されたけどね」
すかさず美優が補足する。
確かにそうだ。国民投票案を出した議員には、是非次回の選挙で落選していただきたい。
「そして、【究極無敵爆裂防衛戦隊】に決定した」
長官は大きくうなずいて言った。
「最後まで『憲法九条』を入れるべきだと言っていた者もいたが、この際それは関係ないだろうという結論になったようだ」
ダークメイスンが目を閉じて静かに言った。いや、それは必要な情報だろうか。面白エピソードではあるが。
「……そりゃそうでしょうね。
でも、その後の部分が重要でしょ? なんで決まってないんですか!」
そう。タイトルのメインは「○○戦隊」の部分ではない。その後の部分がメインタイトルなのだ。
「いや、決まっているぞ? 【なんちゃらファイブ】だ」
長官が言い切ると、ダークメイスンと美優も大きくうなずいた。え、マジすか。マジすか美優ちゃん。
「なんちゃ……。いやいやこれ適当でしょ、あからさまに!」
次郎はつい大声になっていた。もう「わめく」という表現がぴったりくるレベルだ。
「この名前をめぐっても国会は紛糾した。
憲法や現行法との整合性、各種団体との折衝……。
さらに数十時間の審議が行われた」
今度はダークメイスンが重々しく説明した。いや、さっきとほとんど同じなんだが。デジャヴなレベルで。
「スーパーパワーレンジャーに決まりかけてた時もあったよね」
「え! そうなんですか美優さん!
いいじゃないですかそれ!」
思わず身を乗り出す次郎。確かに「なんちゃらファイブ」よりは数十倍良い。(当社比)
「この案は却下された。アメリカへの忖度によってな」
長官の声には少し悔しさが滲んでいた。