者
「じゃ、じゃあ二人とも人間じゃなくて……?
変身しなくても戦えるんじゃ……」
「ううん、変身は大切だよ! 戦隊だもん。制服は大事!」
「せ、制服……?」
まぁ確かに、色違いの制服と言えない事もない。
「そ。
あたしのコードネームは、創世の赤き翼・ブラフマーレッドぉ!」
美優はひらりとスカートをはためかせ、ポーズをキメた。
……だが、何か違和感が。
「え……? レッドって僕じゃないんですか?」
「うむ。レッド。君はレッドだ」
長官が大きくうなずく。
「でもこの人もレッドって……」
「過去の例を見ても、戦隊に於いてレッドは一番強いとされている。
だからレッドを増やせばそれだけ戦闘力も上がるだろう?」
いや、一概にそうとばかりも言えないと思うが。
よしんばそれが事実だとしても、それなら全員レッドにすればよい話だ。なぜダークメイスンはブラックなのか。
「え、でも、紛らわしいじゃないですか!」
「大丈夫だよ。長官はあたしのこと「美優くん」って呼ぶから。
レッドって呼ばれた時は、ジロちゃんの事ね」
名前でなく色で呼ばれるのは、なんとなくかっこいいがなんとなく寂しくもあった。自分という人間ではなく、役割だけにその価値が認められているような、物寂しい感覚。
しかし、美優に「ジロちゃん」と呼ばれるのは悪くなかった。こんな可愛い子に、こんな呼び方をされるなんて、次郎にとって人生初体験であった。正直うらやましい。
「そういうわけだ。ではレッド。次は君の番だ」
「あ、はい。
あの、僕は田中次郎。
公立高校を出て、1浪して大学行って、卒業したんで今はフリーターやっています。
……あ、一応英検3級持ってます」
ザ・平凡。
いやむしろ、就職できていない分、ちょっと残念な方向性だ。全力で就職活動をしてこの結果なのだから、同情を禁じえない。
「おや? こちらの調査では、現在無職。つまりNeetであると報告を受けているのだが」
「先週バイト決まったんですよ!
何で調べてんすか!」
次郎の怒りはもっともである。苦労してやっとバイトを掴み取ったのに。必死で入試に合格し、大学に入った直後に「浪人生の~」と紹介されてしまうようなものだ。第一、個人情報保護はどうなっているのか。
「そりゃあ、地球を守る戦士になる人のことは色々調査しないとね。
力を悪用する人だったら大変じゃん?」
「美優くんの言う通りだ。
……が、バイトが決まっているのに、良くこの時間に来られたものだ」
「ニートだと思ってたから、呼出しが昼の2時だったんですか!
おかげで、始めた早々なのに、バイト休んじゃいましたよ!」
しかし、こんな得体の知れない葉書の呼び出しに、バイトを休んでまで応じるとは。
なかなかバイトが決まらなかったのも、さもありなん、といったところか。
「お主ぃ~、小さなことにこだわりすぎぃー!」
「あんたたちがスケールでかすぎなんです!」
完全にからかい口調のダークメイスンに食って掛かる次郎。
「まぁこれからは国際公務員の資格が与えられるから安心したまえ。
Neet、フリーター、国際公務員。一気に大出世だな!」
確かにそうだった。国際公務員。世界中どこへ行っても身分を証明された、立派な肩書きである。
「い、いや、でも、僕はそんな凄い力なんてないですよ!
普通の人間なんですから!」
確かに、敵と戦うのに英検3級は必要あるまい。
「心配、ない。俺が、改造、する」
何故か片言になったダークメイスンが、次郎に向けて親指を立てた。
「改造って……。そういえば最初にも言ってましたよね……」
「そ。ジロちゃんは今のままじゃ、あっという間に死んじゃうから、改造手術を受けるのよ」
「……はぁ?」
次郎にはやはり納得がいかなかった。ダークメイスンと美優が選ばれたのはわかる。それだけの力を持っているからだ。
テレビの戦隊物だって、それぞれ力を持った者がメンバーになっている。
だが、自分にあるのは、強いて言えば英検3級だけである。そんな自分を選び、わざわざ改造までして戦わせようというのは何故なのか。他の人でも良くはないか。何故自分でなければならないのか。
次郎のそんな思いを知ってか、長官が重々しく口を開いた。
「そうだ。レッド。
地球の科学力、そして神々の力を集め、メイスン君が我々にもたらしたゴズメズーンの超暗黒科学をフルに活用し、君を無敵の超人に魔改造するのだ!」
長官はドヤ顔で、立派な八の字ひげを指で弾いた。
「ちょ、ちょっと待って下さい、じゃあ俺、改造人間にされるってことですか?」
どちらかというと、魔改造人間といったところか。どちらにしてもこんな貸し会議室で持ちかけられるようなレベルの話ではない。
「まぁ、ありていに言えばそうだ。サイボーグだな」
「安心、しろ。痛みは、ない」
「嫌ですよ!なんで僕なんですか!
僕はただのフリーターで、オーディションも受けてないし、応募もしてないのに!
あ! もしかして、姉が勝手に送ったら通っちゃったーとか、良くあるあれですか?
ちくしょう、姉貴のやつ!」
次郎はほとんど錯乱しているレベルでわめいた。いや気持ちはわかる。突然地球の危機に対抗するためにサイボーグになれと言われれば混乱も錯乱もするだろう。しかし、ちょっと錯乱しすぎてはいまいか。次郎、君は一人っ子だ。
「そうではない。
我々が、この世界にあまねく存在する人類全ての中から、君を探し出し、選んだのだ!
そう。君でなければならないのだ!」
長官がくわっと目を見開いて次郎を見つめた。その迫力たるや。
だが次郎も負けてはいない。
「だから、なぜですか!!」
「それはな、レッド。君の」
「正義の心だ!」
長官の言葉を食うように、ダークメイスンが言い切った。見事な連携……。
「だから、メイスン君。私の言う事を先取りするのはやめてもらえるかな」
いや、やっぱりダークメイスンの茶目っ気だったか。