忍
「……頭に直接語りかけてるのと、区別つかないわね、聞いてる分には」
いや、だから表記を変えてるんだけど。まぁきっちり区別したからと言って、どうという事もないわけだが。
「暗黒星団ゴズメズーンとは、様々な星間種族からなる悪の帝国で、既にいくつもの異次元世界を征服した。
そして、ある日ふと気がついた。
異次元世界をいくつも征服しているのに、もともといたこの世界の全てを征服したわけではなかった、と。
それで、まずは手始めに、この地球から征服を開始しようと考えたのだ」
地球側からしてみれば、とんでもなく迷惑な話である。
こんな迷惑な計画が実行に移され始めていたとは。
次郎にも事の重大性がわかってきたようだった。
「そ、そんなことが……!
でも、なんでそんなことがわかったんですか?」
「この世界を征服していない事に気付き、暗黒帝王に地球征服計画を具申したのが、この俺だからだ」
「……はぁ?」
いきなり混乱と嵐を呼ぶカミングアウト。事の元凶はお前だったのか黒ずくめ。
「そ。計画立案者のメイちゃんから得た情報だから、間違いないよね」
それはそうかも知れないが。
状況がアクロバティック過ぎてついていけないという読者諸氏も安心して欲しい。次郎も、そして筆者も同じ気持ちだ。
「は、話が見えないんですけど……」
「ふむ。まずは我々がどういう者か、自己紹介からはじめたほうが良いようだな」
長官が言った。そう。それそれ。というか、何故今までそれに気付かなかった?
「……では、メイスン君から頼む」
「了解した。
俺の名はダークメイスン。
俺はザグルーという世界から、次元を超えてこの世界へやってきた者だ。
ゴズメズーンのザグルー侵攻の際にスカウトされ、ゴズメズーン最高幹部の一角を占めていた。
故あってゴズメズーンを裏切り、ここにいる。
コードネームは、至高の暗黒・スプリームブラックだ」
そう。黒ずくめの男、ダークメイスン。地球侵攻計画を発案する程の幹部でありながら組織を裏切った男。
彼のこの裏切りが、全てを大きく変えてゆくことになった。
「て、敵幹部が裏切って仲間になるって熱い展開ですけど、普通はずっと敵として戦ってきて、その戦いの中でお互いを認め合い、分かり合っていって……って流れがありますよね?
なんで「春の新戦隊」の段階でもう加入してるんですか!」
確かに次郎の言う通りだった。敵幹部の裏切りはせめて2クール目の最後あたりにしてほしい。
「そう、お前の言うとおりだ。
俺はお前たちと戦って、戦って戦い抜き……、その戦いの中でお前たちを認め、お前たちの正義に打たれた。
そしてともに戦おうと誓った……。
俺の予知能力が、その展開になることを教えてくれた。
だから、どうせなら最初から仲間になろうと考えたのだ」
「な、なるほど。合理的と言うかなんと言うか……」
「特にあの戦いはすごかった。私が巨大ブラックホール数百個を超次元連結して宇宙そのものを消し去ろうとした作戦を、お前がでこピン一発で防ぐとは。予想も出来なかったぞ」
……予知能力はどうした。
「いや、そう言われても、まだやってない事だし、ってゆうかもうその流れにはならないんだから、これからやる事でもないわけだし、全くピンと来ないんですけど……」
確かに筆者にも全くピンと来ていない。
「でもでもぉ、メイちゃんの能力は予知能力やテレパシーだけじゃないんだよ」
童顔最終兵器が言った。さすが元敵幹部だけの事はあって、チート能力満載というわけだ。
「能力と言うのかはわからないが、俺はこの世界とは別の世界の存在だ。
体の組成自体がこの世界とは少し異なっている。
だから、体の大きさや形を変える事ができる」
「そうか……! だからさっき腕が伸びて……!!」
「そう。しかも普段は固体として存在しているが、意志の力によって、液体、気体、さらにはプラズマ状になることすら可能なのだ!」
長官が言った。いやもうこのダークメイスンという男、もはやなんでもアリである。
「す、凄いじゃないですか……!」
「まぁねー!
ただ、結構無理矢理ここに存在してるから、存在自体がかーなーりぃ安定しないっつーワケなんだけどねー」
ダークメイスンの言葉に次郎が驚いたのは、その内容ではなく口調の変化だ。一体どうしたダークメイスン。
「……一番安定してないのはキャラだけどね」
童顔最終兵器の冷静なツッコミ。そこは別の世界がどうとかというより、本人のやる気の問題ではないのか。
「お堅いことは言いっこナッシング!
じゃあ、次は美優ちゃぁん。自己紹介ぃ~ヨロシクお願い申し上げ奉る」
喋りながら最後には武士風の威厳を響かせるダークメイスン。なかなかめんどくさい人物のようである。
そして、さぁいよいよ童顔最終兵器の自己紹介だ。
「はーい、あたしは明堂院美優。
人間の姿をしてるけどぉ。実は創造神ブラフマーの後継者なんだよねー」
とんでもない事をさらっと言ってのける。見た目、服装、そして言動を総合すると、単なるかなりイタいコスプレイヤーにしか見えないのだが。
「え? え? ちょっとついていけな……」
救いを求めるような目で、長官に目を向ける次郎。だが長官は『うむうむ。その通り』といった表情でうなずいてみせた。という事は、これは事実なのだろう。国連だし。
「今回現世で修行することになったんだけどー。
色んな時代を見てたら、この時代が結構ピンチじゃん?
だから面白そう! って思って、転生してみた!
事情が事情だし、現世の身では全部の力出せないから、イザって時は、ヴィシュヌとシヴァも力を貸してくれることになってる」
これまたダークメイスンに引けを取らないトンデモキャラである。