CHITKU・CHETKI⑥
おひめさまはかたをすくめます。
「ちがうわ、そんなものじゃない」
じゃあなに?
なんなのさ!
おほしさまがうなります。
そのうなりごえはぎーぎーとガラスをひっかいたようなおと!
たまらずにみみをちぎりたくなるおとでした。
「ほしのやつらはたいそうそざつだから、きみのきもちがわからないのさ」
おつきさまがウィンクをひとつして
うたいます、ああうたいます
それはかぜにのって
おひめさまのおへやにながれます。
ねえ
おひめさま
きみがほしいのはなんだろう
そのへやにはいろんなものがたくさんあるけれど
そこにはないの?さがしたの?
おひめさまはこたえます。
「さがしたわ!クローゼットのうらも、ベッドのしたも、じいやのくつしたのなかも」
じゃあそこにないのなら
どこにあるのだろう
きみがほんとうにほしいものは
おひめさまはすこしくびをかしげてかんがえました。
「わたしのほしいものは」
「ほしいものは?」
「もりのなか」
「そこにはないのだね」
「ないわ、なんにもないわ」
「きみのほしいものは」
「もりのなか」
「じゃあいかなくては」
「いっていいの?」
「いきたくないのかい?」
それはきれいなよるでした。
すこしつめたいかぜがふいておりました。
おひめさまはすあしでした。
だいりせきのろうかにあしをのせて。
きぬのネグリジェをひらひらさせて。
ゆっくりゆっくり、あるきます。
めしつかいたちははりしごとにせいをだしておりましたから、ちいさなあしおとなどきになどしませんでした。
おしろのりょうりにんたちはあしたのおひめさまのおやつのレモンパイの、あまさについてしんけんになやんでおりましたから、ちいさなきぬずれなどわかりませんでした。
もんばんはあくびをしいしい、とびらをまもっておりましたから、ちいさなかげがとおりすぎることなどゆめにもおもいませんでした。
おひめさまはおしろをぬけだしたのです。