表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

勝手に婚約破棄。

どこかの席から「ほらあの人」との声が聞こえてきた。彼は『見るなよ』と口を噤み、顔を可愛い文字で彩られたメニューで覆って、ベルを鳴らしメイドを呼んだ。

「水を二つ、後オムライス…あっ、絵はさぁちゃんで」

注文を受けた子に代わり、さぁちゃんと呼ばれる子が彼の目の前にくる。

「お、一昨日ぶり、元気してた?そ、卒業今日だよね?」

早口で話す彼と対照的に落ち着いた声で、

「あっ、今日もお友達さんと妹さん?ご一緒なんですね。そうです卒業、みんなとお別れ寂しいです。さて、絵は何がいいですか?」

「さぁちゃんが好きな、イルカで!」

彼女はサッとイルカの絵を描くと颯爽と去っていった。

彼が彼女を好きになり、通い始めてもう何年経っただろうか。

ある年の誕生日は花を、ある年は指輪を、受け取ってもらい、彼はそれを婚約OKだと信じた。

「・・・」

『何だよ、文句あるのか』彼は照れ笑いをしながら小声で話し始めた。

『さぁちゃん卒業したら俺と結婚すんだよ。』

『まじか?羨ましすぎるだろ!本当だったらな(笑)』

『お兄ちゃんは私のだから嘘です!』

彼は少し不機嫌な顔で、机をトントンと叩いた

『まじになんなって、本当なら祝福するし、駄目でも慰めるぜ!その時は、旅行に行こう!北がいいな(笑)』

『お兄ちゃん、私も北が良い。お兄ちゃんと旅行したい!』

『勝手に決めるな』

そんな幸せのカウントダウンを噛み締めているうちに、卒業の挨拶が始まり、卒業の理由が本人から語られた。

「もう一部のお嬢様、ご主人様は気付いておられるとは思いますが、実は妊娠6か月となりました。身体や赤ちゃんの事を考えて卒業させてもらおうと思います」

顔を真っ赤にして祝福する常連達、そして推しだった男達は顔面蒼白となった。

もちろん彼もそうだったが、勇気を出して何かを言いかけた瞬間。

彼女は彼の顔を見ながら語気を荒げた

「私の事が好きなら祝福してくれますよね」

彼は椅子に崩れ落ちた。

「あぁ」

『大丈夫か?』『お兄ちゃん大丈夫?』

うなだれ、ぼそりと

『大丈夫…じゃないな』

『元気出して!お兄ちゃんには私がいるじゃない!!』

『そうだよ、俺もいるしな。旅行だ旅行』

作り笑顔でまっすぐ前を見ながら

「そうだよな!俺には可愛い妹も大事な親友もいるんだよな」

そう言葉を放つと彼は大声で泣いた。


そう彼には、本当は可愛い妹も大事な親友もいない。

いるのは、椅子の上に置かれた物言わぬ2つの人形があるだけであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ