迷子事件簿!?(中編)
店に戻ると、オーナーが40歳くらいの女性と話をしていた。
もしかして…!?
「あ、戻ったね」
「オーナー、もしかしてその方って…」
「残念ながら、めるちゃんのママではないよ」
「そうですか…」
「この方はすぐ近くの施設の園長先生なんだ」
「そうなんですか!?」
私が園長先生を見ると、園長先生はにっこりと微笑んだ。
…綺麗な人だなぁ。
「おはようございます。宮間養護施設の園長の宮間 優子と申します。迷子の子というのは、その子?」
「あ、はい!」
園長先生…宮間さんはめるちゃんの側に歩み寄ると、しゃがんで目線を合わせた。
「おはよう」
めるちゃんはビックリしたのか、私の後ろに隠れてしまった。
「あらら」
「めるちゃん?どうしたの?」
めるちゃんは私のズボンにしがみついたまま離れようとしない。
「恥ずかしかったのかしら?」
宮間さんはそう言うと笑って立ち上がった。
おかしいなぁ。めるちゃん、私とかオーナーにはそんな素振り見せたことないのに…。
宮間さんはオーナーと話を始めた。
「この子はうちの園の子ではありませんねぇ」
「そうですか」
オーナーは首の後ろを掻いた。
「こういう場合、どうするべきなんでしょう?」
「やはり、警察に届け出るか、もし警察を嫌がるようでしたら、こちらで預かって頂くかですね。ママが見つかる可能性もあるのに変に施設で預かってしまうと、変な目で見られてしまう事もあるので、施設で預かるのはよした方が良いかと…」
「わかりました。警察には既に電話してありますし、めるちゃんもこの二人にとてもなついているようですので、この二人がいいと言う限り、こちらで預かっています」
「そうですか。もし、母親らしき方が現れたりしたらこちらからすぐに電話しますね。何かあったらこちらにご連絡下さい」
宮間さんはオーナーにメモを渡した。
「わかりました。ありがとうございます」
宮間さんはもう一度めるちゃんの前にしゃがんで、
「またね」と手を振った。
しかし、めるちゃんはやはり私の後ろから出ようとしない。
…もしかしたら、何となく施設の人って分かってるのかな?連れてかれるって思ってるとか…?
宮間さんは反応がないめるちゃんに苦笑いを溢してから立ち上がり、
「では」と私と店長に頭を下げて出ていった。
「めるちゃん」オーナーがめるちゃんに声を掛けると、めるちゃんは
「なぁに?」といつも通りの反応をした。
やっぱり、宮間さんだけダメなのかな…?
「めるちゃんは、ママが来るまでこの二人と一緒にいたい?それとも、もっと楽しくて安全なところにいたい?」
めるちゃんは私と店長の顔を交互にみると
「おにいちゃんとおねえちゃんといっしょにいたい!」
と答えた。
めるちゃん…!(感動)
「そうか。…ということで、二人とも」
「「はい」」
「めるちゃんのママが見つかるまでめるちゃんを任せても大丈夫かい?勿論、無理にとは言わないよ」
「任せてください!」
「まぁ、何とかしますよ」
そんなこんなで、めるちゃんのママが来るまで私と店長が面倒を見ることになった。
「ということですので、店長」
「何だ?」
「めるちゃんが遊べそうな何か買ってきて下さい」
「何かって何だよ!?」
「100均の何かおもちゃとかでもいいですし、絵本とかでもいいです。多分今はあまり連れ回さない方が懸命だと思うので、ここで遊べそうなものがいいです」
「…適当に買ってくる」
店長は「夜勤明けで眠ぃんだけどな…」とぼやきながらも買い物に出た。
店長、めるちゃんの為なら何でもしそう…。
ふと、めるちゃんを見たら、めるちゃんは船を漕いでいた。
「めるちゃん、眠たい?」
「ん…」
「ちょっとねんねしようか」
そう言って私はめるちゃんを抱き上げた。
そのままゆらゆら揺れていたら、めるちゃんはあっという間に寝てしまった。
「戻ったぞ…あれ、める寝てんのか?」
「さっき寝ちゃいました」
「そうか。重くねぇか?変わるか?」
…何か店長、めるちゃんが来てからやたらと優しくない?
「大丈夫ですよ。てか店長も寝てください。私、今日夕方勤務なのでその間、めるちゃんを見てて貰わないといけないので」
「わかった。ならここで寝る」
店長はそういって事務所のパイプ椅子に座った。
「帰っても大丈夫ですよ」
「いや、ここでいい」
…店長…どんだけめるちゃんの側にいたいの…。
そのあと、店長もそのまま眠ってしまったので(器用か。)、ヒマな私は片手でめるちゃんを支えながらスマホを弄っていた。
めるちゃんは1時間後ぐらいに目を覚ました。
「めるちゃん、よく眠れた?」
「うん!」
「じゃあ、ちょっとお遊びしよっか!」
「あそぶー!」
店長が買ってきた袋(大きい袋に凄いパンパン)を漁ると、可愛い着せ替え人形や、変身少女のグッズ(めるちゃんの靴にキャラクターが描いてあるのをちゃんと見てたのね…)や折り紙やぬりえ、45色入りの色鉛筆などなど、色んなものが続々と出てきた。
店長…全部いいものばっかりです。ナイスです。
ガンプラとか買ってきてたらどうしようかと思ったよ。
そうこうしていると、店長が目を覚ました。
「める、起きてたのか」
「おはよ!」
「ん、おはよう」
店長、めるちゃんを見る目完全にパパの目になってますよ!笑
「ねーねー、これかわいいの!」
めるちゃんが一番お気に入りのくまちゃんのぬいぐるみを店長に掲げた。
「そうか。それは良かったな」
「うん!」
きっと、私と店長が今思っていることは一緒だろう。
君が可愛いよ、めるちゃん。
可愛さの暴力って本当にあるんだね…。
それから、しばらく遊んで、お昼ご飯も買ってきて食べて、また遊んでお昼寝してってやっていたけれど、
めるちゃんのママはいつまで経っても来ない。
「めるちゃんのママ、全然来ないですね…」
「そうだな…」
めるちゃんがお昼寝を始めてから、私たちはめるちゃんが起きてしまわないようにバックヤードに移動して話をした。
「ここまで来ないってなると、やっぱり…」
「捨て子って可能性があるって事か?」
「…えぇ」
その場合、私ではどうしたらいいのかわからない。
流石に私はまだ学生だから、今すぐめるちゃんを引き取って養うなんて事は出来ないし…。
「ま、その場合は俺が引き取ってやるよ」
「…え、えぇ!?」
「…何だ、何か不満でもあんのか」
「い、いえ。ただ、まさか鬼畜店長からそんな台詞が出るようになるなんて思ってなかったんで」
「愚弄してんのか、お前は」
「バレました?」
「バレバレだわ、ボケ!」
とまぁ、遊びは一旦横に置いといて。
「本気ですか?」
「本気だ」
「本気と書いてマジって書くやつですか?」
「本気だ」
確かに、店長なら金銭的には大丈夫そうだけど。
「引き取るってなったら、引っ越す」
「あの頑なだった店長が!?」
「ガンプラは抑えて、めるに何か買ってやる」
「あのガンプラ大好き店長が…!」
「何か問題でもあるか?」
「感動してるだけです。そんなにめるちゃん大好きになってるなんて知りませんでした」
「大好きっつーか、まぁそうなんだけどよ」
否定しないんだ…!
「親に不要扱いされる気持ちってのが、何かわかる気がするんだよな…」
「あ…」
「俺も不要扱いされてたからな……」
そういえば、店長は「お前はヤクザに向いてねぇ!出てけ!」って家を追い出されたんだっけ。
「それって、大人になってからじゃなかったんですか?」
「小さい頃からこの子は家業に向いてないだろうってことで、両親に嫌われてた」
「素質が元からなかったって事ですか……?」
「そういうことらしい。一応、中坊の時にグレてヤンキーになってみてもダメだった。お前は根本が違うからヤンキーにすらなれねぇって言われたわ。だから追い出されたときはやっぱりなって思ったから、大したダメージはなかったな」
「……」
「だから、不要扱いされる辛さってのは、わかる気がするんだよな…。
つっても、俺は小せぇ時に追い出されたとかはなかったから、大したことねぇけどな!」
そう言って、店長は笑った。
けど。
「大したことないわけないですよ」
「ん?」
「私は、何でもない、普通の家庭で育ってきました。両親と兄がいて、皆から大切にされてきたと思います。だから、店長の気持ちは分かりませんが、実の両親に素質がないからって必要とされないって、相当辛いことだと思います。私がその立場だったら到底耐えられそうにもありません」
「……」
「辛いのを笑って誤魔化したって、無駄ですよ?」
私がそう言うと、店長は一瞬俯いた。
そして、顔を上げると
「まぁ、だから、めるを放っとけねぇんだよな。エゴかもしれねぇけど、あの子をそのままには出来ない」
と無理矢理話題を戻した。
…今、一瞬泣きそうな顔をしたのを私は見逃さなかったよ。
私は優しいから、そこには突っ込まないでいてあげるけど。
「で、店長にめるちゃんを育てられるんですか?大丈夫ですか?」
「やってみせる!」
「そうですか。まぁ、その時は私も協力しますよ」
「頼んだぜ、奥さん」
「誰が奥さんになるか!そんなことは一言も言ってません!」
店長の奥さんとか、考えただけで嫌すぎて身震いするわ。
「俺としても願い下げだけどな」
「なら言わんで下さい!」
ははは、と笑いながら店長はさっさとバックヤードを出ていった。
…もしかしたら、店長は店長なりに、場を明るくしようとしたのかな?
何だか、私の店長に対しての見方が変わった気がするなぁ。
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そして、この日もめるちゃんのママが来ることは無かった。
「めるちゃんママ、来ないですね…」
「警察に電話してみたけど、問い合わせもないみたいだったよ」
オーナーもめるちゃんの心配をしている。
「いざとなったら、店長が引き取るって言ってました」
私がそう言うと、
「え?あの店長が?嘘だろう?」
って…そうですよね、そんな反応になりますよね。
当の本人は裏でめるちゃんの相手をしている。
「えー、店長が引き取るっていうなんて、思ってもみなかったですねー」と榊くん。
「私も今日の昼間に聞いてちょっとビックリしました。でも、本気みたいです。引き取るなら引っ越して、ガンプラも抑えるって言ってましたから」
「…店長、熱でもあるんじゃないか?」
「どうやら、めるちゃん大好き病にかかってるっぽいです。それも重症の」
「いやぁ、本当にビックリですねー。僕、店長を少し見直しました。この間頼りねぇ!ってアッパーかましたの、謝っときますー」
「それは謝らなくていいと思うよ」
折角アッパーかましたんだから!謝ったら損だよ!?
****** 間。********
「俺、一回めるを連れて帰るわ」
「え?」
ようやく裏から出てきたと思ったら、いきなり何を言い出しているんだ、この店長は?
「めるが風呂入りたいんだってよ」
「おふろー!」
「いやいやいや、それは問題あるんじゃないですか?」
コンビニで預かってるだけで問題があるかも知れないのに、家に連れてくとか大問題になりそう。
「めるをこのまま放っておけるかよ!それに、2日間も娘がいねぇのに放ったらしてる親に問題とか誘拐だとか、どうのこうの言われる筋合いねぇよ!」
確かに。
「私としても、お風呂もそうですし、そろそろちゃんとしたお布団で寝させてあげたいところです」
「だろ?」
「でも、いいんでしょうか…?」
私が困っていると、オーナーがやって来た。
「いいよ。連れて帰ってあげて」
「オーナー!?いいんですか?」
「いいよ。もし、問題になったらその時は私が責任を取るよ。めるちゃんをこのままここに閉じ込めておく方が可哀想だ」
オーナーはめるちゃんの頭を撫でた。
「オーナー…」
「ただし、それには一つ条件がある」
オーナーは指を立てた。
「条件って何すか?」
「篠原さんも付いていくことだ」
「私もですか?」
オーナーは頷き、
「店長だけだと心配だからな」
と言った。
うん…超正論。
「わかりました。私も付いてくので心配しないで下さい」
「悪いね、頼んだよ」
「そんなに俺一人じゃ心配かよ?」
不服そうに店長がぼやいた。
「「超心配だね(ですね)」」
「……」
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そんなワケで、今私は店長の車に乗っている。
めるちゃんは車に乗って直ぐに私の膝枕で寝てしまった。
「ていうか、お前の家の方が良かったんじゃねぇか?」
店長は運転しながら、後部座席にいる私に聞いた。
「うちは学生寮なんで、さすがにめるちゃんはまだしも店長を連れ込むわけにはいかないんです。誰に見られるか分からないんで」
「噂になるかもっていう問題か?」
「そうです。篠原さんが寮に男連れ込んでたよ!って言われたくないんで。しかも相手が店長だったら尚更嫌です。」
「なら、今度嫌がらせにお前んち行ってやる」
「来たら中に入れないまでです」
「そしたら、ドアの前でひたすらお前の名前叫んでやるよ。ありがたく思え」
「私の青春を潰す気!?」
「今のうちに青春にお別れ言っとけよ」
「やですよ!まだこれからなのにー…」
「そもそもお前に青春なんてあるのか…」
「今なんか失礼なこと言いました?」
「失礼なことなんていってねぇよ。ただ、彼氏も友達いねぇのに青春なんてあるのかっておもっ……いででっ!事故る!事故る!!」
「彼氏はいないけど、友達ぐらいいるわ!」
ムカついたから後ろから耳をおもいきり引っ張ってやった。ざまぁみろ。
そんな事を話しているうちに店長宅に到着した。
相変わらずボロいなぁ。
「ちょっとだけ車の中で待ってろ」
そう言って店長は車を降りようとした。
「秘蔵のDVDでも隠してくるんですか?」
「お前まだそのネタ引っ張るか」
「私はいつまでも引っ張ります」
「引っ張るな!忘れろ!つーか、単に足の踏み場がなくて危ねぇからサクッと片付けてくるだけだ」
そういい残して店長はそそくさと部屋に入っていった。
10分後。
「お邪魔しまーす」
「おやましまーす!」
店長が戻ってきたときに目覚めためるちゃんが、これまた可愛い挨拶をした。
おやまします…(笑)
店長の部屋は前回来たときよりは少し綺麗になっていた。
…うん、ちゃんと秘蔵のDVDは隠したね。
まだ
「てきとーに座れ」
「どこに」
ってレベルだけど。
周りから物凄いガンプラからの視線を感じるけど。
これで片付けたって、ビフォーがどんな状態だったのか考えただけで恐ろしい。
店長はそそくさと台所に入っていった。
冷蔵庫を空ける音からして、飲み物を用意しようとしているのかな?
「めるは飲み物、緑茶でいいか?」
「いや、ノンカフェインの麦茶買ってきたんで、これにしましょう」
「やっぱ、子供に飲ませるならノンカフェインの方がいいのか?」
「と思います」
「わかった」
私は店長にノンカフェインの麦茶を渡すべく、台所に向かった。
…台所…惨劇の後みたいになってる…。
恐い、入りたくない。
「篠原?そんなとこで突っ立ってどうした?」
「これ以上立ち入りたくないです」
「何でたよ!?」
「だって樹海じゃん!」
「樹海は言い過ぎだ!せめてお化け屋敷と言え」
「どっちにしてもヤですよ!」
だって、何で電球切れたままにしてんの?
「しょーがねぇだろ!俺台所に入るの二週間ぶり位何だからよ!」
「自炊しないんですか?」
「しねぇ。コンビニ弁当か外食ばっかだ」
「……ちょっと私、買い物行ってきます」
「何の?」
「だって、明らかにめるちゃんに食べさせる物無いじゃないですか!」
「…缶詰めならある!」
「却下。行ってきます」
「…頼んだ…」
痛いところを突かれて何も言えなくなった店長に自転車を借りて、私は近所のスーパーに買い物に出掛けた。
さて、今日の晩御飯と明日の朝御飯はどうしようかな?
悩んだ結果、前にめるちゃんが「ハンバーグ好き」と言っていたので、ハンバーグにすることにした。
朝御飯はトーストとスクランブルエッグとウインナーにしよう。
あ、絶対調味料とかヤバイよね…。
そう思いながらハンバーグの材料と卵とウインナーと5キロのお米とパンとその他の諸々の調味料とか買ったら、物凄い量になってしまった。
…しまった。店長に車に乗せてきて貰えば良かった…。
私はかなりの後悔をしながら袋詰めをして外に出た。
すると、
「おー、やっぱりスゲー荷物だな」と店長の声がした。
「え?店長、何でここに?めるちゃんは?」
「いやー、よくよく考えたらスゲー荷物になりそうだったから、迎えに来た。めるは今寝てる。荷物、トランクに乗っけろ」
「店長…!見直しました!」
あなた、そんな気を利かせることも出来たのね。
「何か今、失礼なことを考えてなかったか?」
ギクッ!
「キノセイデス」
「嘘バレバレだわ、アホ」
店長はそう言いながら、私の手からひょいっと荷物を取り上げてトランクに荷物を乗せていってくれる。
…本当にうちの店長、こんな人だったっけ?
どっかで取り間違えたんじゃ…?
「また失礼なことを考えてるな」
「なぜバレる!?」
「顔に出まくってるわ」
私ってそんなに顔に出る人だったのか…。
「…ポーカーフェイスの練習します」
「つーか、失礼なことを考えてたことは否定しないのな。
じゃ、俺は先に戻ってるから、お前は自転車乗って帰ってこい。流石に自転車置きっぱは不味いからな」
「はーい」