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消された少女は復讐を誓いつつ、第三の生活を送りたい!  作者: 米好美緒
少女が消されるまで
8/10

神話終戦祭 3

「っ!……………おい、そこで今声がしたぞ!何者だ!」


「こんな所にまで『ネズミ』が入り込んでいたとは…………捕らえよ、出来なければ殺せ。絶対に逃がすな!」


「ここまで来れるのは、よほど大物の『ネズミ』ですね。どんな拷問を出来るのか、今から楽しみですよ!【黄金の果実 白い花々のその奥に 通ると言うなら凍らせよ 氷の園】!」


「マドレード様に逆らう者は粛清しなければ!【身体強化】、【炎の剣】!」 




 ルビアは驚愕していた、自分自身に。石を蹴ってしまい音を出し声も出してしまうなど、暗殺者だった頃では考えられない。


 今回の教会浸入は確かに危険性が高いが、暗殺者時代にも似たようなことをしたことはあった。



 そのときは無事に依頼を完了できたが、今のこの失態はなんだ。



(ああ、なんてザマなの!)



 残りの場所が特定されるまでの僅かな時間で通信用の魔道具を使い、フィレアにリヤスやワビスが武装し、信者を連れて抗争を始めることを伝えた。

 

 フードを深くかぶり直し、柱から撤退を決め飛び出した。


「【身体強化】!」


 自身に【身体強化】をかける。上級魔法の氷で作られた花の蔦が鞭のように迫って来たが、全て躱す。

 お返しに太腿に付けていた麻痺毒を塗った黒い針を投げ返すと、先頭にいた男達に命中し、シスターにポーションを飲まされていた。だが、市販のポーションではあまり効かないだろう。


 その後、武装神官も【身体強化】した状態で追ってきたが、ルビアの【身体強化】はLV6。その速さはルビアには及ばない。ルビアは来た道を戻った。




 他の信者達も攻撃を仕掛けてくるが、今のところは数か所掠っただけだ。

 そして、もう少しで信者達を振り切れる所まで来たところ、違和感を感じ、急停止した。



(あれ?………何か、さっきとは違う?)



 時間がなかったが、勘で床に落ちていた石を蹴る。

 すると、ルビアの5歩くらい先で石が消えた。

後ろから信者達の足音が聞こえた。


「『ネズミ』め!もうそろそろ迷宮変動の時間です!皆、早急に奴を殺しなさい!」



 ルビアは遠くて何を言っているか、一部しか聞こえなかった。覚悟を決め、危険を承知でそこから先へ進む。



 先程とは違い淀んだ空気ではない、ほんの少しだけ、外の自然のの匂いがした。壁は古いレンガになり、苔が生えているところもある。振り返っても、足音は聞こえない。ただレンガの廊下が続いているだけだった。



 ルビアは用心しながら先へ進む。





 進むめば進むほど、レンガはより古くなり、空気は冷えていく、明かりはルビアが持っているランプのみ。それでも外の匂いは近くなる。

 先程、信者が言っていたことを思い出す。




(迷宮変動…………ここは、迷宮なの?)

 



◇◇◇




 迷宮とは、神話の大戦時に突如現れた魔物が住まい、鉱物や神話時代の道具が見つかる場所。

 

 新しく見つかった場合は高位冒険者パーティを複数派遣し、迷宮の難易度を確かめなければならない。


 また迷宮には意思があると考えられている。

 そして、最奥にある迷宮核を破壊すれば徐々に機能を停止する。

 だが、そもそも迷宮の最奥にたどり着くのはほぼ不可能であると言われている。




(ここが本当に迷宮なら、魔物が出ないのも、トラップがないのもおかしい……………と言うことはここは迷宮跡?!)




 迷宮跡は迷宮核が破壊され機能を完全に停止し、それでも崩れなかった元迷宮のことを言う。

 その浮かんだ可能性に、ルビアは完全にマドレード教会の危険性を見誤っていたと知る。




(セメリア王国の建国から王都に迷宮が出現したという記録ははどこにも残っていない!!つまりずっと、マドレード教会はこのことを隠蔽していた。でも、どうやって?マドレード教が広がったのは、セメリア王国建国後のこと。っ!?…………と言うことは、建国の際から隠蔽されていたということはーーー王家、または3公爵家のどこかが関わっている!?)




 マドレード教会が広がったのはセメリア王国からではなく近隣の国々から。

 つまり、この推測が事実ならばマドレード教会はこの国のようにかなり根強くなっていると言うことだ。


 ルビアは今は敵対国である自分の生まれ故郷の帝国でもマドレード教が盛んなことを思い出し、どこか一国よりもマドレード教の方が危険であると判断した。

 この推測を一刻も早くフィレアに伝えなければと思い、通信用の魔道具を取り出そうとする。


 だが、ない。


 実はルビアは逃走していた時に落としてしまっていたのだが、拾える余裕はなく情報隠蔽の為、投げナイフで破壊したのだった。

 そのことを思い出し、仕方ないと諦める。



 前方から、僅かに光が見えた。思わず走る。走った先は行き止まりだった。


 だが、レンガの隙間から外の新鮮な空気と光が差し込んでいた。廊下自体が崩れない様にレンガの脆そうな所から少しずつ崩し、小柄なルビアがギリギリ出れる程度開け、廊下から脱出する。




 そこは洞窟だった。廊下よりも二回り大きい。

 神聖な雰囲気があり、天井付近の隙間から光が差し込んでいる。だが、埃がかなり積もっている。

 それは何百年、人がこの場に入ることがなかったことを意味する。外に出ようと、繋がっている洞窟を進んでいくと広い場所に出た。







 そこには女神がいた。







 桃色の髪、豊かな体つき、白い肌。

 そう、まるで女神のような姿の人がいた。後ろ姿からでも分かる。神々しさだ。




(女神、様………?…………なんて、美しいのっ……)




 ルビアは口を押さえて、崩れ落ちそうになった。そのまま放心していると、彼女が振り返る。




「どなた?」


「ひぃっ」




 思わず悲鳴を上げる。振り返った彼女のその嗤い顔は酷く醜く、目はまるで獲物を見るような目だった。




「貴女はとても可愛いわね」


「こ、来ないで!」




 彼女は近付きながら蕩けるような笑みで笑いかけてきたが、ルビアは怯え後ずさる。その顔は先程の嗤い顔ではなかったが、目は先程と全く変わっていなかった。




「そんなに怯えなくてもいいわよ?私の名前は愛の女神マドレード、貴女の主の名前。さぁ、貴女の名前を教えて?」


「だ、誰があなたに教えるもんか!あなたが愛の女神な訳ない!それに、私の生涯の主はフィア一人だけだよ!!」


 ルビアは美しさの仮面を被った、おぞましい者には決して名前を教えてはならないような予感があった。だが逆に、自称マドレードは面白いおもちゃを見つけたかのように、パッと顔を明るくした。



「フィア?その子が貴女の主なの?でも、私よりもそんな小娘がいいの?」


「ッ!…………今、なんて言いましたか?フィレアお嬢様はあなたより美しく、品性のある方です。甘い所もありますが、慈悲と愛らしさの塊のような私の主は心が醜いあなたに小娘と言われるような人ではない!撤回しなさい!!」




 ルビアはフィレアを貶されたことにより、少し冷静になり普段の鉄仮面を顔に貼り付け、自称マドレードを睨み付ける。




「そう………心が醜い、ね。ふふっ、ますます貴女を私のモノにしたくなったわ!それにそのフィレアという娘、どんな子なのかしら?貴女が手に入ったら、貴女と会いに行きたいわね!どういう顔をするか、楽しみだわ!」


「私は!あなたのモノなんかにはなりません!!」


「あら、私は結構人気があるはずなのだけど。私に忠実な可愛い子供達はいっぱいいるわよ?」


「あなたは自分の名前をマドレードと言いましたね、それは神話の大戦を終わらせた神の一柱、偉大なる6神、愛の女神の名です!その名前を偽って使うなど、恥を知りなさいッ!」


「6神ねぇ。歴史はそう伝わったのね………まぁ、やることは変わらないわね」



 ルビアははその言葉にマドレードを警戒する。投げナイフに手を伸ばし、魔力に意識を向ける。その様子にマドレードはふふっ、と笑みを深くして笑う。


「貴女は私に勝てないわよ?」


「それはどうでしょう」



 ルビアもこんな迷宮跡の更に奥にいる絶世の美女がただの女だとは思っていない。だが、ルビアには絶対に譲れない物がある。



(フィア…………絶対、絶対に私はあなたの隣に帰るんだ!!)



「【身体強化】!【風よ 渦を巻き 全てを巻き上げろ 嵐の牙】!!」



 【身体強化】した状態で手持ちの針やナイフを全てマドレードへ投げる。そして、ルビアの唯一使える上級魔法【嵐の牙】で周りの埃を巻き込んだ黒く巨大な竜巻が発生させた。


 この攻撃はこの広い場所に入る前に最後のポーションを飲み、全快した魔力のほとんどを使った攻撃だった。


 砂煙と竜巻で視界が悪くなる。




(流石にこの攻撃で少しは負傷するはず、その間に早く逃げないと!)


「【二重身体強化】!」





 最後の魔力を使い、2回目の【身体強化】をかけ、側に落ちていたナイフを拾う。天井の隙間から外に出るため、視界が悪い中でを蹴り、隙間まで向かう。


 それは【二重身体強化】でなせることだ。

 


 だが、【二重身体強化】は体への負担が大きく、使えば次の日から1ヶ月の激痛に悩まされることになる。

 なのでこれは後に何かを控えている時は使えない。それに、【二重身体強化】は時間制限があるのでルビアは急いだ。



(外まで、あと少し!)

 


「………………『ちょっと待って』」


「っ!!」


(体が、動かないよ!?)




 ルビアは空中で停止し、落下した。



「ぐはっ」


「ふふっ、人間の中では少しはやるわね。でも、逃げようとするなんて、『ダメよ』」


 ルビアは落下の激痛で苦しみながらも、逃げようとした。だが、またしても体が動かなかった。




「ぐっ!また、動かない!?私に何をしたの!」


「あら、まだ分からないのかしら?ねぇ、『貴女の名前を教えて?』」


 


プッツンっ




 その瞬間、記憶が飛んだ。何かわからない強制力があった。何かを言った様な気がしたが、ルビアには分からなかった。



「ルビア、素敵な名前ね」




 ただ、とても後悔した。そして薄れゆく意識のなか、何となく思ったことを口にした。



「そうでしょう。だって、フィアが付けてくれた名前なんだから」






(ああ、フィア……………いつまでも………大好きだからね)

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