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消された少女は復讐を誓いつつ、第三の生活を送りたい!  作者: 米好美緒
少女が消されるまで
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幸せだった日々 1



「お嬢様、朝です。起きてください。……フィア、起きて。起きて!」

「うぅ、起きましたよ〜……すぅ」

「はあ、これだからフィアはどこから抜けてるんだよ」



 朝。窓から太陽の光が差し込むとある寝室で「はぁ」とツインテールのメイド服を着た少女はためを息一つ。

 そして体を起こしてそのまま止まらず、ペタッと毛布にダイブした、驚くべき柔軟性を持つ自分の主を揺さぶる。精神的に。



「もう、起きないならアレ、今のうちに探しちゃおうかな?」


「っ!?おお起きましたああ!」



 ガバッと勢い良く起き上がり、ベッドの上に行儀悪く立つこのメイドの主、フィレア。

 いつもため息を吐く茶髪ツインテールのメイド、ルビアの悪質な囁きによっては彼女は目を覚ました。



「フィア。また、腰を痛めるよ?」

「いえいえ。勢い付けて起き上がったくらいで、そんな事にはなりま、せ……んっ!?」



◇◇◇ 


 

 ルビアはフィレアと一つ上の十四歳。元々は孤児でニ年前に拾ったということになっている。


 だが、実際は違う。

 二人の出会いは三年前。

 この国から東に位置する『メキギル帝国』の差し金で、馬車の移動中に襲撃してきた暗殺者。それがルビアだった。


 当時のルビアは十一歳。

 魔物を繰り出して襲撃してきたテイマーの暗殺者。


 テイムの魔法は貴重で珍しいのでテイマーが暗殺業を生業とする事は滅多に無く、更に彼女程のテイマーは自身も魔物もかなり厄介、とはその時のルビアを捕らえた護衛がフィレアに教えてくれた事だった。


 ルビアは帝国出身で、暗殺者になる前は本当に孤児だった。

 食料を得る為に城に入り込んでいたところを、帝国の暗殺者と思われる人物に拾われ、暗殺術を仕込まれたそうだ。


 その日から血を見ない日はなかったと言う。



 結局、幼いから罪には問われないという訳にもいかず、保護者の大人達はルビアを厳しく罰しようとした。


 しかし、幼いフィレアは自分に関する事での厳罰を看過できずにルビアを助け、それから彼女はフィレア付きの護衛兼メイドになった。


 保護者達からしても、引き込めれば貴重な戦力になるという考えていたのでこれ幸いと襲撃の件を有耶無耶にした。

 


 その後、ルビアは先輩の護衛やメイド達からしっかりとした教育を受けた。そしてユニークスキルがあることが分かった。そのスキルは今でもルビアは愛用している。


 仕え始めは事務的、無表情で無愛想なルビアだったが、段々と打ち解けて今ではフィレアにとって大の親友と言えるまでの大切な存在だ。



◇◇◇



 そんな今更なことを思い出しながらルビアに返事をするフィレア。



「ルビア、おはようございます」

「はい、おはようございます。お嬢様、腰の具合はいかがですか?」



 メイド仕様に戻ったルビアがフィレアの仕度をしながら訊ねる。



「こ、腰はもう大丈夫です」

「そうでしたか。ではゆっくり、ゆっくりとこちらの椅子にお掛けください」

「ですから、もう腰はいいですっ!」



 若干涙目でベッドから足を下ろす。


 椅子に座ってから足を見てふと思う。

 昔は自分の足だけで歩き、走り、動けることは『優里』からは考えられなかったことだったな、と。


 だがら、今幸せに不自由なく暮らしている自分は、この生に対しての感謝を忘れてはいけない。



(本当に、今更ですね)

 


◇◇◇



 フィレアはあまりお付きのメイドが多く持たない。何故なら、ルビアは一人で三、四人分の仕事ができるからだ。

 朝などのとにかく人手が必要な時間は、フィレアの担当を削ってルビアだけがフィレアに付いている。


 今、フィレアは長いブロンドの髪をルビアにとかしてもらっている。何でも、ルビアはフィレアの髪をとかすのが好きらしい。

 窓から入ってくる温かい日差しを浴びて、ブロンドの髪がきらきらと反射する。



「ところでルビア、何でこんな時間に起こしたのですか?」 



 起きたばかりで頭が回らず、頭にはてなマークを浮かべて鏡越しにルビアに訊ねる。


 今日はいつもよりかなり早い時間にフィレアは起こされている。

 早起きは嫌いではないが、昨日は遅くまで婚約者に手紙を書いていたので、少し眠い。


 ボーッとしているフィレアに呆れながらルビアは答える。



「やっぱり忘れてたね……今日は臨時の家族会議です。早く支度しないと、皆さまを待たせてしまいますよ」


「ええっ!? そういうことはもっと早く言ってください!」



 フィレアの慌てぶりに、少しホッとするルビア。


 フィレアは前、それこそ仕え始めの頃から、ごくたまにとても悲しげな、大人びた目をする。それがルビアには怖かった。どこから遠くを愛おしんでいるフィレアが消えて居なくなってしまう気がして。


 だが、フィレアの顔からそのような色は消え、何時もの明るい様子に戻った。


 それを確認してルビアは自分の思考に思わず苦笑した。フィレアが居なくなるなんてあり得ない。自分は何があってもフィレアに付いていくのだから、と。


 少し手を止め過ぎちゃったな、と思い仕事を再開すると、思いがけないフィレアの行動の結果が目の前に広がっていた。


 それを見て思わず満面の笑顔になるルビア。


「ねえ、フィア」


 優しげな声を掛けてからスゥーと深く息を吸い込み、ルビアは言った。



「靴下が左右逆!今日の着替えはそれじゃない!!次々と服を引っ張るなぁ!仕事が増加した!そのダサいアクセサリーはどこから持ってきたあっ!――「ダサいっ!?」――今日という今日はそのオリジナルダサアクセサリー達の隠し場所を見つけて殲滅するッ!!

 さあ、私の観察眼をも欺く無駄に高度な技術使ってないで、その隠し場所を吐きなさあああい!!」


「お、教えるものですか!」

「ほう?なら、その体に聞くしか私の道はないよね、フィア?」

「ひっ、き、きゃああああああ!」

「待ああてええ!」



「お嬢様、ルビア!何をやっているのですか!!」


 王都のど真ん中に建つ屋敷の中に、二つの雷が落ちた。

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