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龍に育てられた兄妹は龍に教えられた術で世界を謳歌するそうです  作者: 欲しい灯油
序章 『龍』に育てられた兄妹
6/38

6話 "お仕置き"というか"お説教"

今回は少し長めです。

  「ただいまー」


  アルクールの森に佇む一軒のログハウス。そこに今日も元気な少年の声が響く。

 

  魔物に襲われ浅くは無い傷を負ったと思われたルーナが突如目の前に現れたレインの一太刀でその脅威を切り伏せられた一件から少し時は経ちレイン達は無事帰宅した。


  ルーナを救出したレインは森の深部から自宅まで直線距離で突っ切り、道中出てきた魔物や魔獣もルーナをお姫様抱っこで抱えたまま火球(フレア)などの初級魔法で一撃で沈め、お姫様抱っこで抱えられ真っ赤に染まった顔をレインの胸に埋め「スーハースーハー」しているルーナを無視しつつ速度を落とすことなく森を走り抜ける事約三十分。


  獣道を抜け普段魔法や剣の鍛錬をしているシアが作り出した簡易的な訓練場を越え、レイン達は家に辿り着いた。


  別に森の中を走り抜けなくても【監視者(ウォッチャー)】でシアの座標を指定すれば後は【空間跳躍(スペースワープ)】で家まで跳ぶ事は出来るのだが、シアまでそれなりに距離があるのでそこまで魔力を展開するとなるとかなりの魔力量を必要とする為レインも無茶をしないといけないので今回は走って帰る事にしたのだ。


  別にその事を話した時、ルーナがとても悲しそうな表情をしていたから空間跳躍の使用を断念した訳でないのだ。断じてないのだ…。


  兎にも角にもルーナを抱えてほぼ全力疾走で森を走り抜けたレインは妹に害を与えようとする魔物共を蹂躙しつつ、魔法の鍛錬もしつつ無傷で帰宅し、いつもの通り解除(アンロック)の魔法で家の鍵を開けると玄関から家の奥に向かって帰宅の挨拶をした。


  「おかえりなさ~い」


  鈴の音のなる様な凛とした声が返ってくると家の奥から返ってきた。


  玄関からリビングへレイン達が向かうと、そこには白髪と黒髪が混じり合う胸元まで伸ばされた長髪の印象的なスラリとした四肢に豊満な胸、まるで美術品なのではと疑う程整った顔立ち、この世の全ての生物を魅了する程の美女であり、二人の母親であるシアがいた。


  白地に黒の斑点の入ったフリフリのエプロン姿に片手にはお玉杓子という、何とも母性を感じる格好をしたシアが二人の挨拶に返した。

  エプロン姿でお玉杓子を持っている事からどうやら昼食の準備をしている所のようだ。


  「ちょうどお昼ご飯を作ってたところなのよ、いいタイミングで帰ってきてくれてよかったわ」


  やはり昼食の準備をしていた様だ。確かに先程からレイン達の鼻腔を香ばしい香りが擽っていた。


  「そっか、それはよかった。所でお昼ご飯何なの?」

  「今日はシチューよ」


  台所で火にかけられている鍋を指差し、シアは今日の昼食の献立を言った。今日の昼食はシチューのようだ。



  「やったー!ルーナ、シチュー大好きですぅ~!」


  自分の好きな料理が本日の献立である事に喜んだルーナだが、そこにレインの辛辣な一言が突き刺さる。


  「いや、ルーナはその前にお仕置きだからな?」

  「!?わ、忘れていなかったのですかぁ…」

  「あらあら、お兄ちゃん怖いわね~」


  そう、ルーナにはお兄さまからの怖~い"お仕置き"が待っているのだ。どうやら帰宅中にレインにお姫様抱っこされていた事と返ってきたら大好物のシチューが用意されていた事からその事がすっかり記憶から抜けてしまっていた様だ。


  顔を引き攣らせジリジリと後ずさるルーナだがまるで「逃がすわけないだろう?」と言わんばかりの笑顔でにじり寄ってくるレインに冷や汗をかきながら意を決したのかぐるんと体を180度捻ると猛ダッシュで家から飛び出した。


  しかし、身体能力がルーナを大いに上回るレインを前に逃れれる訳がなく、あっさりと捕まってしまい、ズルズルと引き摺られながら再び帰宅する事となった…




 ◇◇◇


  ルーナが脱走を図ってから時が経ち、完成したシチューのいい匂いがログハウスに充満する中、リビングのソファーの前に顔を俯かせ正座させられている少女、ルーナが泣きそうな顔で"誰か"を上目遣いで見つめていた。


  レインに引き摺られ帰宅したルーナは砂埃で汚れていたため「お仕置きは後にしてとりあえずお風呂に入って来なさい」というシアの意見から、お風呂に入り、出てきた所をお兄さまに捕まりお膝に座らされ、炎魔法と風魔法を混合させた温風で髪を乾かされた。


  普段ならこの行為を一日の楽しみの一つにもしているのだか今日はそうともいかずその行為中もこれから先に起こるだろうお仕置きにビクビクしながらされるがままになっていた。


  頭を乾かし終わり、一息を吐こうとしていたのだかレインに「正座しろ」と言われ、ますます体を強ばらせると自らの目の前に仁王立ちしたレインをゆっくりと見上げた。


  「さて、お風呂にも入ったことだしそろそろお仕置きの時間かな」

  「!?」


  レインからげに恐ろしい事を言われビクリと体を震わせる。


  その様子を微笑ましそうに台所で鍋をグツグツさせながら眺めるシアの視線がとても優しい…


  「じゃあ、まずどうしてあんな事したのか説明してくれるな?」


  笑顔で自分を見つめてくるお兄さま。しかし目が完全に笑っていない…。

  そんな恐ろしげなレインに恐る恐るというようにぽつりぽつりとルーナは事の発端を説明し始めた。



  「えっと…。ル、ルーナは強くなりたいのです。お兄さまとの"約束"の為に、だから!だから…」

  「うん、それは知ってる。でもだからと言ってあんな無茶していいとは言っていない」


  レインはルーナの訓練についてはっきりと見てはいない。


  しかし、ルーナの周りに積まれた夥しい程の魔物や魔獣の死骸と、その血痕。

  そして、その中心で倒れていた事から相当無茶をしたのだと理解していた。なので、そうまでして力を得ようとする妹にとても不安な思いをかかえていたのだ。


  「そ、それは!そうですけど…」

  「第一俺はルーナに無茶をしてまで強くなってもらおうなんて思っていないんだ」

  「!?お兄さまは"ルーナはただただお兄さまに守られていろ"と言うのですか!?」



  思わず声を荒げるルーナ。それもそのはずルーナはレインの足でまといだけにはなりたくないのだ。


  レインとの"約束"は今のルーナにとって生きる目的でもあると言っても過言ではない。何故ならそれがルーナがレインに"必要として貰えている理由"で有るからだ。


  そんな事をレインに言ったら「別にそばに居てくれるだけで、それだけで自分は幸せだ」と激怒するだろうがルーナは怖いのだ。


  ルーナは何か自分に存在理由が無ければ自分はここに居てはいけないと思ってしまう程に心が弱い女の子なのだ。


  なぜここまで自分と、他人を信用出来ない子になってしまったかは分からない。別に育った環境が悪かった訳ではない。むしろその逆で、兄にも母にも惜しまんばかりの愛情を注がれて育てられてきた。今もそうだ。


  だからこの難儀な性格は生まれつきなのかもしれない。



  しかしそれをレインは知らない。いや、知られない様に今まで隠してきた。



  なのでルーナはレインに必要としてもらう為に、側に居るために強くならなくては行けないのだ。

  だからこそ今回の様な無茶な訓練をしていたのだが。


  それなのに「そんな必要は無い」と言われてしまえば、"自分は必要とされていない"そう思えてしまうのだ。


  だから、今の言葉はルーナにとって自分の存在理由を踏み躙られた様に感じた。それ程ショックだったのだ。


  しかしそれを知ってなのか、否。知らないのだろうがそんなルーナの気持ちを感じ取ったのかレインはとても優しい、いつもルーナに向ける"大好きなお兄さまの顔”"微笑みながら言った。



  「そうじゃない。ただ、俺はお前に傷付いて欲しくないんだ。俺は大好きな妹が傷付いている所を見るのが何よりも辛い。だから無理して強くなろうとしなくても側に居て、俺に笑顔を見せてくれるだけでいい。そう言いたいんだ」

  「え…?」


  ルーナは衝撃的だった。何か自分自身に存在理由が、必要とされる理由が無ければ自分の存在を肯定する事の出来ないルーナにとって、「側にいて、笑ってくれてるだけでいい」だなんて信じられない程衝撃的な発言だった。


  それがこの世で最も愛している兄の言葉なのだから尚更だ。故にその言葉を中々信じられなかった。


  「ル、ルーナは此処に居てもいいのですか?強く無くても、お兄さまの足でまといになっても、必要とされる理由が無くてもいいのですか?」


  まるで縋り付く仔犬の様にうるうると目を潤ませ、本当にそれでいいのかと、自分は此処に居てもいいのかとレインだけでなくシアにとっても"当たり前"の事を。その真意を確かめるように尋ねる。



  そんな妹の姿に呆れたように「はぁ…」と溜息をつくと物わかりの悪い子供に言い聞かせる様に、しかし酷く優しげに妹に言葉を投げかけた。


  「いいも何も俺達"家族"だろ?家族にいちゃいけない理由なんてあるわけないだろ」

「っ!!!!」


  その一言がふわりとルーナの心に突き刺さった。しかしそこに痛みは無く、まるで固く凝り固まった物を解きほぐすかのようにストンと心に落ちた。


  そして長年溜まってきた物が解消される様な気分になったルーナは(ああ、なんだ…。そんな簡単な事だったんだ…)と納得した。


  "家族だから"。そこに居るのが当たり前。そこに居るために理由なんてモノは必要なくただ、そこに居るだけでいい。


  そんな世間の"当たり前"をようやく理解出来たルーナの表情は酷く優しげで、そして爽やかだった。


  そんなルーナを台所から見つめていたシアはやっと理解したかと言わんばかりに鍋の火を止めエプロンを外しルーナの元へと歩み寄る。


  そしてルーナに語りかけた。



  「ねぇ、ルーナ。貴方は誰の子供?」

  「私はお母さまの子供ですぅ」

  「そうね、じゃあ誰の妹?」

  「私はお兄さまの妹ですぅ」

  「そう、じゃあ質問だけど、私達が貴方にこの家に居るために何か対価を求めた事はあった?」

  「いいえ、そんな事を一度も無かったですぅ」

  「そうでしょう。それじゃあこれから私達が貴方にこの家に居るために何か対象を求めることがあると思う?」

  「いいえ、それはありえないのですぅ!」

  「あら?それは何故?」



  ルーナは大きく息を吸いこみ、これから言うであろう言葉を自分の中で噛み締めると、満開の花が咲くようなとても美しい笑顔で

 

  「それは私達が"家族"だからです!!!!!」


  と元気に答えるのであった。









 ☆おまけ

  清々しい笑顔で"お兄さま"と"お母さま"をニマニマしながら眺める少女が一人。


  そんな少女の視線に困った様に互いを見つめ、苦笑いをする兄が一人と母が一人。


  ルーナが自分の考えを真っ向から否定され、"家族"とは何かを教えられ、自分の考えを見つめ直すことのきっかけとなった"お仕置き"が済み、三人で昼食を取った後、のんびりと過ごしていると不意にレインとシアの二人は視線を感じるのであった。


  そこには昼食の時から顔をふにゃんと緩めて、こちらをニマニマと見つめてくるルーナがいた。


  「さっきからどうしたんだよ。そんなニヤニヤして」

  「ニヤニヤなんてしてないですぅ、ただ、ただぁ~… えへへ~」


  美少女のふにゃふにゃの緩みきった顔は何とも可愛らしく、見る者を皆、同じ様な緩んだ顔にするだろうが、その視線をずっと向けられるのは少しイラッとくるものがあるらしく、その視線を向けられているレインは少し怪訝な顔をしていた。


  そんな顔をされても尚、その緩みきった顔を止めようとしないというか止めれないのかそんな視線を送られ続け、遂に我慢出来なくなったのかその顔をどうにかしてやろうと考え始めたレインは"ある考え”を思いついた。


  「あ!」

  「「どうしたの(ですか)?」」


  急に大きな声を上げたレインを訝しげに見つめる二人に対してレインはルーナの方をじっと見ながらニヤリと顔を歪めた。


  そのある意味いい笑顔に嫌な予感がしたのか少し冷や汗をかきながらその笑顔の本人であるレインにルーナは疑問を投げかけた。


  「あ、あのーお兄さま?どうかしたんですか?」

  「ん?いやー、なぁルーナ」

  「は、はい。なんですかぁ?」


  レインの顔がどんどんと歪んでいく姿に本能的に「ヤバイ」と感じたルーナは冷や汗をダラダラ流す。


  そんなルーナの様子にますます顔を歪めてレインはルーナをギョッとさせる事を言い放った。


  「さっきのって“お仕置き”というよりも“お説教”だったよなぁ?」

  「へっ?そ、そんなこと無かったですよぉ~」


  ダラダラダラダラ…………


  「ん?そうかー?俺はどっちかって言うと“お説教”だとおもうだけどなぁー?」

  「いやー、それはお兄さまの考え過ぎですよぉ~」

  ダラダラダラダラダラダラ…………


  「じゃあ、母さんはどう思うー?」

  「!?」

  「うーん、そうねぇ~。私は“お説教”のつもりだったわよ~」

  「お、お母さま!?!?!?」

  「だってよぉー、ルーナぁ?」


  ダラダラダラダラダラダラダラダラ…………


「てことで"お仕置き"しよっか☆」

「い、い、いやぁぁぁぁぁ!!!!!」





 その後アルクールの森の中腹に存在する一軒のログハウスからペシンペシンと何かを叩く音と「いやぁぁぁぁ」という女の子の悲鳴が響き渡るのだった…。



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