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龍に育てられた兄妹は龍に教えられた術で世界を謳歌するそうです  作者: 欲しい灯油
序章 『龍』に育てられた兄妹
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4話 無茶と失敗

  キラキラと朝日で煌めく窓辺。アルクールの森の中腹に存在する一件のログハウスの窓際に置かれた大きな三人掛けのソファーで母親の膝枕の上でウトウトと微睡む少年が一人。


  そんな少年を慈しむ様な愛でる様な何とも優しげな視線を送りながら頭を優しく撫でる純白と漆黒の混じる長髪を耳に掛け流し、その赤く艶めかしい唇でそっと少年の頬を啄む姿が何とも扇情的な女性が一人。


  急に頬にキスをされた少年、レインはビクリと身を震わせ、気持ちよさそうに微睡んでいたその瞳をゆっくりと開くと、自分の頬にキスをした大好きな母親を少し恨めしそうに見上げた。


  「ふぁ〜あ…… 折角気持ちよかったのに、起こさないでよ」

  「ふふ、ごめんなさいね。あまりにも無防備で可愛かったもんだからつい食べたくなっちゃった♡」


  赤い小さな唇を舌でチロリと舌舐りし、どこか小動物を捕えんとする獣の様な目をレインに向けるシアは息子の安眠を邪魔したのを少し悪そうな視線を向けるも、その寝ぼけ眼で自分を見つめてくる姿に再び熱が入ったのか顔を紅くし、息を荒げ始め、その頬をぺろりと舐め回した。


  「んっ… 擽ったいよ、母さん」

  「はぁ〜、息子が可愛すぎて辛いわぁ〜」


  何故朝っぱらから普通の親子ではまず無いだろう過度なスキンシップをしているのかと言うと約二時間に遡る。


  シアによるレインとルーナの抜き打ちチェックから二週間。

  シアの衝撃的な発言を受けたレインとルーナはこれまでよりも更に鍛錬に重きを置いていた。


  特にルーナに至っては暇さえあれば魔法の練習をし、たった二週間で基礎魔力量を1000も上げる始末だ。


  本来、基礎魔力量を100上げるのにも、最低でも一週間は有し、更に言えば基礎魔力量はその量が増えれば増えるほどそこから増やすのが困難になるのだ。

 よって熟練の魔法士となれば、基礎魔力量を上げるよりも魔法の練度を上げる方が時間がかからないのでそちらを選択するのが常識であった。


 しかしその倍の二週間で1000も上げるという何とも異常な速度で成長するルーナに本格的に抜かれそうになると冷や汗をかき始めたシアは現実逃避の為にレインに癒しを求め、現在に至る訳だ。


  斯く言うレインもルーナに感化され、一層剣の鍛錬に力を入れ始め、今では剣の腕だけではシアをも凌駕する程になっていた。


  そんな息子達の成長に嬉しさと寂しさを抱えるシアは置いていかれるのを恐れてか、最近隠れて魔法や剣の鍛錬を密かにしているのだが、それはまた別の話…。


  兎にも角にも、シアは行き場の無い寂しさを埋めるためにレインに対して過度なスキンシップをする様になり、冒頭に戻る。


  いつもならそんな光景を見ただけで顔を真っ赤にして怒りを露わにする少女がいるのだが今はいないようだ。



 ◇◇◇


  「ふぅ…」


  ルーナの眼前には夥しいほどの魔獣や魔物の死骸と、血塗られた木々、血糊がべっとりとへばりつき赤黒く変色した地面。


  そして皮膚の焼け爛れた匂いと鼻腔を劈くような酷い死臭が漂う“地獄”をこの世に憑依させた様な何とも悲惨な光景が広がっていた。


  その中一人ポツンと佇む黒い世界にとても映える白髪の少女は肩で息をしながら虚空を眺めていた。


  「はぁ…はぁ… っ、疲れたぁ〜」


  ふとポツリと言葉を漏らすとそのまま天を仰ぐ形でバタりと背中から地面に倒れ込んだ。




  二時間前、魔法の鍛錬に行ってくると言いシアとレインを家に置いて家を飛び出し、ルーナは森の奥深くに潜りに行った。


  森の深部に辿り着くと、おもむろに魔力を身体中からボウッと解き放ち、まるで自分がここに居るぞと何かに知らせるように掌から拳大の火球を生み出すと、一直線に立つ一本の巨木に向かって放った。


  ボン!という破裂音を立てて肉薄した火球によって木のど真ん中に大穴を穿つと、火球は勢いを失い消滅した。


  すると、森自体の空気が変わり、ザワザワと木々が唸り声を上げだしたかと思った瞬間、ルーナの眼前を何かの影が通り過ぎた。


  視認するのも難しいほど素早い動きでルーナの前を通り過ぎた“何か”はヒュンッ!!という風切り音を奏でながらそのままルーナの背後に着地した。


  見ればルーナの服の端が少し切り裂かれている。


  どうやら高速で動くため、自分の周りに鎌鼬を起こしているようだ。


  ルーナは警戒を怠らず、しかし悠然にゆっくりと後ろを振り向く。


  そこには体長約三メートルの全身を黒い体毛で覆った血のような赤々とした目をギラつかせながらルーナの事を炯眼する虎を連想させる大きな魔物がいた。


 


  その赤々と輝く瞳はルーナの事を捕食対象としてしか見ていないようでその視線は食物連鎖の頂点に君臨する人間が当てられることの無い“喰われる”という恐怖をへばり付かせた"捕食者"のそれだった。


  そんな一般人ならその瞳で射られただけで気を失い、心臓の鼓動を止めてしまうだろう恐怖に対し、まるで巨木の如く平然とするルーナは腕を虎型の魔物に突き出すと、先程木を穿った魔法“火球(フレア)”を繰り出した。


  ボウッ!と先程よりも魔力が込められているのか、幾分か威力の上がった火球を自身に放たれた虎型の魔物はひらりと半身を翻すことで躱してしまう。


  しかしそれを読んでいた様に火球は躱された瞬間ボフッ!と爆ぜると火の粉が放射線状に散らばり、その火の粉の一つ一つが合成し合い、計十本の炎の弾丸に変わる。


  その炎の弾丸はその場で凄まじい回転をし出すと、まるで拳銃から放たれたように一つ一つが虎型の魔物に向かって突撃し始めた。


  これはルーナの独自(オリジナリティ)魔法(マジック)である。


  魔法の中でも比較的扱いやすく習得にも簡単な火球(フレア)に風の魔力を注ぎ込むことで自ら暴発し、そのエネルギーを使い、十本の炎の弾丸に姿を変え、風の魔力の力で発生したその場から発射させるというものだ。


  ルーナは弾丸(バレット)と読んでおり、これの凄みは炎だけでなく他の属性の魔力を使うことでその属性の弾丸を作れるという所にある。


  風の魔法風刃(ウィンド)では炎よりも早い速度の"風の弾丸"を作り出すことだでき、土の魔法土砂(サンド)では炎よりもより小さな"砂の弾丸"を作ることが出来たりと、非常に汎用性が良いためルーナは良くこの魔法を使っていた。


  今回は全身を体毛で覆っている魔物なので、風刃より、炎で一気に葬ってしまう方が先決と考え、火球を使い、炎の弾丸を作り出したのだ。


  まさか躱した魔法が姿を変え再び自分に襲いかかってくるとは思ってもいなかった虎型の魔物は一瞬反応が遅れてしまう。


  その隙を見逃すルーナではない。炎の弾丸に気を取られている虎型の魔物に対し、風刃を放つと、背後からザクりと血飛沫が上がった。


 グォォォォォォォォ!!!!!


  突然の痛みに声を荒らげるがもはや時すでに遅し。眼前にまで迫る炎の弾丸が、風刃を受け死に体となった虎型の魔物の頭部、腹部、四肢に被弾し体をビクリと震わせたかと思うとそのままバタりと音を立て倒れ込む。


  アルクールの森の中でも上位に位置する虎型の魔物"タイラント"をものの数秒で打ち倒してしたルーナは先の戦闘を振り返り、思わず歯噛みをする。


  「もっと、火球を大きくできれば弾丸を使わずとも狩ることが出来た…。 それにお母さまと比べると発動にかかる時間もまだまだ…。こんな事では駄目だ、もっと頑張らなきゃ、もっともっと……」


  反省と無力な自分への罵倒をしている自身の周りに多数の気配を感じ、先の事は一旦忘れようと頭を振りそこに視線をやったルーナは、タイラントと戦う前に行ったように大量の魔力を集めると、次々に魔法を繰り出し、自分を取り囲む様に見ている魔物を駆逐し始めた……。




  そして二時間が経ち、ルーナの周りは地獄絵図になっ た。


  二時間、魔法をノンストップで放ち、魔物達と命のやり取りをしていたルーナは魔力を酷使し過ぎた倦怠感と、戦闘が終わり張り詰めていた緊張感が途切れつい気を抜いてしまう。


  その時、ルーナの背後に何かの影がある事に気が付く。


 次の瞬間、何処からやって来たのか体長一メートル程の小型の狼の様な魔物がルーナの首を噛み切ろうと大口を開けて突進してきた。


  普段のルーナであれば敵に背後を取られるなど有り得ない。


  しかし、今のルーナは二時間もの戦闘で酷く疲弊しているのだ。


  「っ!!!!」


  咄嗟に回避しようとするルーナだが、思いの外魔力を消費していた様で凄まじい倦怠感により反応が鈍ってしまう。


  その隙を許すほどアルクールの森の魔物は甘くない。


  狼型の魔物は回避しようと体を起き上がらせ、後に引こうとするルーナに向かって更に足を踏み込ませ跳躍してきた。


  眼前まで迫ってくる狼型の魔物に思わず、ルーナは目を瞑ってしまう。


 ザクりと肉を断つ音が聞こえ鮮血が舞い上がる。


  生暖かい液体が自らの頬に掛かり自分が傷を負ったと思われたルーナだが痛みの全くない事に不思議に思いゆっくりと目を開ける。


  「全く、気を抜きすぎだぞ」


  ふと聞き慣れた、そして聞くだけで心に火が灯る"最愛の人"の少し怒気の含まれた声にビクリと体を震わせたルーナはそこに居る人物に対し、驚きを隠せないでいた。


  「お、お兄さま?」





  そこには、使い慣れた木刀で狼型の魔物の首を断ち切り、その血糊を払う仕草をする兄、レインがいた。




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