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龍に育てられた兄妹は龍に教えられた術で世界を謳歌するそうです  作者: 欲しい灯油
序章 『龍』に育てられた兄妹
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3話 ルーナの才能

 ルーナの事を忘れ、雑談に花を咲かせていたレインとその母親(名を『シア』という)がその傍らで膨れるルーナをどうどうと宥めるが、頬を赤らめたルーナは「ぷんぷん」という可愛らしい効果音を上げながら二人のことをキッと睨んでいた。


「はぁ、もう許してくれよ……」

「そうよ、もう貴方を放ったらかしにはしないから」

「いーえ、許しません! お母さまはともかくお兄さまは絶対に許してあげるものですか!」


 ルーナは未だに二人(特にレイン)を睨んだまま、ぷいっと顔を背けて足元の石をころころと転がしていた。おかんむりのようだ。

  中でも特にレインに対しての怒りが大きい。


 それもそのはず、世界で一番大好きなお兄さまに無視されたのだ。ルーナはレインの事を『愛している』のでそんな相手に無視されたらどんな者でも卑屈になってしまうだろう。

 

 故に――


「も、もしどうしても許して欲しいというなら考えてあげなくもないですよ?」


 もじもじと体をクネクネさせながら上目遣いでレインの瞳をじっと見つめるルーナ。


「はぁ〜。分かったよ。何すればいいんだ?」


「ふふふ……。じゃ、じゃあ、お兄さまからルーナのほっぺにチュウしてください!」


 キャっと顔を手で覆うと「言っちゃった、言っちゃった」といいながらさっきよりも体をクネクネさせて手の隙間からレインのことをチラチラと見るルーナ。


 そんななんとも可愛らしい仕草をする妹をレインは呆れた様に肩を竦めて、ジト目で見ていた。


 ルーナを周りとした空間が桃色に色づく様子をシアは微笑ましそうにニコニコしながら見ており、その視線はレインに 「ちゃんとしてあげなさい」と語っている様であった。


「……はぁ。分かったよ」


 そう言うとレインはルーナに近づき、手で覆い隠しているその赤く染まった頬に軽く口付けをした。


「っ!」


 チュッと軽い口付けを済ますとレインは 「これでいいだろ」と言わんばかりの視線をルーナに送った。

 そんな我儘を兄に強要した妹と言えば……


「はわ、はわわわ……。お兄さまからのキス… …はぁうっ♡! んんぅぅっ♡! はぁはぁはぁ…… お、おにいしゃまぁ〜♡」


 恍惚とした表情で頻りに下半身をモジモジしながらレインのことをトロンとした目で齢八歳とは思えないほど色気の漂う熱で上気した体を自らの腕で抱え、息を荒くしながらじっと見つめていた……。


「……はぁ、妹が変態だ……。どうしたものか……」

「ふふ、可愛らしくていいじゃない。それにこんなにお兄ちゃんの事が大好きな妹早々いないわよ?」 「まぁ、ルーナが俺の事を慕ってくれてるのは嬉しいが流石にこれはなぁ……」


 レイン十歳。妹に愛され過ぎてお困りです……。




 ◇◇◇


 ルーナの大暴走から少し時が経ち、ようやく落ち着いたルーナは濡れて少しスースーする下着を気にしながら当初の目的である『母親(シア)による抜き打ちチェック』に挑む意識を再度持ち直した。


「さぁ、ルーナもういいわよね?」

「はい、お母さま。お待たせ致しましたぁ」

「ふふ、気にしなくていいわよ。ルーナが嬉しそうで何よりよ」

「えへへー、お兄さまからの激励も貰ったのでルーナ、頑張っちゃいますよ!!」

「うんうん、その意気その意気。じゃあ始めちゃってー」

「はい!」


 大きな声で返事をしたルーナは先程のレインと同じように腕を前に突き出すと、目を閉じ意識を集中し始めた……。


 レインの時のようにルーナの周りの空気が震えだし、地面が揺れだしたと同時にルーナの体が白銀に輝き出した。

  そしてその光はルーナの周りの明るく照らし、なんとも言い難い幻想的な光景を作り出した。


 純白の髪の少女から放たれる白銀の光はまるで夜空に輝く巨大な月の様で見る者を優しい光で包む暖かい光でもあった。


「ほぅ、流石だな」

「そうねぇ、やっぱりルーナの魔法適性は天性の才能ね。ここまで魔力を自由に扱うことが出来る者を私は数人しか知らないわ。

 それにそれを成しているのがこの歳なんだから。末恐ろしいわねぇ」

「へぇー、母さんにそこまで言わせるのか。やっぱり凄いな、ルーナは」

「ええ、貴方の妹は凄いのよ〜。まぁ、私の方が凄いけどね」


  自信満々にそんな事を言うシアだったが内心では冷や汗をかいていた。


(まさか、ここまでとはね。魔法を教えだしてから物凄いスピードで成長していったものだけど()()()()辿り着くまでに僅か数年しか経っていないのだから本当に恐ろしいわね。全くこの子達は『何なの』かしらねぇ)


  シアは自分の『子供達』に対してほんの少し畏怖の念を持ったのであった。



 糸が切れるようにフッと魔力を解いたルーナは多少肩で息をしながら自分の事を見つめる兄と母親に目を向けると、そこ向かって一目散に駆け出した。


「どうでした?結構がんばったのですが」

「そうねぇ、ルーナの基礎魔力量は約十五万くらいかしらねぇ」

  「!? っ!」

「おー、俺より五万も高い。凄いなー」

「十五万ですか……。お兄さまと五万しか違わない……。まだまだ頑張らなきゃ……」

「あら? なんでとてつもない数字なのに嬉しそうじゃないのかしら。寧ろ凹んでるし。どうしたの?」


 途轍もない数値を叩き出したルーナだが、それでは納得が行かないのか顔を俯かせてしまう。


「だってだって、お兄さまとたった五万しか違わないのですよ!? ルーナは剣はからっきしなので魔法で頑張るしかないのに、その魔法ですらお兄さまと大差ないなんて……、やっぱりルーナには才能が無いのですか……」


 八歳の少女からは想像の出来ないほどの悲痛な表情で自分には才能がないと言うルーナにシアはどうしてそこまでと頭を悩ませる。


「うーん、確かにレインは剣が得意で魔法も使える異質な存在だけど、ルーナの魔法の才能はきっとこの世界で一、二を争うほどよ? そんなに落ち込むことないと思うけど」

「それではだめなのです!!」

「あら、どうして?」


 普段マイペースでいつもどこか抜けているルーナからら想像出来ない程強い口調にビクリとしたシアだか直ぐに気を取り直し、今尚顔を俯かせる『娘』に母親らしい優しい口調でその理由を聞こうとする。

 

「そ、それは、お兄さまとの約束があるから……」

「約束? レイン。その約束って?」


  不意に『約束』という単語が出てきて、首を傾げたシアはその傍らにいるレインに問う。


「あー、えっとー、まだ内緒。もっと俺達が強くなったら言うよ」

「あら、それは気になるけど。まぁ、いいわ。それよりルーナは自信を持ちなさい。だって才能ならお母さんよりあるんだから」


 約束について話す気が無いのかレインはやんわりとシアの質問を受け流す。

 それで余計に気になってしまったが可愛い息子と娘の秘密なら無理やり問い質すのは無粋と思ったシアはそれよりも今ルーナに対して思っている率直な感想を言った。


  「「!?」」


 そんな何気無いシアの言葉は、二人にとっては途轍もないほど衝撃的な言葉だった。


 何故ならレインとルーナに剣と魔法を教えたのはシアだったからだ。今よりも幼い頃のレインはシアの使う魔法を見て言葉を失うほど衝撃を受けた。

 それもその筈、幼い少年にとって母親が何も無いところから火や水、光や風を生み出す姿は想像もできないだろう。


 それを見たレインは 「おかーさん、なにそれ!?すごーい!? どうやったの!?ねえ、どうやったの!? 教えて! 教えて!」という何とも幼子らしい初々しい反応を示し、それを見たシアが顔をトロントロンにしたのも、まだそれ程遠く無い記憶である。


 それはルーナも同じく、魔法を見た反応はレイン同様に衝撃と母親への尊敬だった。

 それから時が経ちレインは剣を、ルーナは魔法を母親に教えてもらい、何時しか互いに互いの鍛錬を真似するようになり、今に至るのだ。

 故に二人にとってシアは母親でもあり、剣と魔法の師匠でも有るのだ。

 また、これも最近になって分かるようになったのだが、レインとルーナは互いに剣と魔法でその年では考えられない程の高みに立つほど成長し、人や獣などのある程度の実力を計ることが可能になったのだ。

 しかし、そんな中でも母親のシアはその力の底が見えないのである。

 二人にとっての『最強』とは母親であるシアなのだ。


 その母親が実力でなくとも、才能では自分の上を行くと言ったのだ。

 レインは勿論のこと、ルーナに至っては衝撃の余り目が飛び出してしまうのでは……くらいに目をひん剥いている。


「お、お母さま。それは本当ですか!?」

「ええ、本当よ。第一、おかあさんが貴方達に嘘ついたことある?」

「「無い(な) (ですぅ)」」

「そうでしょ? だからルーナ。自信を持ちなさい」

「は、はい! 頑張ります!」


 シアの衝撃の発言に少し呆けていたルーナだが自分の母親が自分と兄に対して嘘をついたことが無いのを思い出してその言葉が真実であると分かると、自分を元気づけるためにも今ここでその事を言ってくれたであろう母親の優しさに感謝しつつ、母親の激励を受け、自分を責めるのは止めようと決意する。


「ふふ、いつかお母さんを抜くぐらい強くなってね」「はい!」

「流石ルーナだな。俺も頑張るか」

「はい、お兄さま! 『約束』の為にもっともっと強くなりましょうね!」

「ああ、そうだな」

「二人の『約束』が何分からないけど強くなるならこの森の魔獣は全部倒せるくらいにはならなきゃね、頑張るのよ」

「「はい!」」



 今日もアルクールの森に、元気な少年少女の声が鳴り響くのだった。



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