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縁の下ソルジャーズ緊急出動!  作者: 宗谷 圭
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 クエスチョン。

 追い詰められて巨大化した怪人と、正義のヒーローが乗り込んだ巨大ロボットが市街地戦を繰り広げ、街に甚大な被害が出ました。街に住む人々が元の生活を取り戻すまでに、どれだけの時間がかかるでしょうか?

 尚、死人や重症者は奇跡的に出なかったものとします。



# # #



「トチ狂ってますよね。これだけ派手に広範囲にわたってぶっ壊れた街を、五日以内に元通りに直せって」

 辺りの大きなゴミを片付けながら、初瀬誠はため息を吐いた。

「仕方ないさ。これやったの、半分は身内だしなー。それに、皆が一秒でも早く元の生活に戻れた方が、絶対良いだろ? それを可能にする技術があるなら、そりゃあやらない手は無いってな」

「それはまぁ、そうなんですけど……」

 先輩の言葉に不承不承頷き、誠は足下に転がっている焦げた人形を拾い上げた。子どもが遊ぶような人形ではなく、棚などに飾っておく類の人形だ。

「あぁ、それは〝復元〟対象っぽいな」

 頷き、誠は人形を先輩に手渡した。先輩は人形を持ったまま歩きだし、今まで彼らがゴミを片付けていた一角の中央へと赴く。そこには、ゴミと瓦礫が文字通り山となって積まれていた。

 子どもであれば、ちょっとした登山気分を味わえそうな程には高く積み上がっているそれに人形を加え、標高を少しだけ高くする。そして辺りを見渡し、ゴミや瓦礫が粗方片付いているのを確認すると、先輩はのびをして「よしっ!」と頷いた。

「こんなところだな。じゃあ初瀬、始めるぞ」

「はい」

 頷き、誠は先輩と共に踵を返した。少し歩いた先には、「大きい」という言葉では表現しきれないほど大きな重機が停まっている。ジャンボジェットよりは小さいが、世界一大きいと言われるトラクターを五台合体させたぐらいの大きさはある。狭い日本の都会区域に、よくもまぁこんな大きな重機を格納する事ができたものだ。

 先輩は運転席に乗り込むと周囲の安全確認をぬかりなく行い、よし、よし、と一々声掛けしていく。その間に誠も助手席に着き、シートベルトを着用した。

 いくつものロックを解除し、何本ものキーを差し込んでは回す。キーは束にはなっておらず、個別管理だ。束ごと盗まれでもしたら、大変な事になる。

 エンジンがかかり、爆音が辺りに響いた。震動と共に機体が次第に浮き上がり、あっという間に十五メートルほどの高さまで高度を上げた。

 先輩は鮮やかな手付きで、次々といくつものスイッチを入れ、レバーを動かしていく。機体は積み上げられた瓦礫の山の上まで移動し、四方に向かってアンカーのような物を射出した。

 アンカーはある程度まで飛ぶと宙でその動きを停止し、落ちる事無くその場に留まる。そして、それぞれが黄緑色の光線らしき物を発射した。それらは網のように繋がり、編み込まれていく。

 いつしか、瓦礫の山を中心点として、とある一角は完全に黄緑色の光線によるネットに覆われた形となっていた。

「逆行を開始します」

「了解。周囲の安全確認良し。搭乗員の安全装備良し。確認完了。逆行を開始しても問題ありません」

「了解。逆行開始」

 誠の言葉に先輩が頷き、そしていくつかのスイッチをパチパチと切り替えていく。ウィームムブブブヴヴヴムブヴムンンン……という言葉で表現しきれない唸り声のような重低音が聞こえだした。

 黄緑色のネットに覆われた内側が、薄らと……次第に激しく発光し始める。

 そして、一分と経たないうちに不思議な現象が起こり始めた。……いや、誠達のようにこの作業に携わっている者には、何も不思議な事では無い。仕組みはちゃんと頭に叩き込まれている。だが、まったく関わりの無い者からすれば、不思議で仕方が無い光景だろう。

 山と積まれていた瓦礫が、寄り集まり、ある物はくっつき、ある物は削れていた角が鋭く整えられていく。そこに人はいない。瓦礫達はひとりでに宙に浮き、動き、形を変えていく。

 瓦礫の山は、数分と経たずに一軒の家へと姿を変えた。上空にいる誠には見えないが、家の中には家具が所狭しと並び、テレビの画面がちらちらと明滅している。テレビの横には、先ほど誠が拾った人形が飾られている。焦げていた筈だが、今は焦げていない。綺麗な人形だ。

 ……信じられないかもしれないが。この重機を使用すると、あの黄緑色のネットで覆われた部分の時間が逆行する。だからこうして、巨大化した怪人、もしくは戦士達が操縦するロボットに壊されてしまった家も、元通りに戻す事ができるのだ。

 ……と言っても、その場にある物が何でも時を取り戻すのかと言ったら、そういうわけでもない。完全に壊される直前の状態に戻るのではないのだ。

 この近辺――怪人と戦士達の戦場に何故かなりやすい地域に住む人々は、予め住居のデータを届け出て、重機内のシステムに登録している。

 データは写真に平面図、立面図、動画等も含めて、多種多様。住人が自分自身でそれらを作成して届け出るわけではなく、申請すれば専門の人間が現地に出向いて必要なデータをありったけ掻き集めていく。ベッドの下のエロ本までしっかりとデータに残していくのだ。恐ろしい。

 そして、その時のデータを元にして、重機はネットで覆った範囲の時間を逆行させる。小まめにデータを更新していれば、その分最新に近い状態に家を戻す事ができる。

 だが、あまりに小まめな更新を行うには人材が不足しているため、基本的に一度更新したら一年は更新する事ができない。だからこの辺りの住人は、新しい家具を買いたくなった時には更新可能な時期まで我慢をするのだと聞く。

 勿論、データがあって破壊された時間を戻せるとは言え、逆行できる範囲には限りがある。アンカーが延びる限界が、一度に逆行できる範囲の限界だ。

 決して広くは無い範囲を次々に逆行させていく。携わる者達は常にフル回転だ。

 そして上は、どれだけ壊されていようとも、全てを五日以内に作業を完了するように、と言う。現場を知らない者の無茶としか取れないが、一応理由はある。

 まず第一に、人々に一秒でも早く元の生活を取り戻させたいから。迅速にやらねば世論がうるさいというのもある。

 第二に、壊れたままにしておくと、どんどん仕事が溜まるから。今週の仕事は、今週のうちに終わらせておきたい。

 第三に、壊れた建物を残しておくと、街が荒廃しやすい。治安維持のためにも、建物はすぐに直したい。

 第四に、すぐに直してみせる事で、敵組織に意思を見せ付けるため。どれだけ破壊されようとも決して屈せず、何度でも立ち上がってみせるという意思を。

 それは良いのだが、やはり五日で全てを元に戻せというのはやや厳しい。戦士達に怪人を倒された敵組織が、新たな作戦と戦力を整えて襲い掛かってくるまでにそれだけの時間しか無いのだから仕方が無いと言えば仕方が無いが。

 そんなわけで、サービス残業当たり前、定時帰宅って何だっけ? という悲惨な状況に追い込まれても尚働き続ける彼らの頑張りによって、街は壊されても壊されても、すぐに元の姿を取り戻す。

 だからこそ、人々は危険と隣り合わせながらも何だかんだで便の良いこの大都会に住み続け、戦士達は心置きなく怪人達と戦えるのだった。

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