ウサギとの死闘
やり返す、とは言ったものの正直決め手がない。
小火矢と小火弾は避けられているし闇魔法の小闇弾も似たようなものだろう。
唯一使えそうなのは火魔法LV.3で覚えた小火鞭くらいか……それも当てるのは難しそうだが。
逆にウサギも俺の小火輪を突破できないようなので完全に千日手というやつである。
しかしこのウサギは何故逃げないんだろう。
負けはしないけど勝てないこの状況は普通の野性動物なら諦めて逃げるんじゃないだろうか。
……魔物だけど。
でも魔物でもそこら辺は変わらなそうなんだが……まあいいか、俺には都合がいいんだし。
少しウサギの行動が不可解だが頭を切り替えて考える。
こういう「当たらなければ意味はないのだよ」って相手は範囲攻撃でマップごと吹き飛ばすのが定石だよね、たぶん。
でも範囲魔法って言っても俺が2体入ったら手狭になる程度の大きさしかないんだよな。
まあ「小」って入ってるし仕方ないんだろうけどさ。
うーん、何も思いつかん……。
小説の主人公ってなんであんなポンポン妙案が思いつくんだろ、すごいな。
必死に考えながら魔法を撃ちまくっていると、それまで避けるのに徹していたウサギが俺を飛び越えてきた。
冷静に振り返ろうとした瞬間、嫌な予感が体を動かし反射的に転がる。
--ズバァ
空気を裂く音と共に火を蹴り割ってウサギが飛び込んできた。
反応できたとはいえ避けきれず、その淡く輝く脚が肩を掠め抉る。
--うっぐぅ。
泣き喚きたいくらいに痛いが、今そんなことをしたら死ぬことくらい猿でもわかる。
痛みを我慢……というより戦闘に集中して意識から切り離すようにしながら魔法をばらまく。
当たらないのは実証済みだけれど、スキルを使う余裕を与えないことが重要だ。
逃げなかったのは火を突破できる自信があったから……俺に都合は全然良くなかった。
むしろ最悪だ。
どうする?
どうすればいい?
今のスキル構成なら何ができる?
◇◇
しばらく俺が魔法を連打しウサギがそれを避けるという膠着状態が続いていたが、それが破れるときがやってきた。
いくら回復量が多いとはいえ、無茶な魔法行使に俺のMPが残り少なくなってきたのだ。
弾幕が薄くなってきたのを見てとったウサギが再び飛び込もうと構える。
次の瞬間、またウサギが火を割る蹴りを放つのが見えた。
--きたっ!
跳んでくるウサギ目掛けて小火輪に隠していた、伸ばして糸のように細くなった小火鞭を網状にしたものをぶつける。
威力は皆無だし触れられたら一秒も保たないが、気を引くためだからどうでもいい。
網に触れ空中で一瞬硬直したウサギに向かって、勘に任せるままに紅い光を刃状に纏わせた尻尾を叩きつける。
尻尾が千切れ飛んでいくが集中しきっているのか痛みはない。
ウサギは体を捻って避けたのか、左前足を失っているが戦意は衰えず俺を怒り狂った目で睨んでくる。
まあ赤目でよくわからないがたぶん怒り狂っているんだろう。
怒りを表すように足を踏み鳴らしているからな。
これで魔力もほとんどないし相手を怒らせただけで完全に万事休す……と言ったところだが俺は賭けに勝った。
ウサギの踏み出した足がふらつく。
怒りのままに俺に向かって跳んできたが、力が足りず目の前にべチャリと落ちた。
その目には戸惑いが浮かんでいたように思う。
そこに俺の小火弾が襲いかかりウサギはついに倒れた。
◇◇
結局難しい戦法は何も思いつかなかった俺は、カウンターで魔法か魔刃を叩き込むくらいしかできることがなかった。
そこで何故魔刃を選んだかと言えば、毒付与ができるかもしれなかったから。
できるかどうかもわからなかったし、ウサギの耐性にもよる大博打だったがカウンターが避けられたときの保険が欲しかった。
正直穴だらけの作戦……というか作戦にもなっていないけど毒は効いたようだ。
たぶん怒って地団駄踏んだのも毒が回るのを助けたんじゃないかと思う。
--でもまあ、そんなことはともかく……勝ったぞおお!
初の激闘を勝ったんだから喜ぶのくらい許されるよね。
戦闘描写難しいです。次はもうちょっと頑張ります。